表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界旅団「セフィリア」の世界紀行  作者: ざわこ
生命の旅団、結成
2/2

第一話『繋がれた生命』

 「…おかしいだろ。こんだけ歩いてるのに風景が全く変わってるように見えない!」


 生人が倒れていた地点から出発して二時間以上は経過した頃。

 生人は流石にこの風景の変化の無さに痺れを切らし、誰もいないであろう紫色の世界で一人叫んでいた。

 二時間以上前、彼はこの景色を初めて目にしたとき、あまりの非日常さに圧巻された。

 無数に生えている紫の結晶。どこまでも広がる薄紫色の空。ガラス板のように微塵の荒さも感じない滑らかな紫紺の大地。

 目が中毒症状を起こすかと思うほどの色の統一性、美術品のような美麗な世界にただ驚嘆をしていたが、それも一時間も経てば見慣れてくるもので、二時間以上経過した今、その景色には飽き飽きしていた。


 「風景に変化がないってことはまだまだこの地形は続いてるんだろうなあ……町が見つかればって思ってたけど、これじゃ人間が存在する世界かどうかも怪しいぞ……」


 生人は自分が今、地球ではない別の世界に在していることだけ理解している。

 それ以外のことはさっぱりだ。どういった世界構造で、生物は存在するのか、何故自分はそんな世界にいるのか。

 疑問符は限りなく湧いてくるが、それを明らかすための手段は当然あるわけもなく。

 この状況における最善策は、歩き続けて最低でも、どこかで食料を確保することにある。

 食料は流石に存在するはずだ。でなければ、生人は未知の世界でただのたれ死ぬだけになってしまう。

 それは避けたい事態であるし、それでは再び生き返った意味が全くない。

 だが今のままではそれも十分に起こり得る事態であり、生人の不安は時が経つにつれて膨張していく。


 「今は空腹ってほどじゃないけど、疲労は確実にたまってきてるな……のどはさっきから渇くし、ぶっ倒れるのも時間の問題だろうな」


 体力的な疲労と精神的な疲労が同時に身体にのしかかるため、疲労感が普段の倍近く感じてしまう。

 先に進まなければならないと感じつつも、疲労が足を止めさせ、先に進むことを阻んでいる。

 そこで、生人は半ば強制的ながらも休憩を挟むことにした。

 付近に大きめの結晶があったため、その結晶に寄りかかるようにしてその場に座る。

 そのまま全身で伸びをしながら、固まった筋肉をほぐしていく。

 長いこと歩き続けた後に身体を休めると実に心地よく感じる。が、それと同時に動きたくないという感情も現れるため、休息の時間はさじ加減が重要だ。

 それを生人は理解していたので、三十分ほど身体を休めようと考えていた。

 

 「ああ、本当に疲れたー。やっぱり少しでも休まないと身が持たないな。早く腹を満たしたいってもんだ…………何か眠い、な。寝ちゃ…いかんぞ俺。寝たら…時間がむ、だに……………………」


 頭で理解していても睡魔に抗うことは叶わず、生人は一分足らずで深い眠りに陥った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 「ん………ぁ…?俺、寝ちまったのか……っておい!これは……これはまたどういうことだよ!!」


 生人が眠りから目覚めた時に眼前に広がっていた光景は彼が歩き続けていた時と一変していた。

 薄紫の空は夜の帳が下り、深い闇で覆われていて、その闇の中で小さく光るものーーすなわち星が僅かであるが、雲間から見えていた。

 そして、いかなる理由か、大地から生えている結晶が淡く発光しており、周囲がまるで紫の光によってライトアップされたかのごとく幻想的な光景だった。

 生人はその幻想的な光景に再度驚いたが、それよりも自分が夜になるまで寝ていたことの方が驚きが大きく、一人でに叫んでしまっていた。


 「おいおい……夜になるまで寝てたって俺は何時間寝てたんだ?あの時は確か昼間だったはずだから……最低でも五時間以上?それはホントにないわ…」 


 生人は五時間以上も未知の土地で一人無防備に寝すかしていたことになる。

 あまりにも迂闊で馬鹿な行動だ。何が起こるかわからないのにどうしてのうのうと寝ていられるのか。危機感が欠如しているほかない。

 と、生人は自分の油断に幻滅していた。

 

 「………はぁ、自分で自分を責めても今は時間の無駄だよな……てかまたよくわからん光景になってるし……なんで光ってるんだこれ?なんかこっちの方がTHE異世界って感じがするな。そんなことよりの、これからどうしようか。うーーん……やっぱり移動した方がいいっぽいか」


 生人は異世界の感想と同時に次の行動を決定した。

 生人は基本的には決断が早い傾向にあり、それが今のような事態が読めない場合には役立っていた。

 生人は再びその紫紺の大地に立ち上がり、高くなった目線で辺りを見る。

 それにしても本当に現実離れしている光景だ。もしかしたらあの世界の技術でもこの光景は再現できるかもしれないが、こっちは遥か彼方までその淡い光が見えるほどに広範囲だ。流石にこれは真似できまい、と思う。

