賭博墜落録KSK
賭博墜落録KSK(惑星間探偵事務局KSK)
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我が家はギャンブルが禁止だった。おじいちゃんがとても厳しく、絶対にやってはいけないといつも言っていた。元を正せばおじいちゃんが株で失敗して当時の会社を潰しかけたのが発端で禁止になったので、自分のことを棚に上げて!とおばあちゃんがいつも怒る。どのみち賭け事で身を持ち崩す人が多いのは事実だし、分不相応のお金を賭けたら怖くて仕方がない。だから禁止されても納得していたし、だからカジノに行くなんて初めてでどうしていいかわからなかった。
白鳥座の外れにあるベータ惑星の衛星コロニーには、地球系企業が作った大きなカジノがある。地球に作ると治安の悪化を理由に大反対を受けるので、外宇宙に。賭け事が好きな人は宇宙の果てまで飛んできてお金を落とす。来なければいいのに、と思ったらそれは死んだ人の考えらしい。奥が深いなあ。
今回の仕事は、カジノに入り込んだ闇組織の資金調達係を見つける、といういつになく真剣な話だった。公的機関の依頼かと思えば、星の人の同盟から。近隣の惑星に住む人たちの星内会が、ガラの悪い人が来るようになったから見つけてほしい、というところから進めた。どうやって活動資金を集めているのか、と考えると星内会をもう一つ作っているわけでもないのにこの辺にはお金が集まらない。真上にある衛星のコロニーにはカジノがある。もう少し隠せばいいのに、と思うけど怖い人たちににらまれたらみんな黙るから、隠す必要とかない。カジノ側が手を打つには、この人だ!くらいはわからないといけないけどみんなに聞いて回ったって自分で言うわけもなく、誰かがカジノの情報をリークしている、というところで止まっている。だからお客さんに混じって見回ろうという話で、私とシリカ君は正装でカジノにやってきた。
最初はどうやって入り込むかから考えて、私がカジノのホール係に混じるという案もあったけど、私にはカジノの勝手がわからない。「カリンカさん、着るだけ着てみましょう!」ってカゼノさんが必死だった。カジノのホールの女性だから、その衣装はラウンドガールみたいなボディラインの出るものとか、バニーさんとか。なんでできないとわかっているのに着ないといけないのだろう。正装をしてお客として行けばいいんですよ、とシリカ君が言うと一瞬本気で怒ったけど、すぐに考えを改めた。
「カリンカさん、オレのパートナーという体で!」
すでにシリカ君が段取りを進めていて、中くらいの企業の御曹司と姉、という体で入店予約を取っていた。カゼノさんは、せめて!と肩の大きく開いたドレスがいいと主張したけど、もちろんシリカ君が当たり障りのないものを用意してくれていた。なんて頼りになるんだろう。
だから、と言うのも変だけど別口のお客さんとして入店したカゼノさんはとても機嫌が悪い。向こうでルーレットに賭け続けている。大丈夫かなあ、カゼノさんだからすぐにすっちゃうんじゃないかなあ。そう思っていたら、なんだか回りがざわついている。カゼノさんがすごく勝っていてチップが山積み。でもみんなが不思議なのは、そこじゃないらしい。
「……おい、真面目にやってるのか?」
怒られているのはディーラーさんだった。焦った様子で、またルーレットを回すとみんなが賭けた。カゼノさんは、黒。またですか?と聞かれて、さっきも黒だったからな!って言っていた。そんなことで大丈夫かなあ、と思ったら、玉が黒に入った。やったぜ、まただ!って喜んでいて、いつ負け始めるかとても怖いんだけど、シリカ君が言っていた。
「心配ないよ。勝つようにやってるから」
……え?カゼノさんは次もその次も黒に賭けて、ルーレットは何度でも黒に入る。シリカ君が言うには、勝ちのラインに乗っているらしい。ディーラーは主導権を握らないといけないから、お客に振り回されるわけにはいかない。すでにペースを捕まれているなら、右往左往し始めたらそれこそ壊滅的。だから意地になって黒を出し続けて、お客が自分で赤に変えるのを待たないといけないけど、知ってるから変えるわけない。難しくってわからなかったから、それだとディーラーさんが自分で色を決めてるみたいじゃない?と聞いたら、決めてるらしい。この手のカジノのディーラーの基本技術で、思った場所に入れること自体は簡単だそうだ。ただ、入れれるからって煙に巻けるかはまた違う話で、次はどうするか読まれたら今のカゼノさんみたいに荒稼ぎ。行動パターンが理屈だから自分で変えられないそうだ。だんだん顔色が悪くなってきたディーラーさんは、お腹を下して席を立った。ああ、かわいそう。ラウンドガールの衣装を、あてがうくらいしてあげればよかった。その後、代わりのディーラーさんが来たんだけど。
