表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/15

歯車に潰されて

歯車に潰されて

※※※※※※※※※※※※


 その人は、険しかった。顔つきも表情も、たたずまいも。30代中盤くらいだろうか、地球系だけどたぶん他の星系の血も入ったハーフかクォーター。私たちは会ったことがなかったけど、カゼノさんは知っていたみたいで。


 先進技術が自慢のアンタレス星系のある街に、私たちはいた。エネルギーの確保が優先で、爆発した宇宙艇は新調する余裕がない。だからケイトさんの宇宙艇で送ってもらって、エネルギーの調達に右往左往していた。この星のの政治家の演説の近くにその人がいて、向こうも気がついたみたいだった。カゼノさんの表情も、険しくなっていた。


「お前、まだやってるのか」

「ああ、プロだからな」


 その人はどこか別の持ち場に行くみたいで、私たちとすれ違った。この星にはいない方がいいぞ、って一言こぼして。広い宇宙で知り合いに会うなんて、珍しいですね。後でそう聞いたんだけど、特に珍しくないんだって。いつも同じような場所にいるから、そういう場所を通ると会うことがある。どこにいるというわけではなく、先進国家の実権の近く。好きでもないのにずっとその辺にいるらしい。昔の職場の知り合いなんだって。


「ジョン・ドゥ・ステイモス。ファーストネームは捨てたんだとよ」


 「身元不明のステイモス」は情報のやりとりのためにたまに会うらしい。お互いに必要なことしか言わない。だから普段何をしてるとか知らない。今日もあの辺にいて、たぶん似たようなことをしてるんだろうって私にはよくわからなかった。シリカ君が調べると、旧デルドレッド連邦大使館の外交員だから身元は確か、らしい。カゼノさんは、ステイモスさんをあまりよく思っていない。ステイモスさんみたいな事が全然できなくて、向こうは管理職になってカゼノさんは退職した。オレにはあんな風にはできない、って珍しく投げ出し気味。それよりも、ってエネルギーの確保のために供給元に問い合わせたけど、最近高騰してるから向こうも大忙しで予定いっぱいに時間がかかる。だから三日くらいここにいないといけない。またケイトに嫌みを言われる、ってカゼノさんが言っていた。よかったですね。



 私とシリカ君はしばらく外していた。食べ物と、地元の新聞を買って帰る。カゼノさんが新聞を読みたがるなんて珍しい。鍋敷きにすることの方が多いのに。戻ってくると、カゼノさんの横にはステイモスさん。お前も考えておけ、って言ってどこかに行った。歯車にならないと、後悔するぞ。最後にそう言っていたのが聞こえたけど、カゼノさんは答えなかった。カゼノさんは私たちの買ってきたパンを食べながら新聞に目を通した。今日は食べる量が少ない。少し残ったから、晩に回してもいいですか?


 エネルギー待ちだからってみんなで待っていてもなんにもならない。自分だけいればいいからカリンカさんたちは帰るように、ってケイトさんを呼んで帰らせる気らしい。いても仕方ないと言われたらそうだけど、迎えに来いってケイトさんは納得しました?上司なのに。すぐに納得して迎えに来ることになったらしい。私とシリカ君はケイトさんを待つ間、発着場のテレビでニュースを見ていた。


 この星の政権は頻繁に変わっている。主権を持つ人は無理に何かを進めてすぐにいなくなって、たまに長続きする人は何もしなかったりする。もうすぐ選挙があって、次の人に変わる。もっともスキャンダルも多いのでみんな無難な選択をして母体は変わらない、ということも多い。みんなが何も起こらないことを期待しているから何もできないんだとシリカ君が言っていた。だからこの星は、進んでいるようで何十年も前から変わっていない。同じようなことを繰り返しているらしい。いろんな星があるからあまり驚かないけど……ちょっとどうかと思った。ケイトさんが到着して、私たちは何があったのか聞かれた。何もないですけど、って言ったんだけどあったはずだって決めつけている。カゼノさんの連絡音声は、声のトーンと勢いがなんだか違っていてたぶん何かを抱えていて本気だからすぐに来たらしい。何があったって、昔の知り合いに会っただけみたいですけど……そのとき、ニュースの画面が変わって、緊急速報。政府中枢に出た襲撃犯を警察が捜している。一瞬映し出された映像に、カゼノさんが映っていた。ケイトさんが大急ぎで、全部言いなさい!って声を上げた。



「ミスター・ジョン・ドゥ。仕事が遅いんじゃないか?」

 これが限界でね、と返すのが私には本当に限界だった。指揮本部までやってきたマルクス・ブーゲンハイトは私の仕事に不満らしい。当然だ、言い分を全部飲んでいたらすぐに乗っ取られる。それでも誰かが気がつくまで時間を延ばそうとしていたのに、気がついたのはよりにもよって部外者。昔の同僚は、今は星系の外から来た企業の従業員だということになっている。ここで事故が起きて数人死んだとして、星はしばらく助かる。なのにお前が首を突っ込んだら、お前を殺すしかない。この星の公権力はすでに押さえられ、誰もお前を助けない。袋のネズミとなれば、相手が誰であれ倒すのはさすがに難しくはない。


