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夢も希望もありゃしない  作者: 音切風太
2/7

無視しないでくださいよカガクさま!

 最後にカガクの目の前で小さな丸っこい手を伸ばすと、決めポーズを付けた。

 当のカガクは珍妙な表情のまましばらく佇んでいたが、ミラクルくんを無視して再び真っ直ぐに歩き始めた。

 疲れているのだろう、少しスケジュールを詰め込み過ぎたのかもしれない、今日は休もうかしら、そんなことを考えながら。


「ええっ無視しないでくださいよカガクさま!魔法の国を救えるのはあなたしかいないのですよ!」


 ミラクルくんを無視してカガクは歩き続ける。


「このままでは魔法の国は滅んでしまいます、助けてくださいカガクさま!ほんのちょっと魔法の呪文を唱えてくれればいいんです!超簡単ですから!カガクさま!」


 しだいに何かの勧誘みたいになってきたミラクルくん、早足に歩き去るカガクを追ってふわふわと飛んでいたが、急な強風が彼を吹き飛ばした。


「うひゃー!」


 リズミカルにコロコロと地面に転がったミラクルくん、そのまま川に落ち溺れ始めた。


「うひゃー!カガクさま助けてください!」


 さすがにここまでくるとカガクは無視できず、


「あーもう!」


 顔をしかめると来た道を戻り溺れているミラクルくんを救い出した。

 手の中でぐっしょりと濡れるミラクルくんを地面に座らせると、ハンカチで拭き始める。


「ううう、カガクさまは優しいししっかりものです、やっぱりクランシオーネさまの生まれ変わりです」


 秋の川の冷たさと恐怖にガタガタと震えるミラクルくんは、ハンカチを使うカガクの手にすがりつこうとあたふたしている。

 カガクもその姿に何かを感じなかったわけでもなく、しかたなく、もう本当にしかたなく、聞いてみた。


「で、どうすればいいの?魔法の国?救うには」


 さっきまでガタガタと恐怖に震えていた姿はどこへやら、ミラクルくんは喜びいっぱいに顔をほころばせると、ふわりと浮いてまた決めポーズ。

 そして、ポンと可愛らしい音に乗って小さな手に現れたのは、先端にハートが四つ付いた可愛らしいステッキ。


「このステッキを振りかざして、大きな声で、フワランフワランミラクルクル、魔法の世界に私の魔力よ満ちろ!と言ってもらえればいいです!」

「ごめん、やっぱり無理」


 ミラクルくんの答えに考えを変えたカガクは、その場から離れた。

 ミラクルくんは今度こそ必死に肩にすがりつく。


「カガクさまー!お願いします!それだけで良いので、それだけで!」


 聞こえないふりをして、カガクは歩く、変な幻に同情するもんではない。

 頑なに何か叫ぶミラクルくんを無視して足を進み続けるカガクの横を、小さな女の子とその母親らしき人物とすれ違った。

 小さな女の子は、不思議そうにカガクの肩をじっと見ていたが、すれ違い終わった時、


「ママー、マリもあのおねえちゃんの持ってるしゃべる人形欲しいー」


 と母親の手を引っ張った。

 カガクは驚いてその親子を振り返る。

 丁度母親の方もカガクを振り返った所らしい、カガクと目の合った母親は、愛想笑いをしてお辞儀をすると娘に向かって言う。


「バカ言いなさい、あのお姉ちゃんそんなの持ってないでしょう」

「えー、ふわふわ飛びながらカガクさまカガクさまって言ってるよ?」


 そんな会話をしながら、親子は去って行く。

 小さな娘だけは、何度も名残惜しそうにカガクたちを振り返りながら。

 取り残されたカガクは、ふわふわ飛びながらカガクさまカガクさま言っているミラクルくんに聞く。


「あんた、他の人にも見えるの?」


 ミラクルくんは、無視されなかった事態に喜んで言った。


「はい!魔力の高い人間や、小さな子供には見えると思うです!」


 カガクは片手で額を押さえ目をつぶり俯く、さっきまで自分の見ている幻だと思っていた。

 これが川に落ちても、ハンカチで拭いていても、所詮幻なのだと思っていたのだ。


「なんてこと……あなた……もしかして……」


 頭を抱えたカガクを心配そうに見ていたミラクルくんだったが、もしや僕の言ってる事を信じてくれたのではと期待に顔を輝かせた。


「はい!僕は……」

「あなた、最先端のオモチャなのね!!」

「ズコー!」


 期待に顔を輝かせていたミラクルくんは、一瞬でマヌケな顔になると丁寧に一回転してひっくり返り地面に落ちた。

 慌ててカガクの顔の真ん前に飛ぶと、ミラクルくんは怒って否定を始める。


「違いますよ!僕は魔法の国の住人ですよ!ぷんぷん!オモチャなんかじゃないですやい!」


 ミラクルくんをドアップで見ながら、カガクは今度は手の平を顔に当てながら、


「そう……そう思ってるのね……」


 と真摯に言うものだから、ミラクルくんは何故か自分の存在に不安を感じてきた。

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