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昨日の敵は、今日も敵?

昨日の敵は、今日も敵?(惑星間探偵事務局KSK)

※※※※※※※※※※※※


 オリオン三番惑星。オリオンと言ってもオリオン座の方にあるだけ、地球から見た方向なので他の星系の人にはややこしいことこの上ない表現で名前をつけられた星は、温暖で住みよい。違う星だからといって未知の病原がとか言ってたらそもそも宇宙開発はできておらず、対抗策はすでに出回っている。個々の病原に対応するのではなく生命の免疫能力を本来のレベルに高めるという、原始的と言えば原始的な手段が案外有効で、たまに失敗する人がいて熱を出し、市販の解熱剤を飲んで寝込む。くしゃみ三回を目安に感冒薬を飲んで、大人しくしてたら3日ほどで治る。生き物って案外たくましい。


 だからオリオン三番惑星でバカンスしようと思ったらできる。観光用に整備された海水浴場は綺麗だと評判だったので、カゼノさんが行きたがった。私は泳げないので留守番します、と伝えると突然やる気がなくなってこの世の終わりみたいな顔をする。まだビッグバンが起きるような段階じゃないから何億年かは終わりませんよ。カゼノさんにとっては終わったみたいだけど。


 仕事はオリオン三番惑星の衛星軌道にある宇宙ステーションで、換気口に入った猫を探すというもの。カゼノさんが這い回って二時間ほどで捕まえてきた。……換気口の中を人間が這って、猫を捕まえられるのだろうか。向こうはほとんど自由で、こちらは身をよじりながら進むのに追いつきっこないと思うけど。シリカ君がカゼノさんにタオルを渡して、仕事は終了。最初は私が渡そうとして持っていたタオルを、シリカ君が引ったくってカゼノさんに渡した。誰が渡しても、私は同じだと思うからなんでもいいけど。


 オリオン三番惑星の宇宙ステーションは結構大きいから、頻繁に宇宙船の出入りがある。KSKには自前の宇宙船があるんだけど、下手に使って壊れたら余計に経費がかさむので定期便があるならそれを使う。カゼノさんの操縦は、めちゃくちゃ荒っぽいのに何かにぶつけたことがなく突然の流星群の間を平気で通り抜けるんだけど、何の障害物もない空間で突然エンストする船だからいつ壊れてもおかしくない。カゼノさんとシリカ君は、長く乗っているから壊れそうなタイミングがわかるらしい。そんな能力身につけるより次の船を探してほしい。


 定期便は二時間後。発着所の待合室で二時間も待つのは大変だから何か食べませんか?と聞いたけど、カゼノさんは前の職場で三日間とか平気で待たされたらしい。シリカ君はカゼノさんがいるなら後はなんでもいいから、待ちたくないのは私だけだったようだ。わがまま言える立場じゃないから、我慢しようと思ったんだけど。


 ん?とカゼノさんが何かに気がついた。今到着した便に乗っていた人たちが続々と降りてきて、向こうにもこちらを気にする人がいた。長い黒髪の女性。私服だと思うけど、動きやすくて機能的な服装を選んでいるみたいだった。機能優先なのにまとまった着こなし。いいなあ、私が考えると女の子っぽくなりすぎるから教えてほしい。


 その女性は、他に何人かと一緒だったみたいだけど、一人だけこっちにずんずんとあ歩いてきてカゼノさんに話かけた。近くで見るととても美人。カゼノさんと年齢も近くて、もしかしたらガールフレンドだろうか、と思っていると。

「あーら、あんた何やってるのかしら?」

「そりゃお前だろ、何しに来たんだ」

 ……美人の女性にならすぐに膝をついてお任せあれ!とか言い出すカゼノさんなのにものすごくあたりが強い。向こうもすごく嫌そうにしている。そんなに嫌なら見つけたからって来なくていいのにわざわざ絡みに来た。宇宙は不思議であふれている。


 向こうも仕事で来たらしい。あんたはまたケチな仕事してるんでしょ?って図星を疲れたけどカゼノさんはうろたえない。換気口に入った猫探しで単価は45ライム、とそんなことを言ったらバカにされそうなのに普通に言う。恥ずかしい仕事なんてしていない、ということかと思って感心していた。

「こっちは浮気調査で現場写真を押さえるの、単価は50ライムよ!」

 ……同じレベルだ。二人のやりとりは泥仕合で、作業量 対 純益比まで話が及んで「誤差範囲」という言葉を知らないのだろうか、と不思議に思って聞いていた。二人してずっとその話をしていて見ていられなかったので止めに入ると、相手の女性が私に興味を示した。私は初めて会うので、カゼノさんが紹介してくれた。

