第1話 新魔王爆誕
ある日の夕方、俺は商店街の中を晩飯のおかずを探しにさまよっていた。さまよっていたと言っても別にルンペンとか金がないとかニートとかでは無い。特に食べたい物が無いから、旨そうな物を探していたのだ。いつもは自炊しているが、今日は何となく作るのが面倒になったのだ。
「もう、コロッケで良いかな。安いし。」
「ご飯は炊いたヤツが有るしな。」
一人暮らしなので、自炊も中々面倒なのだ。彼女が来れば喜んで作るのだが一人分作るのは手間がかかる上に食べても美味しくない。ネットを見ながら食っても味気ないだけだった。外食も一人で入る店はラーメン屋か牛丼屋なので飽きてしまっていた。
「もうこれでイイ。」
3個100円のコロッケと野菜サラダ150円を買い、マンションの部屋へと帰る事にする。商店街の中を抜け人の少なくなった所にその大男は立っていた。
「お兄さん!お兄さん!福引引いてってよ!」
その大男は身体に見合った馬鹿でかい声で俺に話しかけて来た。見るからに胡散臭いヤツだった。全身黒ずくめでマントまで着けていた。
「いらん!」
俺はデモデモだってちゃんではなく、はっきり物を言う人間なのできっぱりと断った。
「まあそう言わずにね!ちょっとだけ引いてよ!サービスするからさ!」
綺麗なお姉さんにならサービスしてもらいたいが、こんな大男にサービスしてもらいたくない俺は再度はっきり言った。
「いらんと言ったら、要らん!」
大男は俺の言葉が全然聞こえていない様で、またまたしつこく食い下がって来た。
「ただですよ!タダ!ゼロ円です!」
「嘘つけ!全員に当たる。毎月1万円取られるヤツだろう。」
「違いますよ!設置詐欺じゃありません、正真正銘タダなんです!」
「何を馬鹿な事を!そんなうまい話がある訳ない!」
「有りますって、ここに!そんなに疑うなら試して見て下さい。」
なかなか根性の有る大男だった、新聞の勧誘や電話の勧誘のバイトなら既に諦めている頃なんだが、この男は俺のATフィールドが効果無いようだ。
「よし引いてやる、だが一円も払わんぞ!」
「当たり前です、一円も貰いません。私はあげる方です。」
物は試しだ、籤運は非常に悪いが元がタダなら問題ない。宝くじで300円を当てまくるよりはマシだ。箱の中から一枚のクジを引いた。
「おい、引いたぞ。」
「おお、これは素晴らしい!外れも外れ大外れです!」
大男は何処からか取り出したデカいベルを振り回して踊りだした。
ガラン・ガラン・大外れです!ガラン・ガラン・大外れ~!
いい加減頭に来た俺は、クジを捨てて帰ろうとした。
「そうか、じゃあな!」
「あっ、待って下さい!大外れの景品があります!」
「なんで外れで景品が有るんだよ!」
「空くじ無しですから。」
その時の俺はチョットおかしかったのだと思う。大外れの景品が良い物のはずは無い。今考えると当たり前なんだが、その時はガラン・ガラン鳴らされて、外れ・外れと言われて頭にきていたので冷静さを失っていたんだろう。
「これが大外れの景品です!どうぞ!」
大男は自分の腕に付けていた腕輪を外して俺に差し出した。思わず受け取ったが、ずっしりと重い腕輪で大きな赤い宝石がはめこまれていた。重さからすると金か鉛で出来ている様だ。金なら結構な値段になるだろう。
「どうぞ、着けてみて下さい。あなたのものです!」
「俺は、金属アレルギーだから、腕輪なんて着けないぞ!」
「あっ、それは大丈夫です。その金属はアレルギー出ませんから。」
「はあ、そんな金属有るのかよ。」
「一回着けて気に入らなかったら外せば良いだけですよ。全く疑りぶかい人だ。」
いい加減腹も減って来たので、早く帰りたいので腕輪を付けてみた。左手にはGショックを着けているので右腕に付ける。大きすぎるはずだったのにかってにサイズが変わって丁度良くなった様な・・・。いやそんな事が起こる訳はない。気のせいだ、そう気のせいなんだ絶対!
「フハハハ!馬鹿め、腕輪をつけたな愚か者め!」
「はあ、なんだと!」
目の前の大男の身体が更に一回り大きくなり、頭から2本の角が生えて来た。目は赤く輝き口からは長い牙がはみだしている。勿論背中には蝙蝠の羽があり、尻尾も生えている。そうあれだ、悪魔だ。
「なんだお前は!」
「ふふふ、見ての通りだ愚か者!」
「お前が、無理やりやらせたんだろうが!」
「儂はちゃんと、大外れと教えたぞ!それなのにお前は自ら腕輪を受け取った。」
「それはそうだが・・・」
ガラン!・ガラン!大外れ!大外れ!
目の前の悪魔はそれはそれは楽しそうに踊っていた。はっきりいって不気味を通り越してシュールだった。
「お前は悪魔か?俺は一体どうなるんだ?」
「儂は魔王!いや前魔王だ、宜しくな新魔王!」
「はあ、何で俺が魔王なんだ!」
「自分で魔王の証の腕輪を着けたからだ!ではさらばだ、新魔王様!」
「ちょっと待て!おい!」
目の前の魔王が消えたのかと思ったら、どうやら俺が消えた様だ。目の前が急に暗くなって気が付いたら変な部屋の中の変な椅子に座っていた。大きな部屋だったが薄暗い。そして目の前には悪魔が大勢いてこっちをジッと見ていた。
「食われるんかな?俺。」
買い物袋の中のコロッケはとっくに冷たくなっていた。