第120話 神殿
サキュバス達に美味しいお好み焼きの作り方と隠し味のカレー粉の使い方等を教えていたら魔道士の長老が走ってきた。
「はあ、はあ、ぜ~ぜ~・・・魔王様!・・・ぜ~・・準備が整いました・・・」
「まあ水でも呑んで落ち着けよ長老」
心臓麻痺で死なれると世間体が悪いので水を飲ませて少し休ませる。年寄りの癖に走ってくるとは余程急いでいるのだろう。普段の長老とは明らかにテンションが違う。
「魔王様こちらへ・・・どうぞ」
そしてヨロヨロ歩く長老に連れられて行った所が神殿だった。禍々しい黒と赤で出来た巨大な建造物だ。普通神殿だったら白色で清潔感があったり神々しい感じを前面に押し出すハズなのに全然違う、見る者を威圧する感じなのだ。そして神殿正面に馬鹿でかい銅像が建っていた、それも2体。
「長老・・これもしかして・・・」
「はい!高笑いしているのが魔王様で慈悲深く笑っておられるのがマーガレット様です!」
俺とは全然似てない5m位の男が高笑いしている銅像が俺の正面にあった。実物より悪そうな顔をして頭からは角が生えてるし、第一俺はあんなに大きな口を開けて笑ったりしない。そして俺の隣にはケロベロスに乗ったマーガレットが柔かに笑っている銅像が鎮座していた。こっちは相当美化されている様だ、胸なんか増量中だった。
「似てないじゃん!凄く悪そうじゃん!」
「私の方はそっくりだな!」
長老に文句を言おうとしたが魔道士の街の住民が集まって大騒ぎを始めたので文句も言えなかった。俺とマーガレットは住民の上に持ち上げられて運ばれ出したのだ。くそ!帝国の時と同じだ、また乗り物酔いしてしまう。俺は3半器官が弱いのに~また運ばれてしまう・・・・。
ーーーーわっしょい!わっしょい!わっしょい!ーーーーー
「やめろ馬鹿共!シルフィーネ!竜化しろ!魔力全開だ!」
「はい!魔王様!」
俺が住民に運ばれているのを見ていたシルフィーネが突然龍化する、180センチの美女が2メートルを超える魔神に変化し周囲に魔力を撒き散らす。普段は小さな2本の角が66センチの長さになり金色の瞳は青白く輝き出す、そしてフルパワーのシルフーネは全身からプラズマを出し青白く発光している。そしてシルフィーネのフルパワーは古龍に匹敵する恐怖と威圧感を与えるのだ。
俺を運んでいたご機嫌な住民達は恐怖で神殿の周りから逃げ出した。もう神殿の周りは悲鳴を上げて逃げ惑う住民で収集がつかなくなってしまった。俺は運んでいた住民に捨てられて、石畳の上で落とされた痛みに耐えて丸まっていたが乗り物酔から解放されたのでほっとしていた。上から石畳に落とされる位、乗り物酔いから比べればなんでもないからな。
「ありがとうシルフィーネ助かったよ」
「あの~・・魔王様?・・・いかがされました?お気に召さなかったのでしょうか?」
「当たり前だ!俺は運ばれるのが大嫌いなんだよ!」
「申し訳ございません、お怒りを御鎮め下さい」
魔導士達には俺の裏の顔を見せた事が無いので俺の事を軽く見ていた様だ。まあ魔王のくせにフラフラとしている俺が悪いのだがそろそろ俺の本気を見せておかねば示しが付かない事態になりそうだった。どうなるかと言うと、魔王や魔族を甘く見た勢力が出来上がり、暴走して戦闘が始まるのだ。そうなると俺としても放置出来ないので魔導士や魔女を殲滅する事になるのだな。敵に回すと恐ろしいので生かしておくわけには行かないのだ。
「シルフィーネ!銅像を吹き飛ばせ」
「はい、魔王様」
シルフィーネの龍眼が一瞬光ったと思ったら彫像は粉々になり、地面に大穴が開いていた。これを見た魔道士の長老は青くなりガタガタ震えだした。シルフィーネが魔族最強なのは広く知られているが、攻撃する姿を見た者は居ないのだ、全て死んでいるからな。魔道士の長老は無詠唱で上級破壊魔法を使うシルフィーネの実力を初めて理解したようだ。そしてシルフィーネは俺が命令すれば魔道士達を眉一つ動かさずに虐殺して見せるだろう、元々魔族は自分たち以外の生物は下等生物と思っているのだ。
俺の気さくな感じと礼儀正しさを勘違いしていた事に気がついた長老は土下座をして謝罪を始めた。魔道士達1万人は俺の好意でここに住んでいるだけの存在なのだ、そして俺は魔道士の部下ではない。支配者なのだ。
「お静まり下さい魔王様!」
「シルフィーネ!次は神殿だ」
「はい、魔王様」
突如として右手に現れた龍槍ゲイボルクは既に全力運転に入って周囲に甲高い音を撒き散らしていた。そしてシルフィーネから放たれたゲイボルクは一瞬で神殿をガレキの山に変えた。
「お許し下さい魔王様、私が間違っていました。魔王様のご好意で生きてるだけの存在なのを忘れておりました」
「やっと気がついたのか長老、俺を玩具にする気なら皆殺しだぞ」
その後長老と話し合い(と言うか一方的に命令して)魔道士の街と俺の街に石畳の道を作る事で許してやった。ついでに格安でドワーフ経由の石畳の道も請け負わせたのだ。
「やり方がえぐいな、魔王」
「まあな」
「あれ位で丁度言いと思いますわ、魔王様は優しすぎます」
人間で有るマーガレットから見ると脅迫に見えるのだろうが、魔族で有るシルフィーネからすると当たり前に見える様だ。ここら辺がこの大陸の難しい所だ。種族によって価値観がバラバラなのだ、どこの種族も暴発しないようにバランスをとるのが難しいのだ。
「旦那!やりすぎだ。長老たちが泣いてたぞ」
「なんだトランザムか、生きてるだけありがたく思えよ」
「何でだ?魔王達の為に神殿建たんだぞ!」
どうも嫁達は俺が怒り出したことが理解出来てない様だった。仕方無いので丁寧に説明することにした。
「あの神殿はな俺を敬う為じゃ無いんだトランザム。あれは俺を利用して魔道士の地位を引き上げる為に造ったものだぞ。そしてその後は魔道士が俺の後ろ盾を利用してドンドン増長して周りから孤立して今以上に悲惨に成る元凶だぞ」
「そんな・・・」
「俺も利用されて笑う訳には行かないから、魔道士と魔族の全面戦争になるぞ。宗教ってのはそんなものなんだぞトランザム。異論は一切認めないからな、だから今の内に壊したんだ」
「そうだったのか・・機嫌が悪かったのかと思った・・」
「それにな、貴族になって喜んでるみたいだけど、お前は魔王婦人だから貴族でも上の方だぞ。なにせ王妃だからな」
「え~そうだったのか。下級貴族で喜んでる私は馬鹿だったのか」
「まあ・・そうだな。趣味で帝国の貴族をするくらいで丁度良いと思うぞ」
貴族の事は良くわからないが、貴族の一番下のナイトよりも王様の嫁の方が偉いと思うな・・多分。