近寄ってはいけない場所
小学五年生の秋に、平野部の田舎から山間部の田舎に引っ越した。
同じ市内なのに、あまりの不便さにビックリしたのを今でも覚えている。
当然学校も転校した。
転校する際にお別れ会を開いてくれたりたくさん手紙をもらったけど、引っ越し先には誰も遊びに来てくれなかった。
それくらい遠かった。
転校したはいいけれど、すぐに遊べる友達ができるわけもなく…放課後は一人で近所を散策していた。
以前いたところは田んぼと川があり、もっぱらそこで遊ぶのが常だった。
それに比べ、山しかないここで一体何をして遊ぶのか?
親しい友人もまだいない自分には、想像できなかった。
担任はヘビが出るから山に入ってはいけないと言うし、なおさら遊ぶ場所を探したかった。
そこでおとなしく家に居れば良かったのだが、同居している祖母と折り合いが悪く、働いている母が帰るまで家にはいたくなかった。
暇で仕方がないので、結局入ってはいけないと言われる山の一つに、散策に出掛けた。
山には入り口に「私有山立入禁止!」や「マムシ注意!」だのたくさん注意する看板があった。
ふ~んと看板を無視して獣道をどんどん分けいる。
小さな山だし、すぐに頂上に行けそうだと足を進めた。
途中までは道があったのだが、急になくなり藪が生い茂り、木々が行く手を邪魔する。
手で枝を払い、蛇がいないか足元を確認しながら頂上を目指した。
やっとの思いで頂上に着いたが、木に覆われていて何も見えなかった。
封じられた祠とか、曰くつきの廃墟とかがあるかも?と密かに期待していただけに拍子抜けした。
カラスが鳴き始め、真っ暗になる前に降りようと帰路を急いだ。
帰る途中、枝に顔を打ち付け、腕には擦り傷をたくさん負ってしまった。
ようやく元の入口にたどり着き、そのまま家に帰った。
その日の晩のこと、急に顔の半分が熱く感じ、腕もヒリヒリする。
自分の部屋から、家族のいる居間に顔を出した。
「ひいっ」
「うおっ」
「ぎゃー、化物!」
母、父、弟の悲鳴が響き渡る。
顔を出しただけなのに酷すぎる…。
むすっとしていると、母から頭を叩かれた。
「山に入ったね?」
「うん…」
鏡を見なさいと手鏡を渡された。
そこには、顔面が赤くまだらに腫れ上がった自分が写っていた。
「!!」
確かに化物と言われても仕方がない有様だった。
ふと腕を見ると、同じように腕もまだらに赤くなっている。
それをみた父が一言。
「ハゼに触ったんやろ。俺と同じやな。」
父もハゼ・漆に対してかぶれるらしく、触れなくても傍を通るだけで赤く腫れ上がるらしい。
その日はこっぴどく叱られ、弟には爆笑され散々だった。
次の日、休みたかったが顔と腕が腫れてるだけで、他はなんともないので学校に行かされた。
私の顔を見るなり、山に入ったのがわかったのだろう担任にきつく叱られた。
山に入るとこうなるぞ!といういい教訓になったらしく、腫れが引くまで目立って仕方なかった。
転校してきた時にはあまり近寄ってこなかったクラスメイト達だったが、意外に面白いやつ(禁止されてるところに堂々と入る)と認識されたのか、それ以来友人がたくさんできた。
結果よければすべてよし!
とにかく大人が近寄ってはいけないと口うるさく言う場所には、それなりに理由があると学んだ。
まさか自分が行った山が、漆とハゼの群生している山だったなんて、今考えても恐ろしい。
※痒い。書いていても痒くなりそう。ハゼ・漆にはご注意を。