第103話 魔王の喧嘩
次の日長老が遊びに来るらしいので湖の傍で勇者夫婦とバーベキューをしていたら大きな影が横切った。空を見上げてみたら見慣れた大型の古龍がこちらに降りてきている。1匹だけかと思ったらジジババ達が全員で来たようで全部で10頭の編隊飛行だった。俺と勇者は見慣れているがマーガレットとイザベラ、子供達や工兵は悲鳴を上げて森の中に逃げ込んだ。体長50m翼を広げた翼長100mの古龍10頭の編隊飛行は中々の見ものだった。しかし魔力で飛んでいるとはいえ巨体が地面に降りるときはヘリコプターの様に翼を羽ばたかせているため凄い風だった。一瞬で吹き飛ばされて勇者と地面を転げ回ったから推定風速200m位だろうと思う。台風の時に何時もウロウロして風速70mまでは経験した俺がいうのだから間違いないはずだ。
「古龍ってスゲ~な!空から降りて来るだけでこの威力か」
「デカイっすよね~、おまけに凄い魔力っす。勝てる気がしね~す」
100m程吹き飛ばされて起き上がった俺達は古龍達の所に歩いて行った。俺の嫁と勇者の嫁も森から出てきて俺達の傍にやって来た、真っ青な顔で俺達の後ろに隠れている。リアルな怪獣が10頭居て機嫌が悪そうだから、そりゃあ怖いだろうな、それよりも良く森から出てきたもんだ。
「よう!ジジイ。久しぶりだな!」
「・・・・・・」
俺は強気で話すことにしたのだが、古龍の爺さんは怒ってる様だった。目が赤く光って口から炎が漏れてるのだ、その気になればブレスで俺は骨も残らずに完全消滅だな。なんで怒ってるのか知らないが龍の考えることなんて俺にわかるはずないので無視だな。そうして睨み合っていたら古龍の背中から腕輪ちゃんやシルフィーネ達がゾロゾロ降りてきた。何でコイツラマデイルンダ・・。
「「「古龍様ありがとうございます」」」
「「わざわざ連れてきて頂いて感謝します」」
古龍から降りてきたのは、腕輪ちゃんとミーシャにシルフィーネ、トランザムとサキちゃんだった。まあ向こうで仲が良かった連中だな。俺としては男爵や4天王筆頭のオルフェイスと話がしたかったのだが多分怖くて来れないだろうなこの面子じゃあな。そしてこの連中と冷静な話し合いは無理だ、魔族の国でも乱暴者として恐れられている連中だからな、こいつらは俺より気が短いのだ。勇者は震えながら俺を守ろうとして横に来ていた、勇者が頑張ってもこの連中なら1秒くらいしか時間は稼げないだろうな。俺は冷静に戦力を分析してみた、まあいくら分析しても意味は無いのだが。
「魔王!何かいう事が有るだろう!」
「ねえな、何か用か?」
「貴様~!!」
俺のふてぶてしい態度に激怒した美女達5人は俺を取り囲んで文句を言っていた。色々言っていたが5人が一度に言うから何のことかサッパリだ。仕方無いからヘラヘラしてやったら益々怒っていた。ザマアミロ怒らせてやったぜ、俺はチョッピリ勝った気になった。隣の勇者は今にも泣きそうだ、それを見て俺は益々冷静になったんだ。
古龍も人化して女共に協力して文句を言いだしたが、このジジババ達は古龍なので物凄く声が大きいのだ、声がデカすぎて何を言ってるか全然わからなかった。難聴に成りそうだ、あまりの声の大きさに女達も黙ってしまって耳を手で押さえる程だった。
周りから見ていると、この世界で最強の15体から文句を言われる哀れな人間って感じだ。俺的には結構面白い見世物だなって感じだった。覚悟を決めてるので怖くも何とも無いのだ、俺はブッ壊れている人間だからな。
「お前は全然反省しとらんのか?」
「何を反省するんだ?」
「お前が黙って居なくなったから儂等は心配していたのだぞ!」
「何で心配するんだ?俺と勇者が一緒なんだから平気だぞ」
