最初の任務(ファーストミッション)
「ぐはぁっ…」
とある訓練所。そこには何十人もの新人がきていて、訓練に励んでいた。いや、訓練になってなかった。相手があまりにも、強すぎたからだ。
「おらーっ、もっと俺を楽しませろよ。今年の新人は、骨が無いな」
そいつは、相手が新人であるにも関わらず、手加減せずに、……手加減はしているが、相手へのことを考えるなら、もう少し手加減するべきだろう。けど、加減しなければ今頃は、冷たくなって床に倒れていることになったのは、言うまでも無かった。
「少しは、新人に気を使えよ。ま、怪我人や不適合者を出してないだけマシか…」
その訓練所に、入ってきた一人の男を見た。
「防衛隊のバンデルか。俺は戦いたいんだよ。血で血を洗うような、激しい戦いをな。こんな雑魚共では、物足りんよ。そうだ、バンデル、俺と死合え」
「ブレンダンと呼んでくれ。バンデルという名字は、あまり好きじゃない。それに、お前と死合うなんて、冗談ではない。俺かお前のどっちかが、死にかねない」
ブレンダンは両手をあげて首を振る。これの意味は、こんな馬鹿げたことをする気はないよ、の意味だ。
「フン、腰抜けが…。お前となら、死闘になると思ったんだが、殺る気が無ければ意味がない。とっと、失せろ」
ハァ、と溜め息をつきながら言う。
「仲間内での殺し合いは、一部の例外を除けば、禁止されている。そうでなくても、仲間同士の殺し合い程、馬鹿らしいことはないがな」
ブレンダンの言っていることはあっているし、その通りの結論と言える。しかし、この男は何かと問題を起こしていた。特に、こういった模擬戦に。
「まあいいさ。ちょうど面白そうな新人を見つけたしな」
男は楽しそうに笑う。ニヤッと。見る人が見れば、寒気のする笑いだった。「どこの新人を注目しとるかは知らんが、何事も無ければいいんだがな…」
何事かあってからじゃ遅いし、あの口振りからすると、何かを仕出かす可能性が高い。ブレンダンは溜め息をつきながら呟いた。
「何もなく、平和でありますように…」
それは、あの男が何もしないでくれ、と言う意味を込めたものだった。
その頃、隼人達は。
「そろそろ決まったかい?」
「ああ、一応決まったが…」
何が決まったと聞いているのは、所属する隊の話だ。強襲や諜報といったメイン的位置に対する主力隊に、黒翼、鋼鎖といった準主力隊がある。それらを含めると、その数は30以上はある。数ある隊から、どれを選ぶかは、本人の希望で決める時が多い(例外以外)。
「諜報に入りたいと考えています」
「何故だ? 強襲、遊撃の次に危険な隊だとわかってるのか?」
このことは嘘ではない。新人が死にやすい隊には、毎年5指に入り、実に危険性に富んだところと言えるのだ。過去には、死亡率一位にまで輝いている。
「わかってる。危険を承知のうえで、入ろうと思った」
「……それは、復讐の為か? なら、言わねばならないことがある」
「いや、復讐の為ではない。家族を皆殺しにした奴を殺したいだけだ。言わなければならないことが、止めとけなら、聞くきはないよ」
「世間では、それを復讐というのだがな…。いや、止める気はない。だが、2つは言わせてもらう。まず、今のお前ではかてない。わかるな」
隼人は黙っていた。そのことに関しては理解しているのだろう。
「次に、お前の家族を殺した奴がわかった。とても危険な奴だ」
正体がわかったといわれ、隼人の顔は、驚き半分怒り半分といったような顔をしている。驚きは、この組織の情報力と犯人の特定。怒りは、殺された家族のことだと、予想がつくだろう。 「何者かわかるのか?」 そういったことを聞いてくるのは、普通だろう。有名で言えば、半数以上の人は知っているかも知れない人物だった。
「殺戮たる芸術家。別名:キラーアート」
隼人は驚愕した。世間で騒がれてる殺人鬼で、殺した人の数は合計すると、一万人以上と言われる稀代の殺人鬼だ。
そう言われる由縁は、殺し方の豊富さ、殺し終わった後で、その光景を絵に書いたりしていた。絵を書くのは、その日の気分とか、殺しに芸術性を感じた時とか言われており、毎回書いている訳ではない。
この殺人鬼は、5年前に現れ、今も捕まっていない。そして、この殺人鬼には、一部のファンが出来たり、漫画のモデルになったこともあるくらい有名だった。
