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 【 穴 】



 中学生になるまで毎年のように父が海水浴に連れていってくれた。

 そこだけ聞けば子供思いの良い父に見えると思う。

 だが、本当に”連れていってくれる”だけなのだ。

 遊んでくれるとか、そういうことは父の頭には装備されていない。


「あのブイの先には行ってはいけん」


 それだけを伝え、父はお手製のモリを抱え巣潜りをしに沖へと消えた。

 思わず弟と見つめあい、同時にため息をつく。

 毎夏のことだけど、海に連れてくれば家族サービス!とか思ってる不器用な父をそこまで憎めず、なんにせよ海自体は好きなので、気を取り直して遊ぶことにした。

 体の弱い弟は砂遊びをするといい、私は弟の様子を見つつ近くで泳いでいた。


 この海辺は、岩が多くそもそも海水浴場ではない。

 地元の人だけが知っている浜、そのため人は驚くほど少ない。

 海水は他の海水浴場に比べるととても澄んでいて、海底にいるカラフルな魚もよく見える。


 遊びがてら晩のオカズも取ろうと、食べられる貝を探しに素潜りを始めた。

 幼少の頃から巣潜りを教えられていたので、父程ではないが獲物は必ず採る。

 岩をひっくり返したり、いろんな隙間に手を入れては貝を探す。


 ふと、小さな穴を見つけた。

 こういう穴にはタコがいることが多い。

 俄然やる気を出した私は、一度酸素を吸いに海面に上がり、呼吸を整えてから再度穴を目指す。

 毎年来ているから海底の岩や穴の位置はだいたい把握していたが、この穴は知らなかった。


 ひとしきり穴を眺め、手を突っ込んだ。

 入り口は15センチもなく、奥がどこまであるのか分からない。

 手を突っ込んで気づいたが、この中だけ温度が異常に低い。

 氷水に手を入れた様な感覚に驚き、嫌な感じがしてすぐに手を穴から出した。

 こういう嫌な感じがするときは録な目に合わないので、他の場所に移ろうと足を岩に当て海面まで一気に蹴りあげた。


 …蹴りあげたはずなのだが、なぜか海面に上がれない、と言うかさっきの穴に足を突っ込んでしまっていた。

 頭に疑問符が浮かぶ。

 さらに穴の奥からものすごい勢いで吸い込まれていることに気づいた。

 当然パニックになり、なんとか足を引き抜こうと暴れていると、落ち着け!と私の頭をポンポンと叩く父の姿。

 いつのまに戻ってきていたのか、海では進出鬼没な父のこと、海の底を潜水して私を驚かそうとでも思っていたのだろう。実際に何度もされた。

 とにかく今は緊急事態!私は、足を指差して抜けないとアピール。

 それを見た父は、私の足をむんずと掴み、簡単に穴から抜いた。

 呆気に取られていたけど、助かったと急いで海面に出て深呼吸。

 あの忌々しい穴を海面から確認したが、なぜかその場所に穴はなかった。

 納得いかず、何度も探したが見つからなかった。

 結局このあとは泳ぐ気にもなれず、その日は帰路についた。

 家に帰り、父に穴のことを聞いたが


「そんな穴はなかった。岩に足が挟まっとたぞ?」

 

おまえでもドジをやるんだな、と父は採ってきた魚や貝を肴に、酒を飲みながらそう笑った。

弟にもその話をしたが、ふーんと興味無さげにウトウト。

自分だけ恐ろしい思いをしたことに無性に腹が立ち、弟にプロレス技の犠牲になってもらった。

その後、家族で海に行くことは無くなり、穴はなんだったのか分からないままである。





余談だけど、あの岩場の少し裏手で殺人事件が2件続いた。

前触れだったのかな?






※海って怖い。


そんな話。穴に足を取られたのは実話。マジにビビりました。

今はこの海辺も有名になり汚れてしまったヽ(;▽;)ノゴミだらけ…。

昔は本当に綺麗でした。

たまに貝を採りに行きますが、未だに穴があったらへんには怖くて近づけない。もう30年以上も前だと書いていて気づく。

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