第105話 俳優
「はいはい!古龍の皆さん集まってください!」
「「「なんじゃ、なんじゃ」」」
「それでは皆さんこれをお読みください」
俺は古龍と俺の嫁達にA4のコピー用紙に印刷した小説を渡した。昨日俺がパソコンで作ったものだ、そして勿論俺が書いた小説だ。当然出来は悪い、何せ俺が書いているから主人公の性格が悪いからだ。
「どれどれ、進撃の古龍じゃと!なんじゃこれは!」
「古龍が主人公の小説です。古龍の強さを強調してみました」
最初は嬉しそうに見てた古龍達の表情がみるみるうちに暗くなって行った。やはり俺の書いた小説は受けなかった様だ。地味に凹むがこんなことは想定内なのだ、此れぐらいでへこたれていてはなろう作家は出来ないのだ。これからは俺の得意の営業トークの出番なのだ。
「どうですか、皆さん。何かご意見ご希望がありますでしょうか?」
「詰まらんの~、儂等古龍が悪者じゃないか!」
「当たり前だ!古龍が人類滅ぼしたら話にならね~だろうが!」
「なんかどっかで見たような話っすね」
「当然です、今の時代の小説は全てそんなものです」
「あの~魔王様。肌色成分が少ないような気がしますが・・・」
「流石はサキちゃん、良い所に気がつきましたね。アニメ化された時に困らないように肌色は抑えております」
「う~ん、旦那には悪いが単純に面白く無いな!話に愛と勇気が足らないな!」
「お前少しは俺に気を使えよ!マジで凹むだろ。大体コピー用紙4枚で愛だとか感動とか出来るわけね~だろう。粗筋読んで泣くやつはいね~よ!」
こんな感じで反論して言って、後は古龍達を騙せば良いだけだ。無駄に長生きの古龍だが悪知恵なら負けないのだ。それから俺は古龍たちにシリーズ化した怪獣映画を引き合いに出して。負けても直ぐに復活すること、悪役の方が人気がある事等、有る事無い事をマシンガンの様に言って納得させたのだ。
「で?儂等はどうすれば良いのじゃ?」
「大まかな話は小説の筋書き通りだ、後は状況を見て演出を変えて行くぞ。つまり君たち古龍は俳優として演技をしてもらうのだ!世界初の古龍の俳優だ!」
「「「「「「うお~!儂が俳優じゃと!早速サインの練習せねばの~!!!」」」」」
「今年の主演男優賞は貰った!」
「ワシはオスカーを狙うのだ!」
「ふ・・・勝ったな・・・・」
俳優とかカンヌとか聞いて俺の嫁たちもそわそわして髪をいじったり、服のシワを伸ばしたり始めた。平然としているのはマーガレットだけだ。まあ此奴は映画とか俳優とか知らないからな。
「魔王さん、俺は何したら良いっすか?」
「ああ、お前ら夫婦が主役だからな頑張れよ!」
「まっ、待ってくれ魔王!私は芝居とかした事が無いのだ!見た事も無いのだ!」
「それじゃ今晩は上映会な!皆に映画見せるからな」
その日の夜は怪獣映画の上映会だ。子供達も呼んで大々的に鑑賞した。古龍がいるのでポップコーンやコーラなんかも出し放題なのだ。無尽蔵の魔力を持つ古龍から魔力を貰って魔力変換祭りだった。パソコンやDVD、プロジェクターにスクリーン。発電機にデジカメ、音響装置等だ。ついでに調味料もトン単位で出してやった。怪獣映画は受けに受けた、特に古龍は口から火炎を出したり空を飛んだりする怪獣が好きそうだったな、声を上げて声援を送り、負けるとすすり泣いていた。わははは~こいつ等馬鹿だ。
そうだったここで俺の書いた小説を説明しておこう。簡単に書けば、アルガルド帝国が古龍の侵略に苦しめられていた時に勇者が立ち上がり人々を救うって話だ。なっ!簡単だろ。
「何か俺だけカッコイイっすけど・・・良いんですかね?」
「いんじゃね!たまには」
「儂等は負けてどうなるのじゃ?」
「どっかに去れば良いんじゃないかな?そしてその内復活してシリーズ化を目指す予定だな」
「ふ~ん、何度も帝国を脅す訳か!お主も悪ジャの~」
「当たり前だ俺は魔王だからな!」
次の日からは各員の役所の演技指導を行う事になった。兎に角古龍が頑張らないと話に成らないのだ。なるたけ恐ろしく強大に見えるように演技指導だな。勇者達は中盤からしか出番が無いので、こちらはのんびり演技指導だ、それに俺も勇者チームに入るので現場で指導出来るのでのんびり進行だ。
「はい!そこ!目を光らせて!・・・違う違う!もっと派手に吠えて!」
「ふひ~、疲れるの~。厳しい奴じゃ」
映画で一番重要なのは敵役だ、正義のヒーローなんて言うのはどうでも良いのだ。敵役が強くて魅力があれば何とかなるのだ。逆にヒーローが幾らカッコ良くても敵役が弱かったり魅力がなかったりすると映画自体が面白くなくなるのだ、俺はこれを古龍のジジババに叩き込んだ。つまりこの話の主人公は古龍なのだ、古龍がいなければ話が始まらないのだ。まあ半分本当で半分は嘘だ。この間の仕返しに厳しく演技指導をしてるだけなのだな。
「魔王様、この服で宜しいのですか?少しエロい様な気が・・・・」
「良いの良いの、サキちゃんが肌色担当だから頑張ってね。他の女は色気無いから」
勇者チームは全部で5人。勇者夫婦が勇者と魔剣使い、俺達夫婦は賢者と魔槍使い、そして聖女の代わりに性女としてサキュバスのサキちゃんなのだ。マーガレットもイザベラも色気ゼロだから、サキちゃんには胸を強調したシスターの格好をしてもらっている。スリットの大きく入ったスカートも履いてもらっているのでお色気はバッチリだ。サキちゃんを見て欲情しない男は居ないはずだ。
「魔王様、私回復魔法とか使えませんよ。聖女は無理が有るんじゃありませんか?」
「平気平気、回復魔法を掛けるふりすると良いから。後は勇者が回復魔法をコッソリ掛けるからね」
「私はどうすれば良いのだ?魔剣も魔槍も持ってないぞ。それに私はタダの人間だぞ」
「大丈夫。シルフィーネの龍槍借りたから。操作はシルフィーネがやってくれるから平気」
マーガレットの槍はシルフィーネの持っていた龍槍ゲイボルクに変えておいた。この槍はシルフィーネの思念で操作出来る優れものなのだ。勇者の持ってる魔剣グングニルに匹敵する程の性能らしい。
今回ミーシャとトランザムは役が無いので不満そうにしていたのでビデオカメラと音声を担当してもらった。そして次の話の時には主役にするからって言って誤魔化したのだ。そして俺は直ぐに次の小説を書き出したのだな、次はミーシャを主役にしたドキュメンタリー小説だ。これはドワーフ族が・・・・うん、やめておこうキリが無いからな。まあ取り敢えず皆が納得して役作りに頑張っているって訳だ。そしていよいよ明日から本番なのだ。アルガルドの帝王とやらと遊ぶのだ。