「特定出来た理由に、これが落ちてた」
そう言って一枚の絵を見せる。途中まで絵が書いてあるが、駄作と見なしてか、一部が赤く消されている。多分、血で消したのだろう。血で消されてないところには、あの惨劇の一部が写っている。
「年間、千単位の人を殺してる奴だ。今戦っても勝てない。しかし、月日が発てば、勝てるかも知れない。それはお前次第だ。隼人」
今、こんな化け物クラスと戦っても、数秒と持たないだろう。新開の言うことはもっともだ。
「そのことがわかったなら、まずは死なないようにしろ。明日は、最初の仕事だからな」
「どういう内容ですか?」
気になるのか、仕事のことを聞いてきた。新開は、少し黙った後、喋った。
「…オー・フォックスって組織を知ってるか?」「いえ……」
「オー・フォックス。元は、集団スリや泥棒をやってた組織だが、最近は殺人にまで手を伸ばした連中だ。死者の数も3~4百人でてる。依頼人及び、ボスも、この組織を滅せよとのことだ」
少し疑問点があった。何故、ここまで被害が出てからやるのか、そのことが気になった。
「一つ質問していいか?」
「いいぞ」
「どうして、最初に被害が出た時、その組織の抹消行為を取らなかった」 そう考えるのは当然の疑問であり、自然なことだった。最初に手を打てば、ここまでの被害は防げたからだ。
「…それには理由がある」
新開は、歯切れ悪く応える。
「まず、依頼人がいなかったこと。次に、被害が表面化しないと、動きにくいこと。そして、組織規模が大きい為、ある程度の犠牲者が必要になること。これが理由だ」
「何故、表面化しないと動きにくい。組織規模で犠牲者数を決めて動く理由はなんだ?」
普通に考えれば、少し矛盾していることだったし、そう思う人は多いだろう。
「表面化しないと動けないのは、こいつが悪だ、と多くの人に思わせねばならないからだ。表面化しなければ、あの組織は泥棒、スリをするぐらいの認識しかない。他の国は知らないが、日本でスリや泥棒で人を殺せないし、殺したらどうなると思う?」
いいたいことは、大体理解出来た。つまり、殺人にまでいってない人を殺せば、やりすぎだという人は多いだろう。それに、過激派として目をつける連中が現れる可能性もある。
「…次の話をしよう。組織規模で決まると言うのは、皆殺しをするには、何人で何人からと、決めておく必要があったからだ」 つまり、組織の大きさによって、上限を決めているという話だった。そのことに関して、また疑問点が浮かぶ。
「ちょっと待て。組織を壊滅させる前に、人殺しした奴を殺したりは、しないのか?」
組織規模で規定を出すのはわかったが、規定を満たす前に、そういった殺人に手を染めた奴の処分はどうするのだろうという話。
「条件を満たすまでは、基本的に放置。というか、ある程度のランクになれば、自己判断で決められる」
つまりそういうことか。上の者は、自己判断にまかせ、下の者は、上の者の命令があるまでは動けない。と言うことか…。
「ま、その辺は複雑なところだ。組織ならではの、長所があれば短所もあるってことよ。俺の考えを言えば、疑わしい者は、先に討て。最初の被害は、次の被害の種火ってな。」
新開は、ため息混じりにそう呟いた。その表情には、組織に関する不満が見えたような気がした。
「ま、暗い話は置いてといてだな…。お前には、明日の任務前に渡す物がある」「渡す物?」
隼人は、それが何なのかわからないようだった。
「武器だよ。それとも素手で戦うかい?」
そのことを察したらしい新開は、そう言った。「武器か… どんな武器だ? 飛び道具じゃないってことは、刀か槍とかか?」
どんな武器か知らないからか、そんなことを聞いてくる。飛び道具を使えない。そう考えれば、普通に刀か槍にたどり着くだろう。しかし、次に言ったことは意外なことだった。
「違うな。武器が配布されると思っているなら、それは違う」
「どういうことだ?」
武器を渡して戦えって意味ならわかる。だが、それが違うとなったら、どういう意味になるという話になる。
「いや、武器を渡す手助けをしているのだよ。人が武器を選ぶのではなく、武器が人を選ぶのだよ」
