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黒髪の少女 Black hair of Her  作者: 中島研一
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あの春の日 The Spring Day

 12歳の時、小学校卒業の目前に父親が交通事故で死んだ。母親は余計にヒステリィになるかと、子供ながらに想像したのだが、多額の保険金が降りたので、まあこれは憶測なのだが、特に困ったことにはならなかった。さすがに悲しんでいた母親も、パートで働き始め、3年も経つと自分たちが生きることを第一に、父親が会話に出ることもほとんどなくなった。

 父方の祖父母は、月に数回電話をかけてくれていたが、最近は滅多にかけてこない。

 父親の存在が、だんだん消えかかっていることに、高校で一人で過ごすようになってから気がついた。自分がひとりなのは、何か自分が特別だから、つまり母子家庭であることが、自分を大人にしてくれたように思っていた。いつの間にか敵愾心むき出しの嫌な男になっていたのかと思うと、恥ずかしい気持ちになった。


 というのも、実は話すことの出来るような知り合いが出来たのだ。一人でいることが至上のように思っていたが、やはり他人と話すことは楽しいし、心が軽くなるような気までした。やはり人間は一人ではいられない、と実感したことを告白する。

 高校に入ってからすぐ、委員会を決めるホームルームがあった。都心に近いといっても、やはり田舎の学校では同じ中学校出身の生徒もそれなりにおり、クラスから2名ずつの委員会は、すぐにほとんどが決まってしまった。このように、体育の時間や英語の時間にペアを作ると大概僕は余る。自然の摂理なのであるが、40人のクラスではもう一人余った。その女性こそが最近仲良くなった嶋野であり、余った二人は、これもまた余った図書委員会に配属されたのであった。余り物の余り物、最近のフェイバリットフレーズである。

 嶋野と話したのは、委員会を決めた次の週、図書委員会が招集されてからである。ちなみにこの時、図書館に出向いた時にも黒髪の少女は図書館にいた、と思う。

 委員会は何事もなく終わったのだが、嶋野も電車通学らしく、「一緒に帰ろう」と言われると、わざわざそそくさと早足で帰るのもわざとらしかったので、一緒に帰ることにした。この時点で、僕はもう一人でいることに耐えられなくなっていたんだ、と後でちょっと心理分析をした。

 話すときは相手の目を見る、ということを子どものように信じていた僕は、嶋野の顔をこの時初めてよく観察した。おそらく僕のほうが10センチは高かったし、彼女を見下ろすような形になるが、彼女はどちらかといえばスポーツが得意そうな健康的な体をしていた。こういうと僕が変態のように体を見ていたかと勘違いするかもしれないが、そうではない、と信じたい。

 自分から話しかけてきたくらいなので、明るい人であるのかと思った。顔も控えめに言ってもかわいい感じであったし、男に人気があるのかもしれないとまで想像したのだが、彼女は中々口を開かなかった。これは、僕の方から話題を振るべきなのだろうかと困惑していたら、「どうしていつも一人でいるの」と聞かれた。自分でこの状況を選んだわけではないのだけれど、「実は父親が死んでいて、もしかしたら僕に負のオーラが出ているのかも」と思ってもないことを言うと、案の定彼女は悲しそうな顔をして、「私が話を聞いてあげるよ」と言った。

 僕は多少おせっかいだと思ったが、やはりなんだか嬉しくて、事のあらましを話した。彼女は適当に相槌を打ちながら話を聴き、感心しているような素振りまで見せたあとで、「ならさ、私と友達になってよ」とまで言った。どこが'なら'なのか検討もつかなかったが、この時は性別関係なく、話し相手が出来たことを嬉しく思った。彼女とはそれから、休み時間やたまに帰りが一緒になると、他愛もない話をしている。


「災難だったね」と担任教師が言った。親の事を自分からは話すのはこれで二回目、今日は面談の日だった。「勉強は進んでいる、みたいだね」とテストの結果を見て言われると、なんだか誇らしかったが、これは余計にクラスで浮く要因になった。なんせ授業はほとんど寝ているのだから、「授業は寝ないでね」なんて面談で言われると、言葉に詰まった。「学校生活は上手くいっている?」「ええまあ」「彼女が出来たの?」「茶化さないでください」「友達は作っておいた方がいいよ」「はい」知っているなら、聞かないでもいいじゃないかと思ったが、ちゃんと礼をして教室を出た。そして、黒髪の少女のいるであろう図書館に向かった。

もっと別のことを書きたいはずなのに、恋愛小説もどきのものを書いてしまって申し訳ないです。

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