「「……げっ!」」
二人仲良く声を合わせて嫌がった。来たディーラーは、この前初めて会った他事務所の探偵。女性探偵のケイトさんは凜々しくてかっこよくて、カジノのディーラーの服がよく似合う。二人とも、なんでこんなところに!って聞かなくても星内会が事務所をいくつかあたっていたのだと予想がついて、額が安いのはウチとケイトさんのところなのでここは外れない。いくら仲が悪くても、今回は依頼元が同じだから表だって喧嘩しないと思ったんだけど。
「潰してやろうじゃない、見てなさい!」
「さっきのヤツみたいにトイレに送ってやるよ」
喧嘩に理由とか関係ないみたい。楽しいんだろうな、そうは見えないけど。ケイトさんがルーレットを回すと、カゼノさんが赤に賭けた。ディーラーの交代は特殊な状況だからここで一度変えたいだろう、でもここで当てればまた同じになる。カゼノさんの勝ちだよ、とシリカ君が言っていたけど玉が入ったのは黒。外れ。
「「あれ?」」
……カゼノさんはともかくなんでケイトさんまで不思議がるのだろう。まさか、基本技術がないのだろうか。潜入しているのに?ケイトさんはやっているつもりみたいだけど、入ったとか入ってないとか半々に分かれる。完全に確率だ。確率勝負が始まった途端カゼノさんがみるみる負け始めて、赤字になるギリギリのところで私とシリカ君が止めに入った。今なら最初からやってないのと同じです!って何回言っても次は当てると言って聞かないので、仕方なく。
「カゼノさん、私賭け事はわかんないからつまらないです。一緒に夜風に当たりに行きませんか?」
もちろん二人きりじゃなくてシリカ君を交えてみんなでお散歩だけど、カゼノさんはそこは考えずに涙を飲んでついてきた。ついてきた後きっちり泣いてたけど、破産しなくてすんだからたぶんこれでいい。
カゼノさんがあわや再起不能だから一度休んでもらう。カジノを見て回って、わかることだけでも知っておこうと思って、シリカ君と二人で店の中を回った。足下にコインが転がってきて、落とした男性に渡そうとしたんだけど。
「素敵な女性に会わせてくれた。そのコインは、あなたに」
コインを一枚だけもらって、でも使い方がわからない。ええと、と考えて、カジノにいるのに賭け事をしないのはおかしいかもしれないからこの一枚だけ使う。どうしようかと思っていたら、男性は私とシリカ君をファイブアウトの台に連れていった。名前しか知らないから、どうしようかと思ったけどシリカ君が知っていた。
「カードを二枚持っておいて、他の人のカードにぶつけるんだ」
1から10の数字が書かれたカードが、4セット。混ぜられて山に積まれている。ここからみんなで二枚ずつ持っておいて、みんなで一枚引いて一枚捨てるを繰り返す。自分のカードと捨てられたカードの合計が5の倍数なら、ファイブアウト。数字の合計が得点になる。最大30点で、10回繰り返して合計点を競う。やってみたらわかりますよ、と誘われて一回やってみたら、勝てた。一枚のコインが四枚に。少し遊びましょうか、と誘われて断れずしばらくやっていたけど。
「あなた、勇気があるのね」
そう話しかけてきた声は……聞き覚えがある。振り向くと、金髪碧眼の美人。エミリイ・S・アサヒナさんは見た目と違って怖い人だ。そういう人たちとも知り合いが多くて……ファイブアウトで一緒に遊ぶ男性に、話を聞いていた。
「今度はこの子?人気者確定ね、かわいいもの」
一瞬ほめられているのかと思ったけど、シリカ君が何かに気がついた。エミリイさんは、嬉しそうに笑った。
「とっても『売れそう』ね」
じゃあ、って言ってどこかに行ったエミリイさん。相手の男性は、あまり気にしていないけど……「売れる」ってなんですか?と聞いてみた。まさかスカウトの話ではない、なんて私でもわかった。手元には、大きな額になったコインの山。相手の男性は、真剣に勝たないと私も危ういですから、と笑っていた。シリカ君が飛びかかろうとするとバウンサーに押さえられた。ファイブアウトの台は、私たちの探していたそういう人たちの場所らしい。
その後は、急に勝てなくなった。向こうが仕切ってるんだから勝たせようと思えば勝たせられるし、その逆もある。まだコインはあるけど、次負けたらマイナスになって払えない。そしたら貸しますよ、と言われて怖くなった。後ろの坊やはともかく、あなたには働き口がたくさんある。お預かりします、と平気で言っていた。初めてやるファイブアウトは、何が起きているかもわらなくて、もう勝てる気がしなかった。
