好奇心はときに
まあ、酔って気が大きくなっていたのがまずかったんだろう。
久しぶりに仲間内で集まって、酒と肴を買い込んで宴会をやった。
色々馬鹿話をして、後から思えば大して面白くもない事で笑って、
愚痴交じりの近況報告とかしてて、ふと全員の話が途切れた。
「ああそういやさ、あっちの方に豪邸あったじゃん?
住んでた奴が問題起こしたとかで引っ越してったらしい。
んで、売られもしないし取り壊されもしてないんだわ。
ちょっとお宅拝見とかしてみねえ?」
「まあ、あれだけ大きかったら買い手だって金持ってないとさ。
取り壊しだって結構費用掛かるだろ。放置すんのは分かる」
「お宅拝見って、不法侵入だろがそれ。やばいだろが。
まあああいった金持ちご用達のお屋敷っつーの?
中がどんなんなってるか、ちょっと興味はあるけどさ」
「平気だろ。もう何年か経ってて誰も寄り付いてねえもん。
要するに管理もしてないって事だろよ。
んなとこお邪魔したとして、バレてもごめんで済むんじゃね?」
「あー、どうだろうなあ…この辺、警察とか巡回はしてねえか。
そもそもバレる事もないかもしれねえよな」
「んじゃ行ってみるか?」
確かそんな感じの会話をしていたと思う。
結局夜中の一時過ぎぐらいだったか、全員でぞろぞろ出かけてった。
◆
この豪邸、昔の華族とかってこういうとこ住んでたろうなって感じ。
外見は二階建てだが、横に長くて荒れ果ててるけど庭もただっ広い。
玄関前には、水こそ止まってるが噴水らしきものも残ってる。
全員酔ってるくせに、上品そうな装飾のついた鉄柵をよじ登って、
少しふらつきながらも全員敷地の中に侵入した。
もし誰か住んでいれば、ここで警報とか鳴り響いて番犬が吼えそう。
全然そんな事もなく、虫の声すら聞こえもしない。静かなもんだ。
きょろきょろと辺りを見ながら正面玄関へと近づいてみたが、
さすがに観音開きの扉は閉まっている。
左右に並んでいる窓を見るが、高くてちょっと手が届かない。
そちらからは中に入れないだろう。肩車でもするか?
なんて考えていると、
「おい、ここ鍵がかかってないぞ?」
正面玄関に手をかけた奴が、あっさりと扉を開けていた。
不用心だな。と思ったが誰も住んでいないならこれでいいのかね。
スマホで照らしながら、全員で正面玄関をくぐる。
◆
いやすげえな。外は外で豪華だったが、屋内も相当なもんだ。
入口の天井は吹き抜けになってて、二階への階段が弧を描いてる。
絵とか彫刻とかでかい花瓶とか、あちこちにそのまま残ってるし。
床は老舗の大手百貨店なんかで見かける石造り、大理石とかか?
廊下が左右に続いているが、実は玄関の奥にも部屋があるらしくて、
そっちにも廊下が続いていた。ちょっと感動するわ。
ここまで来たんだし、隅から隅まで見ていこうぜとなって、
五人行動を共にして移動を始めた。いや広い広い。
明かりがスマホ頼みなんで、室内の全体像が良く分からないが、
客間やら居間やら食堂やら全てがでかいし高級品っぽい。
備え付けで固定されてる家具は傷ひとつなくきれいなもんだ。
金って持ってる奴は持ってるんだよな。羨ましい事で。
◆
一階部分は、風呂も便所も残さず見終わったので、二階に上がる。
多分こっちは住んでた連中がプライベートで使う部屋なんだろう。
一階よりも小さな部屋がいくつも続いていた。
まあ普通の住宅なんかと比べりゃあどれも充分でかいんだけど。
どの部屋も、鍵はかけられるようになっているが、かかってない。
住んでいなけりゃ戸締りする必要もないから開けていったのか。
端から順に見ていって、一つだけ中を見られない部屋があった。
鍵は開いていたが、扉を開けたら家具がギチギチに詰まってたんだ。
物置かなんかだろう。さすがに酔ってたし家具を全部どかしてまで、
中を確認しようなんて気は誰も起きなかったので扉を閉めた。
想像してたよりは面白かったんだが、ハプニングはなかったかな。
◆
不法侵入からしばらく経って、あの豪邸の妙なとこに気が付いた。
家具でギチギチだった部屋。
扉を開けてすぐ、家具が詰まってた。外側から入れたんじゃない。
内側から家具を使って、入られないようにしてたんじゃないのか?
…それこそ、何のために?なにかに入られるとまずかった?
あれこれ考えていたが、まだおかしなところがあると気が付いた。
問題起こしたってんなら、値打ちもんの絵とか売り払ってるよな。
本人か借金取りか、いずれにしても金に換えてるだろう。
なんだってほったらかしにしたまんまなんだ?
いやまだおかしい。
あの豪邸、外側から見たら背の高い窓がずらりと並んでいたんだ。
なのにどの部屋も、スマホの明かりがないと中を確認できなかった。
思い返してみれば室内から豪邸の外を一度たりとも見た記憶がない。
当日は月も出ていた。それほど暗い夜ではなかった。
窓があったなら月明かりが見えたはずだ。塞がってたのか?
そう言えば室内でカーテンとか一度も見ていないぞ。
気になる事が多すぎる。仕事が終わってすぐ仲間に連絡を取る。
夜道を歩きながらグループに向けて文字を打つ。
「ああ、お前も気づいた?」
「おかしいよな、あの豪邸」
「俺もちょっと変なこと気づいた」
「なんだ?他にもあったか?」
「俺達、鉄柵よじ登って入ったよな」
「うん」
「帰りは門から出てたよな?」
「ひらいたね」
あっ。
そうだよ、門が閉まってたんだ。だからよじ登ったんだ。
なんで帰りは門から出られたんだ?いや開いていたぞ?
「嫌な事いっていいか」
「うん」
「なんだよ」
「あの豪邸ってさ、なにか閉じ込めてたとかないよな?」
「なにかって」
「鍵を開けるって考えができないけど、開いてたら出ていくやつ」
「なんだよそれ、妖怪とかなんかかよ」
「みえなかったし」
「わかんねえ」
「けど正面玄関開いたなら、その時なにかは出ていけるよな」
「だからついていってた」
「ほんと嫌な事いうよな」
「いやだからさ、それで取り壊せなかったんだとしたらさ」
イヤだイヤだイヤだ。
ヤバいのがいて、それをうっかり出しちまったとかイヤすぎる。
家具の部屋は、バリケード築いてああなったんだとしたら。
見えなかったけど何かがあの場にいたんだとしたら。
バリケードの中にまだ誰かいるとしたら。
イヤな想像が膨らんでいく。
「すげーいやだけど、もう一度あそこ確認したほうがよくね?」
「どうしよう、集まってまたいくか?」
「もういないよ」
次の休みに、今度は昼間から全員で行くことを決める。
スマホを切って急ぎ足で家に向かう。
ん?…いないって、なにがだ?
多分、元の住人が祠とか壊しちゃってる




