第10話 開戦3日目
開戦3日目、実に清々しい朝だ、東の兵士達は昨晩も寝られずにさぞかし疲れている事だろう。確か食い物と飲み物も無かったはずだな。ほっといても今日あたりから帰り始めるだろうが、そう簡単に帰すつもりは無い。まだ人的被害は少ないから休息して補給すれば直ぐに元に戻ってしまうからな。
「魔王様、朝食でございます。」
「おう、さっちゃん。ありがとう。」
「さっちゃん?」
「サキュバスだからさっちゃん、悪かったか?」
「いえ・・まあ魔王様が付けて下さった名前ですから・・我慢しますが。」
フレンドリーな名前は嫌いらしいが気にしない、一々名前を覚えるのは面倒なのだ。俺は興味のある奴の名前しか憶えないのだ。
「今日はパンとスープか、助かるよ。」
「ステーキは夜にいたしますね。」
「ここにはコーヒーって無いのかな?牛乳でもいいけど。」
「牛乳は有りますが、コーヒーは聞いた事が有りませんね。」
「それじゃ牛乳くれないか?」
ここにはコーヒーは無い様だ。コーヒー豆の絵を書いたりしたが、元の木なんか知らないので満足に聞く事も出来なかった。これはその内人間の商人にでも聞かないと手に入らない様だ。
「失礼します。牛乳を持ってきました。」
「そこに置いたら直ぐに出て行きなさい。」
「はい、すいません。」
凄い巨乳の女の子が入って来た。小さな角が生えてるから魔族なのだろうが、温厚そうな目をした可愛い子だった。でも服はとても粗末だった。
「その子は誰だい?さっちゃん。」
「これは牛族の下女でございます。魔王様の前に出る様な身分の者では有りません。」
「その子は俺の専属メイドに任命する、至急メイド服を用意するように。」
「魔王様、この子は牛族ですよ・・専属メイドはもっと身分の高い者を用意いたします。」
「いやこの子が良い、俺は丑年生まれだから牛族が良いんだ。」
サキュバスが嫌そうな顔で言い張ってるが、負けずに言い張る。胸が大きくて可愛い子を見つけたのだ、絶対放すものか。これを逃したら次は何時になるか分からないのだ。
「サキュバス急いで用意しろ俺は忙しいのだ、これ食ったら戦争だからな。」
「はい、魔王様。」
「名前は何だい?」
「牛族のアムです、魔王様。」
「そうか、それじゃあこの部屋の掃除でもしといてくれ、今日から君は俺の専属だからね。」
「はい、頑張ります。」
久しぶりに可愛い子と話をしたり飯を食ったりしたかったが我慢だ、この不満は全て東の兵士に叩きつける事にする。完全に逆恨みだが気にしない。自分の力を増すためには何でも利用するのだ。
「バルト!準備はどうだ?」
「準備は出来ております魔王さま!」
「オルカも準備急げ!オルフェウスの部隊以外は全軍突撃だ、皆殺しにするまで城に帰る事は許さん!」
「素晴らしい作戦です魔王様。待っておりましたぞ。」
作戦でも何でもないのだがバルトが喜んでいるから良いだろう。オルカも当然武闘派なのでやる気満々みたいだ。敵もかなり弱っているので多分行けるはずだ。本当はあと一日欲しいが西の軍勢が近づいているので時間的余裕がもう無いのだ。
「全軍突撃せよ!魔族の力を見せるのだ!」
そして夜の守備をしていた部隊だけを城に残して魔族軍は全軍城門から突撃を開始した。東の軍勢は何時ものように直ぐに城に戻ると思っていたようで渋々集結していたが、今日は魔族が続々と現れ森の奥深くまで突撃してきたので大混乱していた。食料不足と睡眠不足で戦闘力が半減していた東の軍勢はあっと言う間に戦意を喪失してしまった。
「弱い!弱すぎるぞ!人間共。掛かって来い!」
元々の戦闘力が高い魔族相手に森の中で乱戦に持ち込まれた東の軍勢は徐々に数を減らしていった。平原ならば数で押せるのだが、森の中では自由に動けないので個人戦に持ち込まれて人族はあっけなく倒されていた。平原で1体10で互角なのに森の中では1対2~3に持ち込むのが精いっぱいなのだ。
兵士が半分ほどになった所で東の軍は敗走し始めた、全員バラバラに森の中に逃げ込み出したのだ。だが残念魔族の方が速くて強いのだ、逃げると更に死人が増えるだけだった。
「魔王様、たった2日飲まず食わずなだけで随分脆いですな。人間と言うものは。」
「ああ、人間はとても脆いんだ。長時間戦うのは無理な生き物だ。1週間飲まず食わずだったら死んでしまう程脆いんだ。戦闘する必要もないんだぜ。」
「その程度で死ぬのでございますか?我々魔族はその位なら皆耐えますぞ。」
「弱いからドンドン増えるんだ。増えると凄く迷惑な生き物だぞ。」
「これからどういたしますか?魔王様。」
「西の軍勢を叩く。あいつ等には国に帰って貰おう。」
西の軍勢は食料をドラゴン達に燃やされて進軍速度が遅くなっていた。食料を集めながら進軍して来るので速度がガタ落ちになるのだ、もはや東の軍隊と合流する為に渋々こちらに来てるだけだった。この部隊をドラゴンとオルフェウスの部隊で叩く、それも激しく叩く必要は無いのだ、足止めしてればバルトとオルカの部隊が増援に来るのだから。
「さてオルフェウス、戦争の時間だ。準備は良いかね?」
「はい魔王様、ドラゴンとの共闘とは愉しみです。」
西の軍勢とは最初にドラゴン部隊が激突した、と言っても空からのブレス攻撃で一方的に攻撃しただけだが、人間たちは固まって対空攻撃を耐えるだけだ、普通の弓はドラゴンには無力だし、今回はドラゴンは地上に降りることは無かった。そしてドラゴン達は夕方になると自分のテリトリーに帰って行った。人間たちはホットしたが、ドラゴンより怖いオルフェウスの部隊がやって来た。オルフェウスの部隊は吸血鬼が多いので夜間は不死身に近い、夜が苦手な人間と夜が得意な吸血鬼達との戦闘はただの虐殺となった。人間たちはオルフェウス達の餌でしか無い事に気が付いて皆国に逃げ帰って行った。
「バルト達は要らなかったな。」
「夜は私たちの時間ですから。」
「これであいつ等も当分こっちに来ないだろうな。」
「しかし、逃がして良かったのですか?大して倒していませんよ。」
「まあ、これからのお楽しみだ。準備が出来たら西の国に嫌がらせをしてやる。」
「魔王様の嫌がらせを楽しみにしております。」