第107話 神の使徒
次の日にギルド最高難度SSS級クエスト・ドラゴンクエストの人員選抜が始まった。アルガルド帝国を救う救世主チームの募集だ。賞金10億ゴールド、ギルド冒険者の最高位SSSを掛けたドラゴン討伐クエストに向かう勇者チームの選抜だ。場所は王都中央コロシアム、見学者は王族・貴族一般市民だ。
大会の開会宣言は国王が行う帝国最大のイベントになった、このチームにはギルドからの無制限の援助並びに王家、貴族からも援助が受けられる事になった。
これだけの好条件にも関わらず大会参加者は俺達3人を入れても僅か10人だった。古龍の恐怖は冒険者や兵士にも広く知られていたためだ。
「な~んだ、たったの10人かよ。この国の連中は意気地がね~な」
「当たり前っすよ、古龍相手じゃ仕方ないっす。俺だって芝居じゃなかったら相手したくないっす」
俺と勇者がこそこそ話しているウチにも選抜試合が行われようとしていた。選手はギルドの最高ランクSS級冒険者が2名S級冒険者が1名、王国騎士団長と副騎士団長、力自慢の貴族2名それに俺達夫婦と聖女のフリをしているサキちゃんだ。勇者夫婦はチームの基幹メンバーなので後は3人を決める戦いだ。この中で一番目立ってるのがサキちゃんだった。聖女のフリを幾らしても元はサキュバスの族長なのだ、パッツンパッツンの服を着た性女に男たちの目は釘付けだ。そして心底嬉しそうな顔をしているのがマーガレット。シルフィーネから借りた龍槍ゲイボルクが気に入った様でブンブン振り回して高笑いしているので恥ずかしかった。
「おい、なるたけ派手にやれ!皆に良いところを見せるぞ」
「了解っす、初めての晴れ舞台だから頑張るッス。自己暗示を掛けて勇者っぽくするッス」
「おう、頑張れよ!」
俺と勇者の内緒話は終わった、イザベラに目で合図をして予選を始める事にする。俺と勇者がコソコソ話していても誰も興味を持たないのが不思議だったが。予選の選手や観衆は全員サキちゃんを見つめているのだった、この大陸ではお目にかかれない綺麗な髪とデッカイ胸、スリットの入ったスカートから覗く真っ白な太腿を全員がガン見していた。サキちゃんはサキュバスだから見られると興奮して益々色っぽくなるのだ今では全身からフェロモンを出しているのでどんな男でもイチコロで落とすだろう。
「魔王様、私こんなに大勢から見られるのは初めてですわ。恥ずかしいです」
「嘘つけ!凄く嬉しそうだぞ!このビッチめ!」
「ひ~!言葉責めですか。私、いってしまいそうです」
「え~!あ~!オッホン!」
「そろそろ選抜を始めたいと思う。皆の者準備は良いか!」
「「「「おっ・・・おう!」」」」
「では帝国史上最高難度のクエストの冒険者選抜を行う!この国の命運が掛かっておるのだ、皆の者しっかりやってくれ!」
国王の開会宣言が終わり、コロシアム中央に勇者夫婦が進み2人共魔剣を抜いて構えた。そして勇者がドンドン魔力を高めて行く。今回は勇者っぽく白いオーラを纏っている、黒いオーラは悪人っぽいので練習して白いオーラを出せる様にしたのだ。
「さあ!掛かってこい雑魚共!私が貴様たちの実力を見てやろう!」
勇者が高らかに選手を挑発している、凄くノリノリの様だ。イザベラはうっとりとした顔で勇者を見ていた。まあ新婚さんだからな、いまは旦那が格好良く見える時期なのだ、もう少ししたら邪魔になるんだよな~等と俺は思って会場の角の方に3人で移動した。勇者の攻撃に巻き込まれたくないからね。
「なめるな~!」
ボコン!S級冒険者は壁にめり込んだ。
「貴様~!」
ドゴン!
騎士団長は勇者に蹴られて20m程地面を転がって気絶した。
「フハハハ~!弱い!弱すぎる!そんなことでドラゴンと戦えると思っているのか!」
観客は歓声を揚げる余裕は無いようだ、勇者の強さに感心するよりも騎士団長の弱さに驚いていたのだ。騎士団長がこれだけ弱いのだから兵士の弱さはどの程度なのか理解したのだ。この国の兵士は全く頼りに成らない事をマザマザと今見せられたのだ。
一方勇者は全く歓声が無いのに不満だった、きっと地味な攻撃が悪いせいで受け無いのだと思っていた。では派手な魔法で勝てば受けるだろう。「拍手をもらえるように頑張るっす」と思っていた。
「喰らえ!勇者魔法!ドラゴンバスター!!!!」
勇者が滅茶苦茶に振り回した魔剣グングニルから無数の光の塊が飛び出した。対戦相手だけではなくコロシアム全体に着弾して爆発している。無差別攻撃だった、勇者は自分に酔って我を忘れている様だ。残りの5人を瞬殺して勇者は高笑いをしていた。
「この国には雑魚しかおらんのか!俺を楽しませる奴は何処だ~!!!!」
「あいつ~、調子に乗りすぎだ!勇者って設定忘れてやがる。あれじゃラスボスじゃね~か!」
「うむ、早く止めたほうが良い。ボロが出そうだ」
「行きましょう魔王様」
俺たち3人は勇者に向かって真っ直ぐに歩いて行く。俺達に気がついた勇者は又吼えた。
「俺様に向かってくるとは良い度胸だ!死ぬ気で掛かって来い!・・・・・・・あれ」
「・・・・・・」
俺達の目が笑って無いことに気がついた勇者は正気に戻った様だ。だがもう遅い。俺は3人に支援魔法を掛けてゆく、身体強化、魔法攻撃無効化、物理攻撃無効化、全耐性強化、回復力強化、魔力増強。勿論俺にこんな事は出来ない、腕輪ちゃんがやっているのだ俺は大声を出しているだけだ。そして俺達の体は7色に輝きだした、観客からすると正義のヒーローに見えるだろう。
勇者はマーガレットの龍槍ばかり見ている、きっと怖いのだろう。マーガレットの龍槍グングニルはシルフィーネの思念を受けて今や唸りを上げている状態だ、本当にドラゴンを倒せる程のエネルギーを持っているのだ。
「魔槍グングニル!」
一声叫んだマーガレットは空に向けて槍を放った。グングニルは勇者の真上で100個に分裂して光輝いている。穂先を勇者に向けて完全にロックオンした様だ、そしてロックオンしたグングニルが攻撃を開始した。シルフィーネは中々魅せるのが上手いな、流石は4天王だ。
「どひ~!!酷いっす!マジ死ぬっす!」
100本のグングニルが轟音を上げて勇者の周りに着弾している。シルフィーネはちゃんと当たらないようにしているようだ。勇者は嫁を守るために全力で防御魔法を張っていた、もう泣きそうな感じだった。俺達は魔力切れ寸前の勇者の傍に行ってこう言った。
「どうだね?我々は、合格かね?」
「・・・・合格っす」
「「「「「「「うお~!!!!」」」」」」
アルガルド帝国に希望の光が灯った瞬間だった。絶望から希望に変わった観衆は涙を流して歓喜した。7色に輝く神の使者が勝ったのだ。そしてマーガレットはその場で王から子爵の地位を送られて貴族からは財宝を山程貢がれていた、勿論俺と聖女も色んな貢ぎ物を貰った。そして街の何処に行ってもタダで飲み食い出来たので毎日呑み歩いた。勇者夫婦は凹んでいた。