鏡は教えてくれた。余計な事まで
王妃が後妻として嫁ぐ前から、彼女には就寝前の日課があった。
「鏡よ鏡、この世で一番美しいのはだれぞ?」
真実だけを告げる魔法の鏡。
実家から持ち込んだそれは、あらゆる質問に対して真実を告げる。
これまでは、
「それは貴女でございます」
と告げていたし、今夜も同じ回答を得て晴れやかな気分で床へつく予定だった。
が。
「それは貴女の義理の娘でございます」
不愉快極まる答えが返り、しばし彼女は理解を拒んで沈黙した。
確かに最近、義理の娘は美しい。美しすぎる。
見ていると吸い込まれるような艶ある美しい黒髪。
少女とは思えないほどに惹きつけられる唇。
微笑むと薔薇色に染まる頬。
許せない。
体の線が崩れるので、陛下にも閨の我慢をさせ、あらゆる美容剤を使いまくり、
日々の食事と体調管理も気を遣ってきたというのに義理の娘に抜かされた。
あの娘はただただ若いだけ、自分のような努力などしていないというのに!
…なら、義理の娘がいなくなればいいのでは?
「殺すか」
と何も映していない瞳でつぶやく王妃。
そこに、
「お勧めできません」
そう律儀に魔法の鏡は答えてきた。
「なぜじゃ!?
あの娘が亡き者となれば、わらわがこの世で一番美しくなれるのじゃぞ!」
「一番美しくはなれないからです」
王妃に理解のできない答えが返ってきた。
「…何を言っておるのじゃ?」
「この世で一番美しいのは、貴女の義理の娘でございます。
二番目は北の町に暮らす古道具屋の娘、三番目は西の村の農家の娘、
四番目は東の港の料理屋の娘、五番目は南の…」
「待て待て待て待てぃ!」
「はい」
魔法の鏡は律儀に待った。
「わらわは一日で、何人もの娘達に美しさで抜かれたと申すか」
「その通りでございます」
「わらわは何番手なのじゃ」
「圏外でございます」
「けんがい」
「統計にも入っておりません。比較以前の問題でございます」
魔法の鏡は無常に告げる。真実だけを。
「…ああ、今一度聞くぞ。国内二十代女性の中ではわらわは何番手なのじゃ」
「暫定二百五十五番目でございます」
「…二十代女性、既婚、王都限定では何番手じゃ」
「暫定十九番目でございます」
ここまで条件を絞っても、この順位。
王都ででも、十八名を殺めなければ王妃は美しさで頂点に立てない。
今まで美に対する努力を惜しまず、欠かさず、絶やさなかったというのに。
…ん?
「その暫定、というのはなんじゃ」
「今後の順位変動によって、さらに上下するということでございます」
「つまり明日にはまだ下がる余地があると」
「その通りでございます」
どこまでも正直な魔法の鏡。真実だけを告げるので。
王妃は絶叫した。夜も更けたのに。周りの迷惑顧みず。
まあ顧みなくてもよいだけの権力はあるが。
慌ててやってきた側付きたちに、何でもない、恐ろしい夢を見ただけじゃ、
と頑として寝室には入れず、一晩中眠れぬまま朝を迎えた。
次の日より。
王妃は吹っ切れた。努力しても不可避の限界があると吹っ切れた。
権力をどう悪用しても不可能な現実があると吹っ切れまくった。
前日まで溜りに溜まっていた色欲を完全開放させ、連夜国王と張り切った。
肌に悪い、体重が増えると言われて我慢していた数々の好物を貪った。
苦痛に感じていたが体形維持のため続けていた美容体操をすっぱりやめた。
他人への美の嫉妬は影を潜め、よくいるふくよかな女性へ変貌を遂げた。
しかし普段の表情は、実に幸福に満たされたものとなったという。
魔法の鏡は、あの夜を境に使われていない。
ランキング通知が来るのを見ていて思いついたお話。
自分は二十代女性ではありませんが。




