第106話 進撃の古龍
「では行ってくる!」
「「「ジイちゃん、婆ちゃん頑張って~!!」」」
夜明けと共に巨大な古龍が次々と飛び立って行く。俺達の村の子供達に見送られて嬉しそうだ、村上空を10頭の綺麗な梯隊形で旋回したあと王都に向かって行った。この後古龍たちは王都から順にこの大陸中の都市の上を飛び回り市民を恐怖に陥れるだろう。巨大な姿を見せ付けるために今回は低空飛行をする様に指示しているのだ、こんな化物が低空で飛び回り咆哮を挙げたら帝国の市民共は恐怖のどん底に陥るだろう。そして貴族や王族は市民からの突き上げをくらい頭を抱えるのだ。しかし、幾ら貴族や王族が頑張っても古龍に勝つ方法は無いのだ、そもそも戦う方法すら無いのが現状なのだ。手が届かない相手にどうやって戦えば良いか分からないだろう。それに下手に手を出して古龍を怒らせたら地上に降りて来て暴れだすかもしれないのだ。つまり王族や貴族、市民は家の中で神に祈るしか方法はなかった。
「さて、そろそろ行くぞイザベラ」
「うむ、ギルドに行けば良いのだな」
「そうそう、それからドラゴン討伐のチームを募集してくれ。びっくりする位の高額でな!」
イザベラはギルマスなので、この国の全ギルドを巻き込んで討伐依頼を出す会議を招集した。その場で全ギルド公認のドラゴン討伐チームを募集する予定なのだ。まあ最初から討伐チームは決まってるのだ、俺達5人ってな。チームの募集に誰かが来ても勇者がボコって不合格にするから問題ない訳だ。
「よし計画始動だ、全員出発」
「了解いたしました」
次に俺は村の工兵を各都市に送り出した、ドラゴンと戦う勇者が現れたって噂を流すためだ。ドラゴンに怯えてばかりで希望が無いと人間って直ぐに駄目になってしまうからだ。そしてこの噂は恐怖が大きくなるに従って育って行き、いずれ貴族や国王の耳に届くことになるのだ。そして市民と貴族、王族がすがりつくのが俺達勇者チームって訳だ。まあ中身は魔王が演出する悪党チームなんだがな。
「しかし何故こんなに手間をかけるのじゃ?帝国を滅ぼして全部手に入れれば良いのに」
「そんなの面倒だ、俺は魔族の国だけで精一杯なんだぞ。ミーシャが治めるならとってやろうか?」
「いや要らん、今はドワーフの国の基礎作りが忙しい。他の国なんぞに関わりたく無いのじゃ」
「あたいも何か欲しいよ魔王、あたいだけ肩書きが無いんだ」
「そうか、そんじゃトランザムも貴族にしてやるよ。上手くいったらイザベラとマーガレットが出世するから爵位を貰おうぜ、ついでに領地もな」
それから俺とミーシャとトランザムで切り取る領地の話をしたり、この辺りの地図を作ったりしていた。作り方は簡単だ、空中からデジカメで写真を取って印刷するだけ。その後はマーガレットに聞いて何処が誰の領地なのか書き込むだけだ。
アルガルド帝国の国民が恐怖のどん底にいる時に俺達は毎日鼻歌交じりに宴会をして計画を練っていた。古龍たちは毎日朝早くに飛び立ち、夕方位に帰ってきて俺達と飯を食って映画鑑賞をするのだ。子供達もすっかり古龍に懐いてしまった。子供好きの古龍のジジババはマーガレットの領地に龍の祝福を与え農作物が丈夫に育つようにしてくれたり、畑を耕してくれたり温泉を掘り当てたりしてくれた。
「おい魔王、そろそろ良いんじゃないか?これ以上やると自殺する連中が出てくるぞ」
「そうか、じゃあ俺たちも活動開始だな。明日王都の傍まで連れて行ってくれ」
次の日に俺達は古龍の背中に乗って王都の傍まで運んでもらった。古龍はこれから王都に顔を出してマーガレットの領地に帰る手はずになっている。俺達の用事が済むまで領地でおとなしくしてる予定なのだ、俺達が交渉してる時に古龍が来ると交渉が進まないからな。
「ありがとうよ、爺さん」
「うむ、これから王都に顔を出してから直ぐに帰る。帰って温泉に入るのじゃ」
「そうか、冷蔵庫にフライドチキンが入ってるから食って良いぞ。俺達が連絡するまでおとなしくしといてくれよ」
「最近働きすぎて体中が痛いから丁度良かったぞ。儂等は温泉でのんびりする事にする」
俺達は歩いて王都のギルドを目指した。誰も通らないので寂しいもんだった。ちょっと脅かしすぎた様だな、でも助かった時には喜びも大きいだろうからチャラだな。王都の城門を守る兵士は居なかった、城門は開放されていた、多分直ぐに逃げ出せる用意なんだろうな。城門を閉めても空を飛んでる相手には関係ないからな。俺達は誰も居ない城門をくぐって王都のギルドへと向かった。
王都のギルドは5階建ての大きな建物だった、この国のギルドの元締めだから当たり前だな。当然ここにグランドマスターが居るはずだ、冒険者の頂点に立つ人間だ。この帝国には30万人程の冒険者が居るらしいのでグランドマスターの持つ権力は非常に大きかった。戦闘員30万人を持つ組織の長なのだから当然だな。ある意味王族よりも力が有るかもしれない程だ。
「ういっす!魔王さん」
「お~久しぶり!良いタイミングだな」
「来たのがわかったから会議から抜けてきたッス」
イザベラの招集で始まったドラゴン退治のチーム募集は明日行われるのだそうだ、そして冒険者の選抜はイザベラと勇者がする事に決まったそうだ。文句を言う連中がいたがイザベラが全部ボコって強引に話を進めたらしい。ドラゴンクエスト、賞金10億ゴールド!この国のギルド始まって依頼最大で最高の難度を誇るギルドのクエストになるのだそうだ。