 マルクスはこんなことでヤツを仕留められるのかと疑問に思っていたが、まず仕留められる。ヤツには一つ弱点がある。歯車になることを拒んだが故に、理解者がいない。だから全体の連携を予想できず、すぐに追われることにも気が回らなかった。こちらの行動パターンは類推しようにも経験がなく、ただの読みでは命をかけるのにも限界がある。こちらは戦略指揮を専門範囲に含み、町の設備を全て使えるとなれば倒せないはずがない。たった一つのルークで、チェスには勝てない。事実モニターに映し出されるヤツの行動範囲はみるみる狭まって、身動きが取れなくなっていく。残念だが、終わりだ。私はシーバーに最後の指示を出した。


「D6ー8を包囲。見つけ次第撃て」


 それが誰の最後になるかなんて、わかるわけがなかった。町の上空には、話には聞いていない大きな花火が上がった。



 ケイトさんは宇宙艇で町の上を飛んで、何発も発煙弾を撃った。迷惑ですよ!って叫んだけどやめてくれない。私たちまで捕まっちゃう!旋回したときに町が見えたけど、みんな大騒ぎで入り乱れていた。中にはあっちに行きたいのに明らかに困っている人たちもいて、大混乱。交差点は信号が赤になったのに車も進まず人がざわついている。そんな中に、カゼノさんが走っていくのが見えた。低空飛行に切り替えたケイトさんが、カゼノさんの近くを飛び回った。何かを牽制しているらしいけど、何を牽制しているかは私たちはもちろんケイトさんにもわかっていない。異常事態で、巻き込まれてて、もう押し切るしかないと思っているらしい。


「悪者にされたらたまらないでしょ!」


 ……ケイトさんは、悪者じゃないと思っているらしい。途中で辞めたら悪者になるから、私たちはもう黙って座っていた。都市部にあるビルにカゼノさんが飛び込んで、ケイトさんが近くに着陸した。宇宙艇を置きっぱなしにできないから、ケイトさんは来れない。私とシリカ君が降りて後を追った。


 カゼノさんの通った後に何人も人が倒れていた。踊り場にも倒れているから、地下に降りたみたい。私たちも降りると、カゼノさんが部屋の前で息を整えていた。ドアを開けようとすると、中から人が出てきた。マルクス・ブーゲンハイトというカゼノさんの知り合いは、笑っているくらい余裕があった。


「もう終わったぞ」


 私たちに構わず立ち去るマルクスさんに目もくれずに、カゼノさんが部屋に駆け込んだ。私たちも、それを追いかけたんだけど。



「お前の勝ちだよ」

「どう見ても負けだろう」


 カゼノさんは、ステイモスさんの横に座って救急を待っていた。ステイモスさんはもう立つことができなくて、壁にもたれかかってぐったりしていた。床には大きな血だまりが、今も広がっている。ステイモスさんはもう諦めているみたいで、救急が来ても向こうで死ぬだけだと弱気になっていた。カゼノさんに、教えたいことがあるらしい。


「二度は言わないぞ。GVH92R」


 ……コンピュータのパスワードだという。ステイモスさんが集めたデータを個人的に保存していて、ネットワークから見れる。一見大したものが入っているようには見えないから、消されてはいないだろうって言っていた。中を探せば役に立つものも役に立たないものもたくさんあって、この騒動の原因くらいははっきりするらしい。だいぶ前から脅迫されているのに近い形で協力していたこの星の政府は、ほとんど飾り物で決定権がない。だから情報部が、ステイモスさんのような人を雇って急場をしのいでいた。ステイモスさんは……急場をしのぐばかりで、それ以上のことは何もできなかったらしい。こんな風になるんじゃないぞ、と言ってステイモスさんは寝てしまった。もう起きることはなかった。


 その後、この星の人たちは大騒ぎしていた。たまに騒いで、すぐになかったことにする星だから今だけかもしれない。私たちは無罪放免。ステイモスさんの集めていたデータは、消去しても実際の事件の付合を追えば何かの意図があったのがはっきりするようなもの。もっとも状況証拠なのでそれ以上にはならないけど、疑われたくない政府の人たちは大急ぎで回収して隠すつもりらしい。放り出された私たちが何を言っても、たぶん聞いてもらえないだろう。カゼノさんはステイモスさんのいる共同墓地に来て、名前を刻んだ。「STAMOS」。これだけでいいらしい。プロだからな、って言っていた。最後に、お墓に向かって言った。


「やっぱりお前の勝ちだよ」


 何も間違ってないし、何も迷ってない。なのにカゼノさんは、歯車にならなかったことを、少し後悔したらしい。お前の言うとおり、お前みたいにはならない。そう言ってもう振り返らず、私たちはその星を去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