古龍の爺さんは「ふん!」と言って勇者にデコピンしたら、勇者が10m程吹き飛んだ。それから又俺に説教だ。俺達は弱いので調子に乗るなって話を延々とされてウンザリした。横で女達はウンウンと言いながら相槌をうっていた。早い話が過保護なジジババ達なのだ、俺と勇者を保育園児位にしか思ってない様だ。
さてそれからはお決まりのコースだった。ブチ切れた俺は古龍の爺さんと取っ組み合いの喧嘩になったわけだ。勿論俺が叶う相手じゃないのだが、そんな事は関係ないのだ後先考えないのが俺の主義だからな。
「まだやるのか、小僧」
「当たり前だジジイ!死ぬまでやるのが俺の主義だ!」
勝てないのは分かってたし骨が何本か折れてるので痛いのだが、体が動くうちは喧嘩をやめる気はなかった。その内気を利かせたジジババの誰かが回復魔法をかけたので骨折が治ってしまった。治ったからには仕方ない、またジジイと喧嘩再開だ。余計な事をするから俺は余計な痛みに耐えなくては成らないのだな。
「加勢するぞ!我が夫よ!」
「え!下がってろ!死ぬぞ!」
俺がボコボコにされていたら、まさかのマーガレット参戦だ。古龍に喧嘩売るとは俺の嫁は馬鹿じゃないのか?そんな奴はこの世に居ないと思っていた。まあ小説だったらここで愛だのなんだので俺達が勝つのだろうが現実は厳しかった、夫婦揃って瞬殺でボコボコにされてしまった。古龍のジジイは情け容赦の無いジジイだったのだ、爬虫類だから冷血なのは当然なのだが。
「お前ボロボロだぞ」
「魔王もな!」
地面に横たわって動けなくなった俺は嫁に声を掛けてみた。何だか変な奴だが俺はこいつを気に入っていたんだ。そして笑っていたら、勇者が俺をかばうようにやって来た。余程古龍が怖いのだろう、真っ青な顔をして震えていた。
「魔王さんは俺が守るっす!・・これでも一応勇者っすから」
「「「ならば私も」」」
どういう訳か知らないが、勇者に加えてミーシャやシルフィーネ達まで加わって古龍の爺さんと大喧嘩になってしまった。俺とマーガレットはタダの人間だから喧嘩しても大した事は無いのだが、こいつらが喧嘩しだしたら危険だった。周囲の地形が変わるほどの攻撃を繰り出すのだ。特に危険なのが本気の腕輪ちゃんと龍化したシルフィーネだ、古龍の爺さんが人化を辞めて元の龍の姿に戻る位の攻撃を仕掛けているのだ、爺さんも余裕がなくなりジタバタしだしたようだ。
「なんでじゃ!何で儂が悪者になってるんじゃ!おかしいだろ」
「黙れ!よくも魔王をボコってくれたな。あいつをボコって良いのは私だけだ!」
それから修羅場が半日程続いた、俺とマーガレットの怪我は他の古龍が直してくれた。そして近くに居ると危ないので離れた所に移動して他の古龍のジジババとバーベキュー大会の開催だ。久しぶりにジジババ達と飯を食って嫁を紹介したりして楽しんだ。もう今更喧嘩の原因なんてどうでも良くなってきたのだな。
俺達が和気藹々と宴会をしていたら、古龍の長老と女達がボロボロになってやって来た、俺達が楽しそうに宴会をしているので馬鹿らしくなったのだろう。そう、争いは虚しいのだ、平和が一番って事だな。
「・・・・・」
「「「「「・・・・・・・・・」」」」」
ボロボロになった長老と腕輪ちゃん達が恨めしそうに立っていた。現状が理解出来ないのだろう、仕方ないな、俺にも理解出来ないからな。でも一つ分かった事が有る、気分がスッキリしたって事だ。やっぱりストレス解消には体を動かすのが一番だ。
「まあお前らも食えよ!ストレスは解消出来ただろう?」
「お前と言う奴は~・・・・」
「・・・負けたわ、お主には・・・馬鹿なのか大物なのか・・・・」
その後腕輪ちゃんを腕に受け入れた俺は久しぶりに魔力変換で旨い酒や食物を出して、更に宴会を始めたのだった。旨い酒と食物のお陰で長老もご機嫌になって「5千年ぶりに喧嘩して、面白かった」とか言っていた。