「彼女はカリンカ・ホークス、今年からオレの……」

「部下?」

 はい、と答えてできるだけ丁寧に挨拶した。その後はもう少し話が続くと思ったらこれで終わった。カゼノさんの負けらしい。相手の女性は、「セクハラ相談もしてるから、いつでも言ってね」って親切に教えてくれた。カゼノさんは待合室にいるのがつらいから酒を飲みに行こうと言い出したけど、そんなことしてたら乗り遅れる。カフェですましましょう、と三人で移動した。シリカ君がなんで不機嫌かは知らないんだけど。



「あの人は商売敵だよ。ケイト・ディテクティブコンサルタントの所長、ケイト・リンドブルム」

 シリカ君が言うには向こうも探偵業で、こちらと同じような活動をしているからたまに居合わせる。こちらと同じかあ、大変に苦労してるんだなあ。なにせ業態が似ているので競合相手になり、どちらの腕がいいというのは事務所の大変な問題だ。しかし、それ以上に。

「あんのやろー!」

 ……カゼノさんは反論する材料もないのに不満ばかり、よほど悔しいらしい。いつ負けたかわからないから慰めることもできず、なんだったら向こうもいつ勝ったのかわかっていなかったけど、カゼノさんが納得していないのが一番問題なのでなんとかしたい。一番の対応策である「時間に任せる」をすでにしているのでもうやることがなくて、ほったらかしになった。どうやら二人は単純に仲が悪くて、お互いを目の敵にしている。待合室の反対側にいても器用に見つけてきて言い合いになり、喧嘩をふっかけるのがいつものことらしい。ケイトさんは向こうの部下の人たちになだめられても制止を振り切ることが多く、カゼノさんもムキになるので遅刻しそうになる。向こうの探偵社の人が「お互い大変ですね」と言っていたので、たぶん向こうも遅刻している。まあその辺は推測なんだけど、と語るシリカ君はずっと表情が苦々しい。どうしたの?って聞いたんだけど。

「あのケイトってヤツは……」

 シリカ君が説明する前に、宇宙ステーションに警報が鳴った。SCー2ブロックを隔離、関係者は集合するように!ってアナウンスが鳴る。何か非常事態だと思うけど、予想がつかない。SC-2ブロックというのはまさにこの発着所の近辺、私たちが隔離されたんだということだけはわかった。カゼノさんは、シリカ君に持ち合わせがあるか聞いた。カゼノさんに出してもらおうというのは最初から考えていない。一番薄給だし。ここは出せるけど、と言うシリカ君と私を置いて、カゼノさんは店を出た。オレ、先に行く。どこに行くかは教えてくれなくて、シリカ君は支払いがあるから出遅れた。私は、先に行きます!ってカゼノさんの後を追った。


 学生時代、それも高校の頃を最後にこんなに走ってないから心臓が持たない。カゼノさんはそんなに離れてないところにいて、何かを探していた。待合室の脇の廊下に、人がいた。すぐに姿を消して見えなくなって、どうやら保護色を使う宇宙人のようだ。カゼノさんはそのあたりをほとんど一直線に見つけていた。あと、もう一人。

「……ケイトぉ……!」

「カゼノ!」

 ケイトさんが、似たようなタイミングで同じ場所に現れた。どうやら手柄を取り合ってるみたいだけど、まず何をするつもりなんだろうと思って聞いてみたら。

「発着所のブロックを押さえるんだから相当の過激犯、向こうはマニュアルを持ってるだろうからこの状況に対応する」

「たくさんの人が集まれば不思議なほど同じ方を見るの。だから待合室のこっち側なんて丸見えなのに死角になる」

 犯人の逃走経路としてうってつけ、むしろ他に選択肢がないからここに来て捕まえたらお手柄で事務所の名前が上がる!って二人で同時に説明していた。ここから先はどちらが捕まえるかの話になるけど、シリカ君がまだ来ていない例に漏れずケイトさんの部下も誰も来ていない。二人とも、説明する暇がないから本人だけ来てかち合ったらしい。だからここからは直接対決だ。


 オレが先だ、私が先よ!っていがみ合って犯人を探すのを忘れている二人の向こうに、ぼやっと何か見えた。あれ?って言ってたら二人は同時に向こうを向いて、一目散に走っていった。見えたんだ、すごいなあ。視力はどれくらいだろう。そういう問題じゃない気がするけど。私は追いつけるか自信がなかったけど、あまり関係なかった。あんまり走ったことがないのに、すごい速さで走れて……必死だったからおかしいと気がついたのは、追いついた後だった。


 大きな吹き抜けがあるイベントホールで、カゼノさんとケイトさんは犯人を探していた。他の警備の人も捕まえようとしているけど、みんな不器用に跳ね回っている。そうか、とようやく気がついた。体がすごく軽い。重力が減ってるんだ。人工重力装置が加重を減らして、私が速く走れるのと同じようにみんな動き方の勝手が変わっている。上手に飛び掛かれないんだ。相手は恒温性爬虫類型、飛び回るのはお手の物で種族の中でもかなりすばしっこいらしい。どの星系の警備の人がかかっても簡単にかわしている。カゼノさんは、ハンドサインを出した。私には何を言ったかわからなかったけど、ケイトさんが反対側に走り出した。