「武器が人を選ぶだと!?」
「英雄とか一騎当千の将とか、それと比べると少しパッとしない達人呼ばれる人達は、武器の扱いが上手い。それは当然だ。それ以上に、武器に選ばれし者が使うからが、故にそうなるものと考える」
つまり、武器の扱いに長けた者は、選ばれし者が使っているからだと、言いたいらしい。
「ま、言うべきことはいったし、これでおしまい。もう少し話しててもいいが、ちょっとした用事があるんでね」
そう言って新開は、来た道を戻っていった。用事と言うのは、仕事絡みのことだと思ったのだろう。
「あっ、そうだ」
何か言い忘れてたように声を発し、くるりと振り返った。
「お前が昨日寝てた部屋、引き続き使ってていいぞ。今のところはな」
「何もすることないし、そろそろ戻るか…」
もっとも、戻ったところで、部屋には何も無い訳だが…。変にうろついて迷子になるのは、笑えない話だ。
「明日か…」
寝るには少し早いが、起きててもすることがないので寝ることにした。そして、そのまま眠りにつくのだった。
「ぐふっ」
心地よく眠っていた隼人に突然、何かの衝撃が走った。 謎の衝撃で目が覚める。隼人の視界には、人がたっていた。
「やっと起きましたか」 どこか呆れたような声が聞こえた。隼人の口から手が引き抜かれる。さっきの衝撃は、口に手を突っ込まれたことだったことを理解した。
「……めずらしい起こしかただな。流行っているのか」
もっとも、こんなものが流行るのは、嫌だが…。
「このようなやり方で起こすのは、あなたで2人目です」
あ、もう1人いるんだ、と思った。とりあえず視線が冷たい。こういうのを、冷淡な視線って奴かな。ひとまず挨拶を試みる。
「えっと、おはよう」
「おはようではありません。もうとっくに、時間が過ぎてます」
時間と言うのは、新開が来いと言ってたことか。それにしても……。
おそらく身長は170はあるだろう。隼人の身長は175あるのだが、それより少し小さい程度だ。年齢で言えば、隼人より二つ三つほど上に見えた。
容姿をみれば美人なのだが、硬質の美貌よりも感情の乏しさ、愛想のなさを印象づけられる、そんな女性だ。
頭は銀髪のストレートヘアーで腰まである。見つめられると底冷えしそうな碧い双眸。
だが、一番目を引くのは…、長身ながらバランスのとれた姿態に、そのすらりとした身体ににあわないほどの豊満な胸。 服を内側から押し上げてる二つのふくらみを、凝視してしまった隼人に、女性はポケットからナイフを取り出して冷たい言葉をなげた。
「これを口に突っ込めば、しっかり目が覚めるでしょう」
「…すまない」
気まずくなり、謝った。あのままだったら間違いなく、口にナイフを突き入れられていただろう。
「謝る暇があるなら、さっさと準備をしなさい。そのだらしない顔を洗いなさい。その寝癖も直しなさい。というか、時間前には起きて、集まっておくようにすべきでは?」
口を開けばダメ出しの嵐。声もどこか冷ややかだ。
「そんなにだらしないか?」
「殺意を覚える程度には。喋る暇があるなら、身だしなみを整えてからにしなさい」
そう言われて、黙々と身だしなみを整える。どうやらこの女性に嫌われているようだ。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はー」「言わなくてもわかります。久那森隼人であってる筈だと思いますが」
「ま、まあ、そうだが…」
名前を言った覚えはないし、この人とは初対面なのだが名前を知っているようだ。その女性は振り返りもせず、名前を言った。拒絶するような冷酷な声で。
「私の名は、シルフィー・リーシャ。覚えてもらう必要もありません。あなたはもうすぐ、死ぬのですから」
俺が何かしたかと言いたくなるほど、リーシャからの印象が酷かった。遠回しに、死ねとまで言われた。
しばらく歩くと、ある部屋の前で止まる。その部屋のドアは他とは違い、装飾がほどごしてあった。そのドアをノックし「入れ」の一言をもらうと、お辞儀をして入った。「よ、遅かったじゃないか。少しばかり待ったよ」
そう言って、サッと後ろに何かを隠した。一瞬だったけど、マンガに見えたような…。
