第11話 戦後
東の軍勢と西の軍勢を追い払った俺達魔族は一応平和な状態になった。勿論次の戦争が起こるまでの平和でしかない。永遠に平和が続くとかタダで平和が貰えると考える程俺は阿保では無かった。次は戦争回避の為に色々手を打たなくてはならない事は良くわかっていた。だが今日くらいは戦勝祝いで浮かれても良いだろうと思う、これで俺が殺される確率が少し減ったのだ。こいつら魔族に殺されたくなかったら自分の有益性を売り込むしかないからな。
「オルフェウス、戦勝祝いをしようじゃないか。」
「それは良い考えですな、皆喜びます。」
「勲章の用意もしておいてくれ、その場で俺が渡す。」
そして盛大な戦勝祝いが行われた、戦闘に参加した魔族全員に鉄製の戦闘記章を渡した。これは実戦をした証拠になるので魔族全員が喜んだ。ただのボタンみたいな物だが持って無い者には優越感を抱けるという点で有益な玩具だった。そして今回の功労者、東の軍勢の食料と睡眠を奪った夜の部隊50人に銅の勲章を与えた。今まで下位に見られていた彼らは大層喜び俺に忠誠を誓った。良しよし、これで俺にも味方が出来た様だ、殺されそうになったら彼らを頼る事にしよう。次に西の軍勢をドラゴンを使って遅らせた功労者、風のシルフィーネにも銅の勲章を渡した。4天王でただ一人勲章を貰えた事で彼女は大喜びだった。また味方が増えた様だ。4天王を分断しておくのは大切な事だ、まとまって反乱なんか起こされたら俺が死んでしまうのだ、俺は4天王なんかも信じていなかったのだ。俺は自分に好意を持ってくれる魔族を作る事から始めたのだ、魔族の金を使って。
「魔王様、宴は大成功でしたな。皆喜んでいました。」
「それは良かった、バルトが勲章よこせって言うかと思ったが言わなかったな。意外だ。」
「楽な戦いでしたから、今回の人間たちは弱っていて相手に成りませんでしたから。」
「それじゃあ俺は城塞の中を見て来るよ、その後は周りの国の事を教えてくれオルフェウス。」
「分りました、周りの国の資料を作ります。」
俺はメイドの牛族の女の子を連れて城塞の中を見て回った。魔王城の中と魔王の部屋しか知らないので、魔族の街や、住んでる人達の事を知りたかったのだ。考えてみれば何も知らない状態で良く撃退出来たものだと思う、多分運が良かっただけだと思う。それと魔族が強い上に魔王の命令をよく聞いてくれたお陰だな。これが意見がバラバラの種族なら人間たちに酷い目に会わされていただろうな。
「へ~これが魔族の街か、初めて見た。沢山住んでるんだな。」
「この街には1万人位住んでるそうですよ。魔王様。」
「商売してる奴もいるな、屋台も有るのか人間と余り変わらないな。」
「この街の地下に住んでいる魔族もいますよ、日光が嫌いな魔族の人達です。」
「ふ~ん、アルは何してたんだ?」
「私は牛族ですから、牛の世話をしてました。牛乳や牛肉を作る仕事です。」
「そうか、それで牛乳を届けに魔王城に来たんだな。」
「はい。」
昨日から俺の専属メイドにしたアルと城塞都市の中を見学している。牛族は戦闘力が低いので魔族の中の地位は低いそうだ、それで下働きばかりで貧しいらしい。戦闘力ばかりあっても戦争位しか役に立たないのだが魔族の考えをいきなり変えるのは多分無理だろうなと思う。でもまあ変えられる処から変えて行こう、生産性を向上させて俺は楽がしたいのだ。屋台で何か食べたかったが俺は金を持って無いので諦めて魔王城に帰った。そう言えば誰が俺に給料くれるんだ?
「オルフェウス、ただいま。質問が有るけど良いか?」
「どうぞ魔王さま。」
「俺の給料ってどうなってるんだ?少しは金が欲しいのだが。」
「魔王様の給料とか聞いた事が有りません。因みに私達も有りませんな。」
「まじか。無給で働いてるのかお前ら。」
「我々は皆領地を貰ってますから、そこで食料や資金を調達してます。魔王様は各領地から上前をハネル形になりますな。」
「という事は、お前たちが豊かになれば俺も豊かに成るという事か?」
「そうです。」
「そうか!では開発に力を入れなくてはならないな。先ずは生産して取引先の確保だ!」
俺は金が欲しかった、屋台でアルと何か食べたかったのだ。魔王の宝物庫は先代の馬鹿魔王のせいで空っぽだったのだ。食い物は城で無料で食べられるから今の所は困らないが、城で働いている者達にも給料を払わなくてはならないので何か考えなくてはならなかった。
「オルフェウス。東の国に賠償金を払わせろ!俺達の国に攻め入った罰だ。払わないならドラゴンで街を焼き払うと言っておけ!」
「分りました魔王様。流石は魔王様容赦有りませんな。」
「分捕った金の分け前は皆にも渡すから頑張れ。」
「そうだ魔王様、隣のドワーフ族から戦勝祝いが届いていますぞ。使者も来ていますがどういたしますか?」
「直ぐに会う、俺の部屋に通してくれ。」
俺はウキウキだった、戦勝祝いだから金かもしれん、屋台で何か食えるかも知れないのだ。ドワーフ族万歳!良い奴に違いない。部屋で少し待っているとドワーフ族がやって来た。背は低いがとても力が有りそうな身体つきをしていた。やはり髭が生えてるのはお約束だった。
「魔王様、戦の勝利おめでとうございます。ドワーフ族の戦勝祝いを持って参りました。」
「わざわざありがとう、気を使わせて悪いね。」
ドワーフ族が持って来てくれたのは金属と宝石だった。金が有ったので売ったら儲かるかも知れない。俺は有難く頂くことにした。今回の戦争でもドワーフ族は俺達に兵を向けて来なかったので彼らとは仲良くしたいのだ。彼らもまた人間嫌いの種族だった。理由は人族は数が増えて来るとドワーフ族の領土を荒らしに来るのだそうだ。それから彼らと色々話しをしてみたら彼らは山に住んでる為に食料が乏しいのだそうだ。これを利用して彼らを味方に付ける作戦を行う事にした。
「ねえ、魔族の領地で畑しないか?」
「魔族の領地で畑ですか?」
「場所は貸すからそっちが畑を耕してくれ、出来た作物の2割をこっちにくれたら良いよ。」
「本当ですか、2割で良いなら喜んで契約いたします。ドワーフ族は山に住んでますので平原の畑は助かります。」
そして俺は魔族とドワーフ族の国境の境目に有った魔王の領地をドワーフ族に貸し出した。これで一円にもならなかった土地は作物を生んでくれる俺の財産になった。と同時にドワーフと俺の友好関係も出来上がったのだ。