第115話 帰還
「では達者で暮らせよ」
古龍の背中に乗って帰る俺達を子供達が見送っていた。古龍達も何だか寂しそうだった、まあ古龍だから寂しくなったら直ぐに会いに来るだろうな、オマケにジジババだからお土産が凄い事になりそうだな。マーガレットの領地は古龍の加護付きになったから天災や疫病に罹らないチート仕様の土地になったのだ。この土地だけは古龍が滅びるまで豊かな土地であり続けるのだ。で肝心のマーガレットは領地のこと等完全に忘れて俺の隣に居るのだ、夫婦は一緒に居るのが当然なのだそうだ。
「ふんふんふ~ん!」
「楽しそうだなマーガレット」
「当たり前だ、見た事もない大陸に行くのだろう?私は海外旅行は初めてなのだ」
そう言えば海の向こうだから海外になるな、変な所に気がつく奴だ。そうしたらやっぱりパスポートとか作ったほうが良いのかな?何でパスポートとかビザとか有るんだろうな?犯罪避け?帰ったらミーシャやオルフェウスに聞いてみよう。身分証明書を作ると相手の国も安心するし俺も儲かりそうだしな。
「魔王よ、城の前の庭で良いか?」
「ああ、ありがとう長老。落ち着いたら又遊びに行くよ」
「うむ、今回も面白かったぞ。千年程若返った気がするぞ」
巨大な古龍が魔王城の上を旋回している。魔族の住民も慌てて家の中に逃げ込んでいる、街の外に逃げ出している者までいる様だ。古龍が俺の知り合いと知っていてもブレスの恐怖から、古龍を見ると自然と逃げ出す様だ。まあ気持ちは分かるな、気まぐれでブレスしそうな連中だからな。
魔王城の前庭は広いとは言え、長老の巨体では1頭が着地する広さしかない。そこで長老だけが庭に着地して俺達を降ろしてくれた。出迎えは俺の4天王達だけだった、他の連中は怖くて隠れているみたいだったな。
「よおオルフェウス!久しぶりだな、元気だったか?」
「魔王様お帰りなさいませ。魔族の国は至って平和でございます」
「長老様、魔王様を連れて帰って頂き本当にありがとうございます」
「気にするな面白かったぞ!又魔王が逃げたら言うが良い。また儂等全員で追いかけてやろう」
「????面白かった・・・」
言うだけ言ったら古龍は何処かに飛んでいってしまった。俺は向こうでの事を4天王におもしろ可笑しく話してやったら大喜びしてたな。かなり話を盛ったのが受けるコツだな、ここら辺はなろう小説で覚えたのだ、現実を無視して話を作ると受けるのだ。
「所で魔王様、見かけないご婦人がいらっしゃる様ですが?どなた様でしょう?」
「おう、こいつはマーガレット。俺の嫁だ、宜しくな」
「ひえ~!!!!嫁!・・ま・・ま・・ま・魔王様の嫁!」
「私はマーガレット!魔王の第1婦人だ。魔王が世話になってる様だな、私共々よろしく頼む」
「ワハハハ~!しかしデカイ城だな!魔王は金持ちだったのか!早く言えよ」
「金持ってないぞ俺、家が大きいだけだ」
「そうなのか?では私が養ってやるから安心しろ、男爵になったから旦那位養えるはずだ」
高笑いしているマーガレットを置いて他の嫁たちはさっさと俺の部屋に上がっていった。勝手知ったるなんとやらだな、皆俺の部屋に入り浸ってる連中だから俺よりこの城に詳しいのだ。それに全員俺の部屋にフリーパスなんだ、可笑しいだろ俺は魔王なのにセキュリティがゼロなんだぜ。
「なあオルフェウス、俺の城ってセキュリティが無いよな。俺が襲われたらどうすんの?」
「はあ?魔王様を襲う・・・?何処にそんな無謀な奴がいるのです?」
「魔族を突破して城に入れても、地獄の番犬ケルベロス、サキュバス多数、短気なトランザムに恐怖の化身シルフィーネが部屋にいるのですよ。1万人の軍隊でも魔王様に触れられませんよ、そして万が一魔王様に何かあったら魔族、ドワーフ族、魔道士、獣人国、古龍が参戦して来て大陸中が火の海になります」
「そりゃまた大変だな」
「魔王様も少しは自覚して下さい、この大陸の中心なのですから」
「はあ・・すいません」
オルフェウスに叱られた俺はトボトボと部屋に帰った、俺の部屋なのに俺の居場所がないのだ。サキュバス達だけでも一杯居るのに今はドワーフの王女ミーシャが俺のお気に入りの革のソファーにふんぞり返って座っているし、サキュバス達は嫁達の土産話で盛り上がっていた。トランザムは多分キッチンででつまみ食いだ。
「ふっ、虚しいぜ・・・・」
俺はギターを弾いて悲しい気分を紛らわせようとした、俺の弾くギターの悲しみが分かったサキュバス達は憐れむ様な目で俺を見ていた・・・・俺の弾くギターの曲の悲しさに気がついた・・・訳ね~よな。
「悪かったな下手で!ああ、全然上手くならね~よ!」
俺は逆ギレしてやった。そら早く俺を慰めるのだ「そんな事ありませんわ魔王様、随分うまくなりましたよ!」って言えよ!俺はその言葉を待っているのだ。
「ワハハハ~!本当に下手くそだな!魔王!」
「うへ~!」
マーガレットの言葉に気絶しそうになった俺は俺が唯一出来る事をする為にキッチンにいった。俺の居場所はここなのだ、キッチンこそ俺が唯一輝ける場なのだ。
「魔王様私は辛いものが食べたいですわ」
「へいへ~い、キンピラね」
「私は甘い卵焼きが良いです」
「はいは~い」
「私は汁気の有る物が」
「私は腹に貯まるものが・・・」
「喜んで~!」
結局トンカツ定食に落ち着いた。味噌汁と卵焼きと激辛のキンピラの付いたやつだ。勿論俺が作ってるとサキュバスが見に来て真似して作り出すのだ。俺の料理を覚えるのだそうだ、だが甘い!俺は千の料理を知っているのだサキュバス如きに負けるわけにはいかんのだ。
「魔王は魔王で居るのが勿体無いのじゃ。料理人なら毎日食べに行くのにな!」
「本当ですわね、毎日魔王様の味噌汁が飲みたいです」
「カレーも美味しいですが、このキンピラと言う奴も中々の辛さですわ!」
「ふっ!」又褒められてしまった、俺って料理の天才なんじゃなかろうか。ギターは皆がいない時にコッソリ弾くようにしようと思った。