 

 「写真があったら撮っておきたい光景だなホント。そうだ、写真といえば何かしらあっちのもの持ってきてるんじゃないか?」


 今更ながらではあるが、ふとそんなことを思い出して、学生服の下のポケットを漁ってみる。

 すると、出てきたものは今この状況においてはあまり役に立たなそうな日用品が僅かにあっただけだった。


 「シャーペンにボールペン、あとポケットティッシュ……ダメだ全く使えそうにないなこれ」


 ペン類の物があってもティッシュに書くのは少々無理があり、仮に何かを書くのだとしてもこの状況を打開することは不可能だろう。

 ではポケットティッシュはどうだろうか。と考えてみても鼻水をかむくらいしか今は利用法が思い当たらない。

 そもそも何故このような日用品が入っているのかと言うと、ポケットティッシュに関しては生人の几帳面さから常備している。

 本来はハンカチも常備しているのだが、それはどこかで落としてしまったらしく、ポケットの中にはなかった。

 二つのペンに関しては、日記を書いた直後に、つい手が滑りペンを床に落としてしまい、その時に無意識に入れていたのだろう。

 ポケットに入れていた理由が何であれども、それは今の状況に関与することはない。


 「せめてケータイとかの便利ツールがあればよかったのにな……いや、あってもそんなに意味ないか…」


 今更ながらに元の世界に置いてきたケータイのことが悔やまれる。が、あまり効果的な使い方が思い付かずにその後悔が消える。

 生人は一つため息を吐き、再び歩き始める。

 夜間になり謎の発光現象はあっても、相変わらず東西南北どの方角に進んでいるのか不明だ。

 それでもこの紫紺の土地をさまよい歩く。

 自分がこの世界に招かれた理由を知るため、そして自分がもう一度死ぬべきか、生きるべきかを見極めるために。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そうして歩き続けることを再開して三十分弱が経過して、生人の状況にプラスの変化が訪れる。


 「これは……湖、か?」


 そう、生人の眼前には硝子を穿ったようにして出来た巨大な湖が存在していた。

 湖の湖畔はこれまでのような精緻なものではなく、堅い岩肌のように荒くなっていて、見慣れた結晶は辺りには生えていなかった。

 水面が僅かに揺れて湖畔に寄せてくる、静寂であり、穏やかな世界。

 生人はようやく自分の生命線を繋ぐことが出来そうで、つい浮き足立ちそうになるが、この水が飲み水となるのかを考慮しなければならないので、一度心を落ち着かせる。

 そして冷静になった後に、生人はその湖畔へと駆け寄り、この湖の水が飲み水となり得るのか、その確認をする。

 一見、湖の水は辺りと同じ色に見える。

 だが、この湖の内部も外部と同じ紫紺だとするならば。

 湖の水はその色を反映しているだけなのではないだろうか?

