第128話 新型船
「魔王さん!魔王さん!応答して欲しいッス!」
「なんだよ、勇者。厄介事か?」
「厄介事じゃないッス、俺達そっちに里帰りしたいッス」
「そっちは上手く行ってないのか?」
「上手くいってるッス。でもね・・・食物が・・・」
「あ~成程な」
勇者は今アルガルド帝国に嫁と一緒に住んでいるのだ。帰るときに調味料は沢山置いて来たのだが多分和食が食いたくなってきたのだろうな。何故か異世界に来ても味噌汁やタクワンが食いたくなってくる気持ちは良く分かった。どういう訳かパンは幾ら食べても腹がすぐ減るのだ、食った気がしないのだ。米の方が重いせいでは無いと思う、パンを食べる時には牛乳やスープをたくさん摂ってるからな。
「和食が食べたいんだろ?味噌汁とか牛丼とか」
「違うっす!インスタントラーメンが無性に食べたいッス!あの九州限定のやつ!」
「あ~あれな。あれは幾ら頑張ってもこっちでは再現は無理だわ、諦めろ」
「だから帰るっす!そっちに里帰りして魔王さんに沢山出して貰うッス」
どうやら勇者はジャンクフードが食べたくてこっちに帰ってくる様だ、まあ俺も話し相手が出来て嬉しいから里帰りは大歓迎だ。それにあっちの帝国に嫁の領地が有るので発展させなければいけないのだ。マーガレットの領地は辺境に有るので結構広い領土だし、マーガレットがナイトに任命したトランザムの領土も結構広いのだ、やはり近いうちにトランザムの身内を大量に連れて帝国に行かないといけない様だ。
「じゃあさ、こっちから行くわ。新型の船がもう直ぐ出来るから港で待っていてくれ。多分1週間位でそっちに着くと思う」
「マジっすか!嫁と一緒に迎えに行くっすよ。港町で良いっすか?」
「ああ頼むぞ、それとイザベラの親族とマーガレットの領地開発に人を連れて行くから馬車を用意しておいてくれ、多分50人位だと思う」
船や飛行船や道路を造っていても俺はやることが無くて暇だったのだ。俺はタダの人間だから力も弱いしそもそも現場の仕事はキツイから嫌なのだ、学生時代に力仕事のバイトばかりしていたから今更力仕事をする気もないし、一応魔王なので魔王城でこれからの計画なんぞを立てていたのだ。
「皆さんしゅ~ご~!集まって下さい!」
俺の嫁達がゾロゾロ集まってくる、最近暇なので料理ばかり作っていたら嫁達が魔王城の俺の部屋に集まってきたのだ。まあそれに俺の世話係のサキュバス達も居るので俺の部屋は女だらけなのだ。
「どうしたのだ魔王?新作料理でも造ったのか?」
「料理では有りません、旅行のお知らせです。来週船でアルガルド帝国に行きます。行きたい人は用意をして下さい。なおマーガレットとトランザムは強制参加です!領地に人を運びますからね」
「あっ!領地の事をすっかり忘れてた~!」
「やっと私の領地を魔改造出来るわ!」
自分が男爵なのを完全に忘れていたマーガレットと貴族に執着心の有るトランザムの反応が全く真逆だった。トランザムは魔導師の国に行って有志を集めていた様だがマーガレットは魔族の国で完全に遊び惚けていたからな。
「来週新型の船が出来ますからそれで行く予定です。期間は1週間を予定しています」
帝国に行くのは結局マーガレットとトランザムだけになってしまった。シルフィーネは飛行船の準備で忙しいみたいだし、ミーシャは船作りで忙しい。サキュバス達は海が苦手なので留守番になってしまった。まあアルガルド帝国自体には見るものも無いのでしょうがない。それに実際は腕輪ちゃんが加わるので嫁3人と新婚旅行って感じだ。
「うむ、順調だな」
「早いな、それに揺れないな」
今俺達は新型船の上にいる、スクリュー装備の新型線は速度は人力なので大した事はなかった。魔族が頑張ってペダルを漕いでも精々一軸当たり20馬力程度の2軸スクリューなので最大速度は10ノット程度だ。しかし目的地に一直線線に進める事と人員の交代で24時間進めるので既存の船の4倍以上の移動力を誇っていた、また航海時間の短縮によって積み込む水や食料の減少により更に対費用効果が高かった。ざっと計算すると既存の船の6倍の儲けが出るのだ。つまり皆この船を欲しがる訳だ。
「皆この船を欲しがってるみたいだな」
「そりゃあそうだろうな、でもな俺たちみたいには上手く行かないぞ」
「何故?」
「だって俺が魔王だから魔物に襲われないだけだし、魔族がペダルを漕いでるから24時間進めてるだけだぞ。多分人間達なら俺達の半分位の性能だと思うぞ」
「へ~、やっぱり魔王の一人勝ちなのか」
嫁のマーガレットが感心した様だ。早い話がこの船を完全に運用出来るのは魔族だけなのだ。人間達にも高値で売って儲ける予定だが彼等が思ってるほど儲かることは無いだろう、それでも既存の船の3倍位の儲けは出るだろうから満足はするだろう。
以前勇者と旅をした時は1ヶ月掛かった船旅も僅か6日で終わった。全長30メートル程度の小型船だが低重心でスタビライザーまで付けたので安定性もあって揺れも少なくて快適だった。まあ俺はデカイ船が好きなのでその内6万トン超の戦艦を造る夢は有るが自重しておこう。造っても戦う相手が居ないから無駄になるからな。
「お~、凄い出迎えが来てるぞ魔王!」
「本当だな、勇者の奴が集めたみたいだな!」
新型船を見物に来た連中と、大陸を救った英雄である賢者とその嫁が来ると言うので帝国の港には大勢の人達が並んでいた。俺達の船の出迎えに多くの船が出てきて新型船の周りに集まって来ている。オールも帆も無い船が進んでいるのが不思議なのか興味深々な顔でこっちを見ている。
「野郎ども!良いとこ見せるぞ。全速前進!」
「「「「「グオ~!!!!」」」」
折角の晴れ舞台なのでペダルを漕いでいる魔族に気合を入れてもらう。この船の実力を見せるいい機会だからな。良いところを見せてこの国にも船を売りつけてやろうかな。
こうして賢者を乗せた船は大観衆の待つアルガルド帝国の港へと入って行った。勿論周りに居た歓迎の船たちを軽々と引き離す高速で。