「待っている間にも、仕事をしたらどうですか? 仮にも、この東北においての諜報隊全ての指揮を受け持つ総指揮官ならば、なおのことです。マンガを読んでいては、部下に示しがつきません」 そう言って新開に近づくと、手を突き出す。新開はそれを名残惜しそうに、ポンと差し出した。差し出された本には、読んでわかる釣りマンガⅣと書かれていた。
「…本を読むのはたまになら許します。しかし、良く読んでおられるようですね。この前、部下からマンガを借りていたと聞いてますが」
新開の顔には悪事がバレたという顔ではなく、読んで何が悪いと開きなおっているかのように思えた。
「わかってないな。マンガ、ラノベ、アニメ、これらは、日本を代表すべきモノだぞ。日本人なら読まない手はない。言っちゃ悪いが、日本だけだぞ。こんなに種類があるのは」
力説をするも、リーシャはそういうことには興味がないのか、その話はそのままスルーされる。「それよりも、隼人の用事をサッサと終わらせてください」
「ああ、そうだったな」 忘れていたのか、今思い出したかのように言った。
「隼人は新人だ。つまり、武器を持ってない。言いたいことがわかるな。リーシャ。」
「はい。創世輪廻の間ですね」
創世輪廻の間? 聞いたことの無い名前に疑問を浮かべる。貰った紙にも書いてない場所だ。
「わからないようだな」 そう問われ、コクリと頷く。
「創世輪廻の間。そこは武器を蘇らせるといわれる場所。今でも残っている武器から、今ではない武器、それに有名な武器までと様々だ。どんな武器を手にするかによって、今後が決まると言って過言ではない。さあ、行ってこい。任務の話はその後だ」
言われるがままあるいていくと、見知らぬ場所にたどり着く。
「ここが、創世輪廻のといわれる場所です」
リーシャは淡々と答える。その場所は、荒れた荒野に、剣や槍が何千本と刺さっていたり、折れていたりしていた。武器の墓場みたいなとこだ。 使えそうなモノがないように思えたが、刺さっている剣を一本抜いてみる。根本からボロっととれて、使いモノにならなかった。
「ここにある武器は全て使えないと思うんだが…」
そういう隼人に新開はこうアドバイスをする。「目に見える情報で捉えるな。武器の声を聞け。そうすれば手に入る」
武器の声? 疑問に思いながらも、眼を閉じ、集中した。全精神を傾けながら。
自分で想像したのか、頭には剣が浮かんだ。そして、誰かが俺に問う。誰かが言った。誰の為戦うのかと。誰かが言った。何を求めるのかと。そして、問われた。汝の名はと。
隼人は考える。本当に思っていることを。あの時は復讐ばかりを考えていた。でも、それは違うと思った。別の答えを見つけたからだ。
「戦うのは自分の為。求めるのは誰もが笑える平和な日常。名は久那森隼人」
問われたことを言い終わると、謎の誰かが言う。我の名を呼べ。我の名はーー。
「来い! 風絶乱舞・銀閃!!」
手を振りかざして名を叫ぶ。その手には、気づけば刀が握られていた。「こ、これが、俺の刀……」
新開はニヤニヤしている。
「良い剣を手に入れたな。それでは任務内容を説明するか。今から三時間後、車に乗って組織に襲撃をかける。隼人達は、第三出口で待機してろ。人数は58人。お前ら新人が40人。上等兵10人。兵長4人。少隊長2人。そして、特別に俺ら、諜報隊総指揮官と諜報隊準総指揮官のリーシャも同意しよう」
新開の言葉にリーシャは驚いて、眼を見開いている。
「ちょっと待ってください。この任務のランクをわかってますか?」
「わかってるよ。最も扱いやすいランクの一つ上ってところだ」
ランクというのは難易度を示している。一番簡単と言われるランクは、東北ではEだった。この任務はつまり、Dを示していた。
「このような任務にわざわざ足を運ぶ必要はありません! 比較的簡単な任務です」
実際、高位の者ほど難しい任務をするのだが、簡単な任務をするなとはいわれてない。だが、大概はやらないのが主流だった。
「ま、特務もないし、相手の人数も600人だからな。ちょっとした手助けをしても、問題ないだろう。リーシャ。行くのが嫌なら俺だけでいこう」
リーシャは少し不機嫌だったが、結局この任務についていくのだった。 隼人は10倍以上の敵に不安を感じずにはいられなかった。