 イベントホールの階段の横から飛びかかったカゼノさんだけど、あんまり意味がなくて相手は高くジャンプして得意げにかわした。吹き抜けの上まで跳ぼうとしたんだろうけど、途中で遮られた。イベント用の吹き流し、下から風を送って上にたなびく飾りが途中で引っかかって、向こうまで飛べずたなびく布だから足場にもできない。降りてくるしかない。電源を入れたのは、ケイトさんだ。


 さあ、こっちに来なさい!オレの方に来い!って二人で呼びかけてるけど、どちらに行っても捕まるので犯人は躊躇していた。そしたらまた何か変化があって、急に体が重くなった。吹き流しに捕まっていた犯人は思ったよりもすぐに着地して、カゼノさんとケイトさんはとっさに動けなかった。

「重力管制が向こうのものね」

「警備はどこも同じだからな」

 小さなコントローラーを持っていた犯人は、すぐに重力を軽くしてまた走り出した。負荷が小さいとフィジカルの差が出やすくて、瞬発力で逃げ切るつもりらしい。カゼノさんが回り込んで上への逃走経路を塞ぐ。ケイトさんは躍りかかろうとしたけど、犯人は開き直ったようで突っ込んできた。刃物を手に、女性が相手なら負けないし二人が一人に減った方が逃げやすい。ケイトさんは驚いて背中を見せて逃げ出したけど、カゼノさんは反対に二人に向かって走り出した。

「ケイト!」

 二人はすれ違いざまに、がちっと腕を組んだ。カゼノさんを支点にケイトさんがぐるっと向きを変えて、迫ってきた犯人に思いっきり蹴り込んだ。犯人は倒れて、宙を舞ったコントローラーをカゼノさんがつかんでホールに目を走らせた。視線を追ったケイトさんは何かを見つけたみたいだけど、私には見えなかった。


 二人が見つめているものが、ようやく見えた。息継ぎをするように一瞬姿が見えたのは、もう一人の同じ種族の宇宙人。二人いて、撹乱するつもりだったみたいで、一人やられて向こうも焦ったように思えた。宇宙人がカメレオンみたいに舌を伸ばすと、観葉植物がなぎ倒された。ボクシングのパンチみたいな、でも舌はもっと長い。二人は一度かわして、カゼノさんがまた何か指示を出した。やっぱり口には出さずにハンドサインだから、私にはわからない。ケイトさんは相手の攻撃に構わず、カゼノさんの方に走った。カゼノさんは、コントローラーで重力を軽くして、ケイトさんの出した足を思いきり上に押し上げた。ケイトさんは驚くほど跳んで、相手の舌をかわす。伸びてきた舌を、カゼノさんが抱えて捕まえた。相手は避けようとしたんだけど、無理だった。ケイトさんが落ちてくるのはとても速かった。カゼノさんが重力を重くして、思ったよりもずっと速く蹴りが打ち込まれた。もう一人の犯人も伸びてしまって、お縄。インフラに侵入したからってステーションを脅迫していたらしい。実際には重力装置しか手をつけておらず、これを盾に脅かそうとしていたらしい。二人のお手柄だと思ったんだけど。


「私が捕まえたのよ!」

「オレがいなきゃ無理だったね!」

 そんなことばかり言ってるので、ステーションの人がうんざりしている。どっちでもいいからもう放っておこうか、ともうすぐなるだろう。早くしたほうがいいのに。「一般人の協力」になっちゃいそう、と思っていたらこれもいつものことらしい。シリカ君が嫌そうにだいたいこうなると教えてくれた。

「二人はチームだったんですね、すごく連携していて……」

「そんなわけないだろ」

 シリカ君はそんなのありえない、って言っていた。普段も喧嘩ばかりなのに打ち合わせなんてできるはずがなくて、話し合えないって言うんだけど、そんなことないと思う。だってハンドサインの決め事があったし。

「なくてもできるんだよ。だいたい伝わるから」

 ……そんなサインはなかったらしい。よく考えれば重力管制を奪われるなんて特殊な状況が普段からサインに入るはずがなく、二人ともその場でやっていた。お互い全部わかっていたけど、と言うと、シリカ君が不機嫌な理由がわかった。

「言わなくてわかるんだよ!ああ、あの女うっとうしい!」

 あまりにツーカーだから決め事や練習がなくても連携する。同じ目標さえあればあの調子、戦力は単純な足し算の数倍に跳ね上がるという。二人がそれに気がついたら、業態が変わって僕の居場所が!ってシリカ君は心配していた。でもたぶん大丈夫じゃないかなあ、どっちのお手柄か論争はずっと平行線で全然動いていなかった。

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