第126話 熱気球
さて今度は熱気球を使った輸送実験だ。熱気球の原理は簡単空気を温めるだけ、でもそれだけじゃ風に流されて何処に行くのか分からない所が欠点だ。そこで役に立つのが風魔法だな、風魔法で人工的に風を起こして好きな方向へ進めるわけだ。ヘリウムを作れれば硬式飛行船が出来るのだがヘリウムを作る魔法は無いので熱気球に落ち着いた訳だ。
実験場は俺が以前造ったコロシアムで行う事にする、空を飛ぶのが珍しいのか4天王が全員付いて来た。4天王の中で飛べるのは2人だけだ、ドラゴン族のシルフィーネと4天王筆頭のオルフェイスが自力で飛べる、他の2人は空は飛べない。根性で少し浮くのが精一杯だそうだ。
「オルフェイス、気球は熱に強い素材で作ったのか?弱いと温めた空気で溶けちゃうぞ」
「大丈夫です魔王さま、アラクネの糸で編んでおります。魔力を含んだ糸ですので鉄と同じ位の強度で尚且つ羽の様に軽い素材でございます」
「へ~、アラクネってスゲ~な。何か褒美を出さないといけないな」
「それは良い事ですな。アラクネは役に立つ奴ですから」
アラクネは普段は森の中で狩りをしている攻撃的な肉食魔獣だ。体が蜘蛛で上に美女の体が付いている魔物なんだが、俺は彼女が苦手だった。苦手というより怖かったのだ、なにせ俺は元の世界では蜘蛛が苦手だったのだ。手のひらサイズの蜘蛛でも近づけないのに軽自動車サイズの蜘蛛が近づいて来たら気絶する自信があるくらい苦手だったのだ、オマケにアラクネは足が8本有るので高速移動が得意で俺が走って逃げても逃げ切るのは無理そうなのだ。
「シルフィーネ、サラマンダーの準備は良いか?」
「はい魔王様、サラマンダーは死ぬまで火を出し続ける様に命令致しております」
「そんなに火を出すと迷惑だからな!高度100メートルを保つ様に火を出させるのだシルフィーネ!」
「・・・はい・・・」
シルフィーネは脳筋なので手加減が下手なのだ、何でも全力でやるので注意が必要なのだな。俺の嫁の中でも一番強くて融通が効かない不器用な奴だ。魔族最強なのは凄いのだが欠点も豪快な女なのだ。
「移動用の魔族はどうだ?」
「風魔法が得意なハービーを待機させております!死ぬ気で風を起こす様に言いつけております!」
「迷惑だからな!速度が出過ぎると壊れるからな!大体馬が走る位の速度で良いから!」
「・・・はい・・・」
シルフィーネはションボリしているが熱気球なんて耐久力が皆無なので直ぐに壊れるのだ、おまけに空中で壊れると大惨事になるので慎重にテストをする必要がある。魔族の技術レベルが低い理由が少し解った様な気がした。こいつらは何でも力任せにやろうとするので失敗するようだ、俺よりも単細胞で力任せなのだな。
「よ~し、テスト開始。サラマンダーは空気を温めてくれ」
しぼんだ大型風船に温めた空気を入れてもらう。しぼんでいた気球が段々膨らんで大きくなって来ると、周りに居た連中が騒ぎ出す。一応説明しておいたが、直径10mの気球が膨らむのは中々の見ものだ。気球が膨らんでくると風に流されやすくなるので、ゴンドラの部分にロープを付けて動かないように重量級魔族に抑えて貰っている。コロシアムの中だから風の影響はあまりないが屋外の風の強い日は大変そうだな。
「魔王様、凄く大きく成ってますね」
「うむ、直径10メートルだからデカいぞ。でもな、大きくて大変な割には輸送力は大した事無いんだ」
「そうなんですか?」
「そうなんだ・・」
「では何故これを作るのですか?」
「空を飛ぶのは人間のロマンだからだ。シルフィーネ達みたいに飛べる魔族には分からんよ」
充分膨らんで直立してきたのでテスト開始だ。どうしても空を飛んでみたいバルトが乗る事になった。事故で空から落ちるかも知れないので空を飛べる魔族に乗ってもらおうとしたのだが、100メートル位なら落ちても平気らしいので本人の希望通りにテストパイロットになってもらう事にした。
「バルト、乗り込め。サラマンダーは火力を上げろ!ロープを緩めて空に上げろ!」
熱気球がノロノロと浮いてゆく、バルトが重すぎて浮くのがやっとの様だ。軽い魔族にすれば良かったのだが、かえってこの気球の最大積載量が分かって良かったかも知れないな。後でバルトの体重を測って於けば良いな。
「おお~!浮いている!」
周りの魔族からは歓声が上がっているが、空を飛べる連中は微妙な顔をしていた。わざわざ大きな手間をかけてやっと空中に浮かぶだけというのに納得いかない様だ。まあ気持ちは分かる、空を飛べない俺達はこうでもしないと空を飛ぶことは出来ないのだ。
微妙な顔をしている連中とは裏腹にテストパイロットのバルトは嬉しそうだ。何時も怖い顔をしている奴が大笑いしている。まあ笑った顔も怖いのだが、怒っているよりは怖くないな。
「魔王殿。凄いものを作りましたな!」
「あれ?南の王様?」
何故か南の王様が俺の隣に居た。聞けば俺の国に定期的に遊びに来ているのだそうだ。俺の作った大衆浴場とレストランが目当てで毎月来ているらしい。後で部下に聞いたところでは、本当はサキュバスがやってる居酒屋のファンで、サキュバス目当てで来ていると報告が有ったのだが、そこは触れないでおくのが大人の対応って奴だな。
「空を飛べる魔道具ですか?」
「まあそんな物だな。テストが終わったら人や物を運ぶ予定だ。南の国にも行かせようか?」
「金を払えば乗せてもらえるのですか?」
「勿論だ、だが高いぞ。余り載せられないからな」
「金なら幾らでも払う!儂も空を飛んでみたい!」
これを作るのは大変なのだ。アラクネの糸で作っているので人間が作るのは無理だし、万が一造っても天文学的な値段になる。それに積載量を稼ぐためにこれを5基連結して運用する予定なので、製作費は単純に5倍掛かる。早い話が魔族にしか出来ないのだ。
その後テストで南の王様を乗せてやったら感動していた。その場で飛行船が完成した場合には魔族の国と南の国に定期的に飛行船を飛ばす事になった。飛行船なら今まで馬車で馬車で5日程かかって居た旅を半日で済ませる事が出来るからだ、金で時間を買うって事だな。まあ料金が高いのだが、馬や護衛を雇う費用からすれば金貨1枚位なら返って安いので乗る者は多いだろうと南の王様は教えてくれた。
こうして海上輸送、陸上輸送、空中輸送の準備は着々と進んでいった。最初は皆に反発されるかと思ったが、4天王達は大喜びで計画を進めて行っていた。皆儲かるからな。そして周辺国も反発するどころか偉く協力的なのが意外だった。道路工事や港等も南の国や西の国等が積極的に行って居た、国の景気対策なのだそうだ。予算は兵士の経費削減で捻出しているのだそうだ。元々は魔族との戦争様に兵士を沢山雇っていたが、魔族と戦争しても勝ち目が全然無いので諦めて最低限度の兵にしたので予算が余ったのだそうだ。
まあ俺としても戦争なんて面倒だからしたくないの結構な事だと思う。