「オレもいいかい?」
声を聞いて、飛び上がって喜んだ。カゼノさんがファイブアウトの台に来て、隣に座った。でも向こうの人の言い分では、カジノで暴力沙汰は御法度、ここはルールに従った勝負の場です、と下がってくれない。カゼノさんは、驚いた様子もなかった。
「だから言ってるだろ。オレも入るって」
ルールに従うのはオレもあんたも同じだ、って言って勝負再開。カゼノさんが、手持ちのコインを全部出して私の次の手番をこなす。難しいことは考えずに、気楽に。カゼノさんに言われて、少しだけ落ち着いてカードを捨てた。何回か繰り返されたファイブアウトは、勝ったり負けたりの小さな動きで最終戦。どうせ最後だとカゼノさんはありったけ賭けて、勝負に出たんだけど。
「ファイブアウト。15点で打ち止めです」
私の捨てた5のカードを狙って、相手の人があがった。3、7、5で合計15。これで彼女は私のもの、と嫌らしく笑っていて、私は悲鳴を飲み込んだ。でも。
「オレがあがってたら、カリンカさんはオレのものだったわけだ」
カゼノさんは続けてファイブアウトをコールした。開くと、10と5のカード。私の5とあわせて、20点。点数の高い方が優先だな、とカゼノさんが言っていた。全部賭けたからギリギリ逆転して、カゼノさんの勝ち。なんだと!と向こうは怒っていた。そんなはずがない、と言ってたんだけど。
「10のカードは、そっちにしかないとでも?」
カゼノさんに聞かれて、相手は黙った。「そんなはずない」場所が他にありますか?って聞かれても答えられない。自分のカードの一枚を10に固定して、点数を上げるとともに狙いやすくする。自分の残り一枚と相手の捨てたカードが5の倍数になればファイブアウトだから、偶数と奇数のカードは模様が違うとか……奇数のカードにある印がないから、カゼノさんの上がりはないと踏んでいたけど、10は立派な偶数だ。カゼノさんは、一つ前の勝負で使った二枚のカードを手元に伏せていた。そのうちの一枚は、ジョーカー。山の中にはないはずだった。
「最後の手番でさ、引いたフリだけ」
山の順番が変わって、向こうに行くはずのカードがカゼノさんに来た。あとは手なり。前の勝負でカードを引き忘れた、って怒られてもルールの範囲内、ファイブアウトは枚数が足りなければあがれないから、こっちがチョンボしてその状態になっていた。お守りのジョーカーは勝負の後近くに置いてただけ。カゼノさんがそう言っていた。バウンサーがカゼノさんの胸元をつかんだのだけど。
「……あんた、この台の雇われだろ?オフィシャルのバウンサーがさ、そろそろ来るんだが……」
カジノの運営本部の監視役が、ファイブアウトの台の回りを調べていろんな仕掛けが出てきた。どれを使うかわからなかったら手が打てないから、勝ちが確定してから種明かししたらしい。これで十分、ってタカをくくらせた。そんなことできるんですね、と感心したら。
「カゼノさんだからね。事務所もこれで買ったから」
……ボロボロとはいえビルの一室を買い取ったのはどうやったのかと思ったら、ファイブアウトで荒稼ぎして元手を作ったらしい。あの、一応不動産だからすごい額だと思うんですけど……そんな私の話をカゼノさんは聞いていない。
「あいつらのものにされるところを、オレがかっさらったからカリンカさんはオレのもの……!」
危ないことを言い始めた。もっともカゼノさんは女の子と付き合うときムードを大事にするので、「感謝したい気持ちの分だけ!」と逆に図々しいことを言う。気持ちが伴ってほしいらしいけど、今回はお流れになった。
「カゼノさんの元金は事務所のお金ですよ。カリンカさんは今まで通り雇用関係です」
シリカ君に指摘されて、そんなバカな!と叫んでいた。カゼノさんは自由なお金がないんだから元を正せば事務所の経費で三人の財布は同じ。それが増えようが減ろうが個人の勝ち分にはならない。どう考えてもこれを動かせず、カゼノさんは怒っていた。
「それもこれも、あいつのせいだ!」
ルーレットの台に舞い戻って、ケイトさんと真っ向勝負。八つ当たりでやっていたギャンブルの勝ち金が残っていたら、私はカゼノさんのものだった。だからあれをすらせたケイトのせいだ!と不思議なルートで喧嘩が勃発、たぶん理由とかなんでもいいのだろうから横で見ていた。
「「あれ?」」
今月の生活費が足りなくなったカゼノさん。二週間ほど「感謝したい気持ちの分だけ」お弁当を作って渡していると、がんばった甲斐があった、と泣いて喜んでいた。価値観って人それぞれだ。




