第117話 魔王の国
自分が王だった事を思い出した俺は自分の街を見に行くことにした。俺は魔王になって1年位になるが未だに自分が魔族の王という自覚がなかった。なにせ自分の力で勝ち取って無いので実感も実力も無いのだ。それにここ半年は魔王が嫌で隣の大陸に逃げ出す位のA級バックラーなのだ、俺は。今回は何となく連れ返されたが多分その内逃げ出すのは確実だと思う。
「我が夫よ、何するのだ?」
「自分の街の巡回だな、問題点が有れば改善しないといけないからな」
「マーガレット、魔王様はこの街をとても綺麗で住みよい街にしてくれたのですよ」
「何だか随分綺麗な街だな、花や木が一杯有っていい匂いがする。街中が全部石畳ってのも凄いな」
そうだ俺の街は大陸一綺麗な街を目指して作られたのだ。以前はほかの街と同じように乱雑で不潔な街だったが、戦後で俺の発言力が強いうちに強権を発動して無理やり石畳にして公園とトイレを作り、浮浪児や乞食を動員して街を綺麗にしたのだ。お陰で今では他の国の連中が見学に来る程の街になったのだ。そしてこれを造る為に戦争で儲けた金を全部使って俺は貧乏になった訳だ。
「お~屋台が有る!魔王食いたいぞ!」
「よし、奢ってやろう」
「串焼き3本頂戴、1本は辛口で」
「魔王さんお久しぶりです。1本サービスしときますね!」
「おう、悪いな。はい1000万円!」
「それじゃお釣り、400万円!」
ジャージを着てブラブラ歩いて公園に着いた俺は屋台で買い食いだ。俺の造った公園にはトイレとベンチが必ず有るのだ。何故なら屋台で買い食いする為だ、まあ俺の趣味だな。屋台のタレは俺が開発したし、従業員は獣人か孤児なので全部俺の顔見知りなのだ、彼らが儲かると俺も少し儲かるのだ。タレや肉を屋台の組合に卸しているからな。
「お~!旨いなこれ。私の領地にも公園と屋台が欲しいな。毎日食べに行くぞ」
「帰ったら作ろうぜ、お前の領地だから好き放題だぞ」
「ホホホ、マーガレットの領地が帝国の中心になるのも直ぐですわね」
「そうだな、魔族や魔道士達の海外出張先になるな。まあ帝国からしたら迷惑な場所に成るのは間違いないと思う。古龍達の憩いの場でも有るしな」
帝国からすれば前回の古龍事件で王や貴族の絶対支配は既に壊れてしまったのだ。そして帝国で一番強い発言権を持つのは何故か俺だし、既に公爵のイザベラと男爵のマーガレットはこっちの側なのだ。帝国の1割程は既に俺の手に有るのだ。まあこれ以上取るつもりは無いけどな、後は交易でもして持続的に金を稼げば十分だ、国民の不満は貴族や王族に押し付けて俺は美味しい所だけを食べるのだ。
「他に面白いところは無いのか?」
「居酒屋とか公衆浴場、外にはコロシアムとか有るぞ。あとは・・・映画館かな」
「ふふ、映画館は連日満員ですわよ。いまだにコロシアムの試合が人気ですわ」
コロシアムで闘技大会をした時に記録した映像や俺が魔力変換したDVDを映画館や居酒屋に貸出して商売しているのだ。もとは野外に設置したプロジェクターの有効利用の為だったが人気が出たので映画館を作ったのだ、その内に古龍の王都決戦も上映しようと思っているのだ。
嫁2人と歩いていても全然デートって感じがしない。素晴らしいスタイルと綺麗な顔なんだが女らしさが全然無いからな。もしかして服装が悪いのか?ジャージの上下のせいか?・・・・違うな・・サキュバス達はジャージの上下でも色っぽいからな。
「えい!」
「わ!なんだいきなり。やりたいのか?」
「あらまあ、魔王様。人前ですよ」
全然色気が無いのでマーガレットの胸を鷲掴みしてみた。やはり反応が露骨だ、色っぽくなくてがっかりだ。シルフィーネの胸は怖くて触れない、まだ死にたく無いからな。
「そう言えばシルフィーネ、魔族の国や周りの国はどうなってるんだ?」
「変わりありませんね、平和そのもの。戦争の気配は全くありません」
「そうか、じゃあこっちも領地の生産力を上げる時期だな」
半年前の武闘大会で魔族の国の強さを見せたので人間の国は俺達の国相手に戦争をする気は全く無くなった様だ。戦争に回す金を産業に回しだしたので人間たちも繁栄しだした様だ、俺の国との取引もかなり増えてるらしい。戦闘狂の4天王もバルトは畜産、オルカは酒造りシルフィーネは輸送、オルフェウスはサービス産業を起こして儲かってる様だ。
「ふ~ん、皆上手くやってるな。・・・・・」
「駄目ですよ魔王様!居なくなってもイイかな、とか考えてますね!」
「嫌だな~、シルフィーネを置いていったりしないよ。行く時は一緒だよ」
「それなら良いです。何処にでもお供します。勇者が居ませんから私が護衛です」
成程それで最近シルフィーネは風呂も一緒に入る様になってきたのか。嫁で護衛なんだな、男の護衛より綺麗で嬉しいけど内緒話が出来ないのが辛い。
「さて、城に帰るぞ」
「晩飯は何だ?魔王」
「涼しくなったから、よせ鍋でもやるか」
「魔王様・・私・・・」
「わかってるって、シルフィーネには激辛の鍋を造ってやる。材料買って帰るぞ」
その日の晩飯は鍋だった。サキュバス達には美容と健康に良い新鮮な寄せ鍋、シルフィーネにはニンニクと唐辛子が大量に入った真っ赤な鍋を造ってやった。
「魔王!おかわり!」
「大丈夫かマーガレット、お前3杯目だぞ!」
「いや~幾らでも食えるな。この鍋!」
「「「魔王様これ美味しいです」」」
「凄い!カレーより美味しい!」
流石に鍋、全員に受けたな。色々な物が中に入ってるし味を変えた鍋を4種類程造ったので全員の好みに合ったようだ。中身は一緒でも味付け次第で簡単に印象が変わる鍋はこの季節には丁度良い。ただしシルフィーネ用の鍋は彼女以外は誰にも食えない毒の様な鍋なんだな、近くに居るだけで目が痛くなるような特別使用だ。美味しさの余り感動したシルフィーネにキスされたが、俺の唇が腫れる程の破壊力が有るのだ。