空を見上げて
空を見上げて
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初めて人類が地球に出たのはもう2000年も前、当時の科学力で大気圏を出るなんて今だったら「正気?」って止められる。当時のコンピュータなんて大した性能がなくて家庭用ゲーム機相当、それも頭に「スーパー」がついたらもうボロ負けという性能しかない。メモリーなんて搭載しても写真が二つ入ればいい方、ゲームのカートリッジは圧縮を繰り返して詰め込んでも足りず、ボスを二人削ってギリギリ入って残りは6バイト!なんて時代のはずだ。その時代でも宇宙に行くんだから人間の探究心はすごいを通り越して怖い。死んだらどうするんだろう。
今回の依頼はそんな時代のものが混じっている。大昔に大事だったシンボルが狙われていて、裁判沙汰。証拠をでっち上げられると困るから見張っていてほしい、というもので箱の中には「大事なシンボル」が入っているらしい。当時高名だったコメディアンの映画ですか?と聞いたカゼノさんがそれはもう怒られていて、二度と言ってはいけないらしい。おかしなものではないはずなのにとカゼノさんが言ってたので気になったけど「カリンカさんは知らなくていいよ」とシリカ君に止められた。後で一人で調べよう。
箱の中は何か教えてもらえず、とにかく揚げ足を取られなければいい。それくらいならできるし業務の範囲内だから請け負った。そしたらいきなりカゼノさんが喧嘩を始めた。
「またお前か!ここが百年目だ!」
「何よ、こっちは千年目よ!」
数字で争っても仕方ない話なのにこっちに走るカゼノさんとケイトさん。揚げ足を取ろうという人たちはケイトさんを雇ったみたいで、変装してうろついている。普段着ないようなかっちりしたコートとサングラスなので、あれはたぶん変装だ。ケイトさんは敷地の外をたまに横切っていた。
そんなに熱くならなくてもいいのにカゼノさんはもう息が切れている。よっぽど楽しいんだなあ、と感心していたら、カンカンに怒ったカゼノさんがまた叫び始めた。何が入ってたらあんなに言ってくるんだ!どうやらいつも通りだと思っているのは私たちだけで、ケイトさんの言い方がひどかったらしい。お熱いですね。シリカ君が依頼元の来歴を教えて、落ち着かせた。
「地球郡の、旧合衆国のものですから確かですよ」
げ、地球かよ、とカゼノさんは嫌そうだった。地球は合衆国に限らずいつも喧嘩ばかり、なんとか少しでも良くしようと人前に出た人は集中砲火を浴びて再起不能になるどうかしている場所だと文句がマシンガンのように出てくる。そんなことないでしょう、連邦の偉い人じゃないんだから、と私がなだめるとカゼノさんは、そりゃそうだけどよ、と座り直した。納得した様子が全然ないから、またすぐ暴れるんだろうな。そう思っていたら、心配いらなかった。依頼元の邸宅が、大騒ぎになった。
敵対勢力の私設軍隊に近いものが乱入して、大暴れ。私たちは兵士じゃないのでこんな事態になったら「きゃー!」しか言うことがない。逃げ回って隅っこの部屋に隠れると、カゼノさんが一人で出て行こうとした。あんなの相手にしたら、ケガじゃすみませんよ!って止めたけど、「カリンカさんが痛いの飛んでけってしてくれりゃ平気」と言って止まらない。シリカ君も一緒になって止めた。
「戦うくらいならせめてあの部屋にいましょう、渡しても言い訳が立つし!」
カゼノさんは一瞬考えて、あの部屋にはいなくていい、と言っていた。しばらくして騒ぎが収まって、おそるおそる部屋に帰った。部屋にいたのは、ケイトさん?箱を開けて中身を写真に撮っていた。何してるんですか、不法侵入ですよ!と言ったけど、ケイトさんは私たちに聞きたいみたいで。
「……ねえ、何これ?」
箱の中に入っていたのは、旗。これは当時の合衆国のものだ。なんでこんなボロボロの旗が大事なの?って私たちが聞きたい。ケイトさんは不思議で仕方がないようで、これは合衆国どころか地球にあるはずないものだ、と言っていた。合衆国の旗が地球にないならどこにあるのかと思えば。
「……月にあるはずなの」
……合衆国が打ち上げた宇宙船が初めて降り立ったのは、地球の衛星。広い宇宙の中ではわずかな距離でしかないけど、みんな喜んだと聞いたことがある。今もこの旗は月面に立てられているはずなのに、合衆国から持ち出された。どういうことだろう。部屋にカゼノさんが戻ってきて、よお、とケイトさんに言った。いるか?と聞かれたケイトさんは、少し考えた後いらないと言って帰った。その後依頼元を中心に大騒ぎ、ウチの事務所は怒られたけど撃たれるなんて聞いてなかったからうやむやになった。
※
大昔の旗は、今私たちの手元にある。今は昔の話で意味もなければ価値もない。歴史的な話も歴史が違ったなら何を見ればいいかわからず、連邦警察はずさんだからこういう困る物は私たちに送りつけて終わらせたみたいだった。カゼノさんは、宇宙艇を走らせた。目的地は、月。
……当時の地球は大変な場所で、右も左もわからなくなった地球の人たちはせめてと思って上を見上げた。きっとそこに、素敵なものがあると思って見上げていた。これはそういうものだったんじゃないかって、カゼノさんは月に降りた。旗を地面に突き刺して、言っていた。
「小さな一歩だ。遅くなったな、船長」
カゼノさんは旗を一回なでると、宇宙艇に戻ってきた。風のないはずの月面で、旗はたなびいているように見えた。