 生人はそう推測しながら、ある実験を試みることにした。

 と言っても、やることは二つである。

 まずはティッシュを一枚取りだし、それを湖の水へ浸す。これだけでわかることが二つもある。


 「やっぱり。予想通りだな。」


 浸されたティッシュは、薄紫に染まることはなく、無色のままに濡れていた。

 これで、ひとつのことーーつまり水が無色であることがわかった。それはつまり、飲み水である可能性がひとつ高まったということだ。

 そして、もうひとつのこと。

 これは水に何か危険性がないかを調べるためである。もし、浸した瞬間にみるみる溶けていく等の反応が見られれば、飲み水から一転、非情に危険な液体であるとわかる。

 だが、それも杞憂に終わることとなった。

 浸されたティッシュは今もまだその形を保ちながらポタポタと水滴を落としている。

 とりあえずこれで安全性は半分ほど確保できただろう。


 「でもまだ安全とは言えないんだよなあ……これ以上調べるとなると、少し危険を冒すしかないか…」


 そう決意して生人は自分の人差し指を恐る恐る湖面へ近づけてみる。

 人指し指が水面へと触れ小さな波紋が広がった。温めの水が指先を包み込む。指に異変はない。

 そして、指を水から離し、その先端を凝視する。やはり異変はない。

 つまり、皮膚に変化をもたらすことはない、ということだ。

 これで安全性はそれなりのものとなった。

 だがーーーこれ以上は調べようがない。もうここまで来ると、飲むか否かとしか選択肢がないだろう。


 「でもなあ……ううん……仮にこれがヤバイもんだったとして……死期が早まるだけなんだよなあ」


 迷う。とにかく迷う。飲まないと飢餓で死ぬ。飲んだら何が起こるかわからない。

 こう考えてみると、後者の方を選ぶのが得策であると思う。しかも安全性もそこそこのものだ。


 「いずれ死ぬくらいだったら……いっそ今生き残る選択をするべき…だよな」


 生人は決意を固める。

 手で器の形を作り、湖へと入れていく。温い水が今度は生人の手全体を包む。

 水に触れる範囲が広くなっても生人の身体に異変が起こることもなく、そのままその紫水を一気にすくい上げる。

 すくい上げた水は生人の手の細部まで見えるほどに透き通っており、生人が生きてきた中でも最上位といえるほどの美しいものだった。

 これが元の世界にあるものだと言われれば何の躊躇もすることなく喉を潤すことが出来たのだろう。

 だがここは異世界。元の世界の常識が反映されることなどありはしない。

 ゆえに生人は自分の掌の中の美しい水を訝しげに見つめる。そしてそのまま一分ほど見つめた後、


 「もうこうなりゃヤケだ!どうにでもなれっ!」


 生人は掌中の水を一気に飲み干す。

 その瞬間、生人の身体は電流が走るような感覚を覚えた。水に害があったのではない。むしろ、その水は生人の身体に大きな利益をもたらしていた。

 半日、いや丸一日以上水分の補給をしていなかったがゆえに水は喉を通過した直後、全身にその水が駆け巡っていった。さながら、植物が根から水分を吸収し、葉の先端まで水を行き渡らせるように。

 そして生人は先ほどまで躊躇っていたのが嘘のように立て続けに水を、すくっては飲み、すくっては飲みと繰り返した。

 その動作が十回を超えたあたりで、生人はようやく水を飲むことをやめた。

 どうやら自分が思っていたよりも喉の渇きは深刻だったらしく、飲む前とは体の調子が俄然違う。

 ふう、と一息つく。喉の渇きが癒されたことで非常に心地よい感覚であり、僅かに虚脱感に襲われる。ついさっきまで寝こけていたにも関わらず、このまま眠ってしまいそうになる。

 流石に二度もそうするわけにはいかないので、しゃがみこんでいた身体を起き上がらせて軽いストレッチをする。


 「ういしょっ…と。とりあえず一時的にでも命を繋ぎ合わせられたかな。次は食糧なんだが…流石にこの場にそこまで期待するのは無理があるか。仮に食糧を探しに行ったとして…また迷ってのたれ死ぬオチが見える。てことはここに留まることになるけども…栄養摂取が出来ないと死ぬのは時間の問題ってとこか。ああ、最善策ってのが見当たらない。どんな世界に来たってやっぱし神様なんていないもんなんだな」


 元の世界でも幸運は望むときには来なくて、必要のない場面でやってくる。世界はそういう構造をしている。

 そう考えて、生人はその思考を停止させる。こんなことは元の世界で幾度も考えたことだ。今更考えるのは貴重な時間を無為に過ごすのと同義だ。

 とは言うものの、現状をどうにかする考えなど浮かぶわけもなく。生人の状況は完全に詰んでいた。


 「あーもう今日はここで休もう。水分は補給出来るわけだしな。日が昇ったら、次のことを考えよう。」


 そう言って生人は湖畔の荒い地面から比較的滑らかな地面へと移動し、体を大の字にして仰向けになる。

 この世界でも星は変わらずに輝いている。そんなことを思いながら目を瞑ろうとした、その時。

 誰かの声が聞こえた。小さなものではあったが、確実に聞こえたのだ。

 仰向けの状態から跳ねるようにして起き上がり、周囲を見渡すと、生人から見て左側の方向から無数に存在する結晶をかいくぐって、誰かが走りながらこちらへと向かってくる。

 この世界、いや、元の世界でも久しく訪れなかった幸運が異世界でようやく訪れたのだ。

 生人との距離が近づくにつれて、徐々にその人の容貌が露わになる。

 見た目は15歳くらいの少女、いや、遠くからでも美少女とわかる美貌であった。腰までかかる長い金髪が少女の力走によってなびいている。

 

 「なんか必死すぎる気もするけど……おーい!」


 思いっきり大振りに手を振る。なぜだろう、少女の瞳がこちらを睨むようにしてキッと細められた。

 距離もかなり縮まってきていて、もう数百メートルほどしかない。

 ここまで近づくと、少女の特徴も詳細にわかることができる。その双眸は翡翠のように煌めいており、金色の髪と合わせてさながら精緻に作られた美術品のようである。

 だがその顔にはまだ幼さが残っていることから、まだ年下であると判断が出来た。

 そう分析をしている内に距離はもう100メートルを切っていた。


 「おーい!誰かはわからんけど道案内してくれないかー!?迷ってし……」


 「--たは、-んなところでーーーー」


 「…って、え?」


 「何やってんのよ!!死にたいの!?馬鹿なの!?死ぬの!?」


 そんな怒声が異世界で初めての人間であり、生人の運命を変えていく金髪の少女との初めての会話だった。

すいません、いろいろあって遅れました。

出来るだけ早く作っていきたいので頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