第108話 イザベラの憂鬱
毎日王都を見物して酒場で盛り上がるのにも飽きた俺達はそろそろ古龍と戦う事にした。俺達が居ると古龍が来ないので王都の連中は凄く喜んでいるのだ。呑みに行けば店主や客が喜んで奢ってくれたし、金は王や貴族が全部払ってくれた。店主は俺達が行くと店が流行りだすので金を一切受け取らなかった。まあ聖女が行けば男共がゾロゾロ付いてくるので大儲け間違いなしだったがな。そして俺達が街を歩けば街の住民は俺達に向かって祈るのだった。
「あっ!神の使徒様だ!」
「この国の守り神様だ!」
「何だかエライ事になってるな」
「エロい事なら得意なんですが・・」
聖女のサキちゃんはこの所絶好調なのだ、聖女のコスプレも気に入った様でキラキラした笑顔で住民達を元気付けていた。マーガレットは槍がお気に入りで毎日磨いていた、勇者夫婦は暗い顔をしていた。古龍のジジババ達もそろそろ温泉に飽きてきてるハズなので丁度良いだろう。
「おいイザベラ、そろそろ討伐に行こうぜ。王都見物も飽きたしな!」
「うう~、私は胃が痛い。罪悪感で死にそうだ・・・・・」
「なんで?皆喜んでるぞ。ほら今も俺達に手を合わせて祈ってるじゃん」
「貴様というやつは~、帝国を恐怖のどん底に落として自分は毎日タダで飲み食いしおって~!」
「魔王さんは魔族の国でも鬼畜って言われてたッス。桁外れに汚いッス・・」
「余計な事言うなよ!まるで俺が悪人みたいじゃ無いか!」
「貴様本気で言っているのか!う~胃が痛い」
何なんだろうな俺の何処が悪いんだ?どん底の恐怖に怯えている住民に希望を与え、この国を古龍から救おうとしてるのにな~?変な事を言う奴だ。まあ良いや、見解の相違って奴だ、人間の数だけ考えが有るのだ、個人の思想は自由だからな!俺の嫁たちは喜んでいたから平気だしな。特に喜んでいたのがサキちゃんとトランザムだ、毎日酒場で歌ったり踊ったりしてお客さんから拍手やお捻りを貰って大喜びだったな。ミーシャやシルフィーネも酒場から持って帰った料理を食べてご満悦だったしな。思わず目的を忘れて遊びまわってた事は内緒だ。仕方ないな人間だもの。
今は王の城に向かってブラブラ歩いている所だ、明日ドラゴン退治に行くので挨拶をしておこうと思ったのだ、俺は礼儀正しい人間だから王様には敬意を払うのだ。
「魔王さん王様にタカリに行くんすか?」
「人聞きの悪いことを言うなよ。俺は礼儀正しい賢者だからドラゴン討伐の挨拶に行くんだよ!」
「う~、胃が痛い!」
王の城も勿論フリーパスだ、兵士たちは整列して俺達に敬意を表している。俺が黒幕ってバレたら凄い事になりそうだ、ワクワクしちゃうぜ。まあバレなければ良いだけだけどな。
「良く参った勇者達よ!望みが有るなら何でも言うが良い。全て叶えてやろう」
「ありがとうございます、皇帝陛下。今日はドラゴン討伐のご挨拶に参っただけでございます」
帝王に挨拶するのはイザベラに任せている、何と言ってもイザベラはこの帝国の辺境伯なのだ、チームの中でも一番地位が高いのだ。マーガレットは子爵にしてもらったが下から2番目の貴族なので余り偉くないのだ。因みに辺境伯は伯爵の一つ上の階級なので結構偉かった。
「なんと!ではいよいよ準備が出来たのか。これは目出度い!今夜は激励会じゃ!」
「いえいえ、今夜は明日の準備が有ります故我々だけで過ごしたいと存じます」
「何と奥ゆかしい!儂は感動したぞ!ドラゴンを見事討伐致したならそなたは公爵に任ずる!」
罪悪感で胃が痛いイザベラは激励会を断ってひっそりと出発するはずだったのに、またヤヤコシイ事になって顔を引きつらせていた。後で胃薬をあげよう、胃が痛いのはキツイからな、俺もサラリーマン時代毎日の様に飲んでいたもんだ、気持ちは分かるぞイザベラ。
そして王都の最高級の宿泊施設に帰った俺は王様のツケで最高級の料理を10人前頼んで作戦会議を始めたのだ。
「ほらイザベラ胃薬をやろう」
「ありがとう、魔王。あと少しの辛抱だな、明日にはこの罪悪感から開放される」
「作戦会議って何するんッスカ?」
「明日の打ち合わせだ。俺達が王都の連中から見えないところでドラゴン討伐しても面白くないだろ?だから王都の連中から見える所で討伐するんだよ」
「へ~、王都の連中に俺達の小芝居を見せるつもりっすね」
「そうだ!映画を超えるド迫力の芝居だ!此奴は受けるぞ!」
魔力玉で古龍たちと連絡をとり明日の昼頃に王都に来てもらう事にした。そして古龍達と俺達の戦いは王都住民によく見える様に王都正門正面の平原で行うことに決めたのだ。観客が多そうなので古龍のジジババ達は大喜びだ、明日は頑張って芝居をするそうだ。観客に受ける様になるたけ見栄えの良い攻撃や大きな音を出す攻撃をしてもらう事にした。場が温まってきた頃に俺達が攻撃を仕掛けて古龍が退散するって言う筋書きだ。この時に王都に被害が出ないように気をつけてもらう事と王都に攻撃する場合はこちらが防御する余裕が欲しい事も話しておいた。俺達が王都の攻撃を防いだりするとカッコイイからだ。
「うう~、酷いマッチポンプだな。わざと古龍に王都を攻撃させて防ぐのか・・・・」
「大丈夫だ王都は必ず守る、被害が出ると報奨金が減るからな!気持ちよく金を払ってもらわなければな!商売の基本だ」
「もう好きにしてくれ、私は胃薬を飲んでねるから」
その後も細かい打ち合わせをして古龍との通信を終了した。何でもそうだが事前準備が一番重要なのだ、俺は入念な打ち合わせをして満足して眠りに着いた。さて俺の演出の腕を見せる時がやってきたのだ王都の住民には喜んでもらわねばな!史上初の古龍主演の演劇の始まりだ。