ウシガエル
※カエルが苦手な方はスルーしてください。
ブモー…ブモー…
あぁ、また池のほとりでウシガエルが鳴いている。
毎年、暑くなってくると必ず一匹のウシガエルが夜通し鳴く。
初めてこの鳴き声を聞いた時、牛を飼ってる家があるのか!と驚いた。
父に聞くと、昔から居るウシガエルとのこと。
カエルと言えば、アマガエルとイボガエルくらいしか知らなかった。
家の庭の先は切り立った崖で、その下に近所の人が開墾した畑が広がっている。
そしてそのいびつな畑の先に、その池がある。
ひどく濁った深緑色で、お世辞にも綺麗とは言い難く、近寄るとヘドロの臭いがする。
はるか昔この一体は、田と畑しかなく灌漑用の溜池として人工的に作られたらしい。
戦後、開発が進み、池だけが取り残された格好で、どうにも使い道がない。
ヘドロの悪臭で、苦情が殺到する迷惑な池。
こんな整備すら忘れさられた池で鳴くウシガエル、情緒的といえばそうかもしれない。
ただし、ものすごくうるさい。しかも妙にドスの効いた鳴き声。
カエルってこんな風に、呪うように鳴くものなのか?
当時は受験勉強で苛立っていたので、もしそのカエルを見つけたら、石でも投げて文句の一つでも言ってやろうと思っていた。
そんなこともすっかり忘れたある日、受験も無事に終わり合格通知を手にしてご機嫌な私は、春先はそこまで臭わないので池の周りをぶらぶらと散策していた。
ふと池の淵で何かが動く気配に視線を向けると、岩の上にものすごくでかいカエルが座っていた。
これがもしかして噂のウシガエル?!
確かにでかい、体長20センチ以上はありそう。
捕まえたいという衝動に駆られ、そーっとカエルのいる岩に近づく。
その岩の周りは水が干上がり、カチカチに見えたので「これはイケる!」と俄然やる気を出した。
あともう少しで手が届きそう…な時に突然自分の足元がズブズブと沈み始めた。
ええええ、ここでヘドロ攻撃が来るとは予想外だった。
なんとか沈んでいく足を引き抜こうと四苦八苦していると、カエルが目の前をピョーンと飛んでいった。
ちらりとこちらを見て、池に消えていった。
その後、なんとか足を引き抜いて家に戻ったが、サンダルはヘドロ臭くて捨てた。
悔しくていろいろ調べたら、ウシガエルが長生きで野生でも10年近くは生きると知った。
最高でも16年は生きると。なんとも生命力の強いカエルだ。
あのふてぶてしいウシガエルにもう一度会いたくて、見かけた岩の辺りを犬との散歩コースにいれて通るようにしていた。
何度か通る時に気づいたのだけど、私がもがいた足跡の他にも大小様々なサイズの足跡がついていた。
どうやら度々あの岩の上に座り、人を誘ってるらしい。
そして、皆同じようにヘドロの罠に嵌る。
人間をからかってるのだろう、ふてぶてしい態度を取りつつ、決してすぐには捕まらない絶妙な位置で捕まえてみればー?と誘うのが目に浮かぶ。
それに引っかかった自分も情けないのだが。
カエルもなかなかに賢い生き物である。
※ウシガエルの発情期の鳴き声は1キロ先まで届く。
子犬サイズくらいはあったカエルのお話でした。
ちなみに未だに鳴いてます、さすがに子孫だろうけど。