第7話
向かいのソファは3人掛け。お客様には広々と使ってもらいたいから。
でも、こっちは2人掛け。
一人だと余裕があるけど、2人で座ると少し窮屈なんだ。
今、なぜかその狭いソファに、架琉くんと並んで座ってる。
架琉くんの左腕と、私の右腕が、何かの拍子にたまに触れ合う。
一瞬のその感覚は、普段ムダ毛処理に余念がない私の肌とは比べ物にならないほど、すべすべして、心地よかった。
私は横目で架琉くんを見る。
自分から来たくせに、こわばったまま全然動かない。
架琉くん、何しに来たの…
とにかく、心臓がドクドク早まってどうしようもなかった。
正直言って、この年になってもまだ男の子とこんなに接近したことなかったから。
だけど、相手は小学生だよ。こんな小さい子に、こんなにドキドキして、やっぱり私って変なのかな…
「りっちゃん…」
架琉くんが、また私の名前を呼んだ。
私の身体はびくっと揺れる。
「りっちゃん、俺、今、りっちゃんの彼氏だよ…」
「う、うん、そうだけど…」
「…」
すると、架琉くんが私の右腕に自分の両腕をゆっくりと絡めてきた。
そして、ぎゅっとしがみつくように顔をうずめる。
私は固まって、されるがままになっていた。
「りっちゃん、俺、今だけりっちゃんのものなんだよ…」
「え…」
架琉くん、何言ってんの。
彼氏って言ったって、そんなの中身なんて何もない、冗談みたいなものじゃない。
私に、何かして欲しいの?何をして欲しいの?
わかんないよ、だって、私、こんなシチュエーション初めてだし、君、小学生だし…
だけど、身体が壊れそうなくらい、鼓動がガンガンと全身を打ち付けてくる。
ああ、架琉くんが、うずめていた顔を上げて、私の顔に近づけてくるよ。
うるうるの、溶けてしまいそうな唇を…
ガチャッと、大きな音を立てて、突然玄関の扉が開いた。
二人ははっとなって、そろって玄関のほうへ顔を向ける。
「お母さん帰ってきた!」
「う、うん」
私は慌てて、小声で知らせ、元の席に戻るように促した。
架琉くんも慌てて言われたとおりにする。
「あ、そうか、今日金曜日だったわね。架琉くん来る日だったわね」
「うん。お帰り。早かったね…」
「こんにちは…」
架琉くんは、気まずそうに挨拶をした。
母は、「こんにちは」と笑顔で返したが、私を一瞥するなり苦々しい顔になった。
「りっちゃん、何その格好。架琉くん来てるときくらい、やめなさいよ」
「制服にジュースこぼしちゃって…慌ててたから…」
「やだ、制服にこぼしちゃったの?後で見せなさい」
「うん」
「架琉くん、ゆっくりしていってね」
「あ、もう帰ります」
架琉くんは落ち着かない様子で、席を立った。
そして私をちらりと見るなり、恥ずかしそうに下を向いてしまった。
架琉くんは、小さい声でこう言った。
「りっちゃん、ごめん…」
「えっいいよ、別に…」
多分、さっきは変なことしてごめん、って意味だと思う。
「来週、また来てね」
私がそういうと、表情がぱっと明るくなり、嬉しそうに笑った。
その笑顔に、私は、心臓がぎゅうっと、締め付けられた。
架琉くんが帰った後、私はソファに横になって、しばらくぼんやりしていた。
架琉くんの、すべすべの素肌、悩ましげな表情、変声期前の高い声、架琉くんの全部が頭から離れなかった。
架琉くんのことを考えると、胸が高鳴って、フワフワ浮いているような気持ちになる。
彼のことを考えるのをやめたくなかったし、やめられなかった。
相手が小学生だからとか、私って変かもとか、もうどうでもよくなっていた。
俺、今だけりっちゃんのものなんだよ…
「それ、本当…?」
私は架琉くんの言葉を思い出して、小さく小さくつぶやいた。
「今日暑いわねえ。もう7月だもんね。さすがにエアコンつけなきゃだめかしら」
母が独り言を言ってる。
暑い暑い夏は、もう目の前まで迫っていた。




