第4話
それからというもの、毎週金曜日、予定もなくまっすぐ帰ると、決まって架琉くんが扉の前で待っているようになった。
最初のほうこそ、わざと友達を誘って買い物やらカラオケやら無理やり予定を組んでいたが、それもさすがに面倒になってきたので、誰かに誘われなければそのまま家に帰ることにした。
架琉くんは、今までは不愛想な子だと思っていたけど、結構おしゃべりで、よく笑う子だった。
話を聞いていると、思っていた通り、学校のクラブはサッカーで、かなりうまいほうらしい。
成績は普通だけど、手先が器用で絵や工作で市の賞をとったことがあるとも言っていた。
あと、今年のバレンタインデーには、女の子からたくさんチョコをもらったそうだ。
(今年のっていったらまだ小4じゃん…)
モテることを自慢したいのかと思ったら、ホワイトデーにチョコをくれた子全員に手作りのクッキーを作ってあげたことを伝えたかっただけらしい。
律儀だ…
彼に自覚があるのかないのかわからないけど、小学生とはいえ彼が学校でかなり注目されているのは間違いない。
顔もいいし、運動神経もよくて、女の子に優しい。
こんな、誰もほっとかないような子を私みたいな年上が独占していいものか。
そんなことをぼんやりと考えていると、ふと架琉くんがきょとんとした顔で私を見つめる。
「りっちゃん、どうしたの?」
「え?ううん、なんでもない」
「ねえ、りっちゃんて、彼氏いるの?」
「え?!いないよ!いるわけないじゃん!」
「ふーん」
そういって、架琉くんはジュースをずずっとすすった。
「高校生になったらさ、彼氏とか彼女とか、自動的にできるようになるのかと思ってた」
「何言ってんの…そんなわけないじゃん。私、架琉くんみたいに全然モテないもん」
「俺、高校生になったら女の子一人選ばないといけないんだよね」
「うん、そうだね…」
すごい、こんなこと言ってみたい…
架琉くんの無自覚なモテ発言に、私はおかしさと憎たらしさが混じった、複雑な気持ちになった。
「いいなあ、よりどりみどりだね。私なんて選択肢すらないよ」
「俺がいるじゃん」
「え?」
「金曜日だけ、りっちゃんの彼氏になってあげる」
「う、うん、ありがと…」
架琉くんが、なんか意味不明なこと言ってる。
そんな彼をぼんやりと見つめると、無邪気な顔で笑っていた。
なんか、かわいいなあ…
私は、このとき、こんな彼を金曜日だけ自分のものにできることに、変な優越感を覚えていた。
小学生相手にバカみたいだけど、結構本気で嬉しかったんだ。