第112話 式典
~わっしょい!わっしょい!わっしょい!~
今俺たちは神輿に乗せられて運ばれている、熱狂した群衆が俺たちを神輿に乗せて王都中をグルグル回っているのだ。神輿を担いでいる中には王や上級貴族も混ざっていた。心の底からの眩いばかりの笑顔で俺たちの乗った神輿を担いでいるのだ。
「うえ~、気持ちワリ~。ひで~乗り心地だな」
「そうか?私は楽しいぞ」
乗り物酔いする俺にとっては地獄より辛い時間だったが、他の連中は平気らしい。何時もなら頭に来て怒り出す所だが乗り物酔いで気力を根こそぎ持って行かれた俺は只耐えるだけだった。
「必ず・・・必ず仕返ししてやるぞ。王都の住民め~・・・・う~気持ちわり~・・・」
この瞬間に来年古龍が又王都を襲撃する事が決まった。題名は逆襲の古龍なのだ、今晩から早速小説を書いて王都の連中を小説の中でイジメテやるのだ。
30分か1時間か分からないが、神輿が目的地に着いたようだ、やっと揺れが収まった。俺は目をつぶってひたすら耐え続けたのだ、途中で飛び降りたかったが1ミリも動けない位に酷い乗り物酔いだった、この酷い苦しみから逃れられるなら今直ぐに死にたいくらいの苦しみだった。
「英雄殿バンザ~イ!、我らの英雄を讃えよ~!!!!」
王都の阿呆共が大騒ぎをしているが、こっちはそれどころじゃ無かった。頭を少しでも動かせば吐いてしまうのでピクリとも動かずに床に寝ていたのだ、回復魔法の使い手の勇者も魔力切れで俺と同じく床にべったりへばりついて動かなかった。周りで大声で喜んでいる群衆の声が聞こえる度に頭がガンガンした。
「今より王都を救って下された勇者並びに賢者様を称える記念式典を行う!」
王が高らかに宣言し、住民達は狂喜乱舞、大声で俺達の名前を連呼し踊りを踊っているものまでいた。俺と勇者は嫁達に無理やり起こされ青い顔をしてフラフラしながら立っていた。王や貴族は次々に賞賛の言葉を掛けてきているがこちらはソレドコロジャ無いのだ。気持ち悪いのだ、今にも吐きそうだ。早く自分の部屋に篭って寝たいのだ。色々言われた様な気がするが全然聞いて無かった。吐けば少しだけ楽になれるのだが朝から何も食べてないので胃液しか出ないのだ。
「辺境伯イザベラ卿、汝をアルガルド帝国公爵に任ずる!」
「はっ!ありがたき幸せ」
「マーガレット子爵、汝をアルガルド帝国男爵に任ずる!」
「はい!謹んでお受けいたします」
「聖女サキ殿、汝をアルガルド帝国第1聖女に任ずる!」
「ありがとうございます」
「勇者サトウ殿、アルガルド帝国親衛隊団長に任ずる!」
「嫌っす!」
「賢者殿、アルガルド帝国相談役筆頭に任ずる!」
「嫌だ」
うお~!ばんざ~い!アルガルド帝国ばんざ~い!
俺と勇者は断ったのに完璧にスルーされた。この会場の熱気から誰も断ると思ってなかったので、誰も俺達の台詞を聞いて無いのだ。つまり俺達に選択権は無かったって訳だな。その後も延々と帝国の偉い奴らが出てきて俺達を賞賛していった。1時間くらい経った頃、俺は乗り物酔いから回復して勇者も魔力切れから普通に動ける様になってきた。そうすると段々帝国の阿呆共の玩具にされているのに腹が立って来たのだのだ。泣き喚いて祈ることしか出来ない腰抜けが偉そうに俺に色々言っているのが気に食わない訳だ、せめて戦う気概ぐらいは見せるのが人の上に立つ人間の最低限の義務だからな。それが出来ないのにその立場に居るのは国に寄生してるだけの寄生虫か害虫なのだ。俺は最低の魔王だが魔族の国の為に戦って来たのだ。
「魔王さん、どうしたっすか?」
「魔王様?お静まり下さいませ」
気がついたら俺は王の所へ歩いて行っていた。完全に臨戦態勢の俺は銃の傍に右手をブラブラさせて動く者が居れば撃つ気満々だ。部屋の空気は一気に10度程下がり貴族共は俺に道を開ける、俺の前に立ちふさがる者は誰も居ない。誰も死神の前には立ちたくない様だ。
「賢者殿?・・・・」
「おいお前、調子に乗るなよ」
俺は親しげに王の肩に手を回して、逃げ出さない様に捕まえて耳元で囁いた。
「俺は疲れてるんだよ、分かるか?・・いい加減に止めないと皆殺しにするぞ」
「ひっ!・・気が付きませんでした。申し訳有りません!」
王は俺に土下座してペコペコして謝っていた。身近に死を感じて怖かったのだろうな。周りに居た貴族連中も一緒に土下座して涙を流して命乞いを始めた。式典のはずが何やら違う儀式になってしまった。俺は悪くない、乗り物酔いが悪いのだ。
「茶番は終わりだ!お前ら早く帰れ!俺は腹が減ったから帰る」
俺が大声で怒鳴ったら部屋の連中は全員逃げ出した。古龍に襲われた時以上の速度で逃げ出していた様な気がするのは気のせいだと思いたい。誰も部屋に居なくなったので俺たちは宿屋に帰れる様になった。
「腹減ったから帰るぞ」
「うむ、実は私も腹が減っていたのだ」
「式典よりも昼飯か・・・魔王にとって帝国は昼飯以下なのだな・・・」
ため息をついているイザベラを連れて俺達は宿屋に帰る、シルフィーネ達も腹を減らして待ってるはずだ早く帰らねば後が怖いのだ、俺には古龍より怖い嫁達がいるのだ。