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Vtuberの妹の中の人ですが  作者: 針坂時計


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35話

「もも、も、申し訳あり、ありませんでした」


 というわけで喫茶店なう。スタバなうと言いたいところだけど、うちの田舎にはそんなもんないので商店街の喫茶店である。老夫婦が個人でやってる店なんだけど、マスターが元三つ星ホテルのシェフだったらしく、コーヒーも軽食もびっくりするぐらい美味しいのだ。昭和レトロっていうのかな、ちょっと古風だけど落ち着く雰囲気で、隠れた名店として地元の人に人気がある。ちょっとわかりにくい位置にあるのが玉に瑕だけど。

 それはともかく。


 眼の前で土下座せんばかりの勢いで頭を下げているのは、さっきのサイクロンの子である。白井 沙織さんというらしい。名前まで綺麗な子だ。スタイルからして年上かと思ったら1年生らしい。テーブルを挟んで二人掛けのソファの向かいに座ってるんだけど、座高にそれほど違いがないのが凄いな。

 ナンパをやり過ごした後、落ち着いた場所でお礼が言いたいというのでここに連れてきたんだけども。


「しょ、しょしょ初対面の方をりり、利用してしま、しまって誠に……」


「あー、もういいから。そんだけ謝罪してもらえれば十分だよ」


「もっと厳しく追求すべきだよ!」


 なんでだよ。詩子さんはその射殺すような目を止めなさい。まぁびっくりはしたけどそれだけだし、そんなに大ごとにするようなことでもない。


「コーヒー飲んだら? ここの美味しいから、冷めちゃうと勿体ないよ」


「はは、はい。ではししつ、失礼して……」


 猫舌なのか、ふーふーしてからちびちびと飲み始めた。ミルクとシュガーは入れる派らしい。

 マスクを外すとちょっと印象が変わる、というか目つきがかなりキツく感じるな。表情が硬いから? どもりまくってるし、あんまり人と話すことに慣れてない感じかな。


「あ、美味しい……」


 そう言ってちょっとだけ頬を緩めた表情はかわいい。目つきの悪さをメイクでなんとかすれば、タイプは違うけど詩子に勝るとも劣らない美少女になるんじゃないかな。今はノーメイクっぽいし。

 さて、落ち着いたところで本題に入ろう。


「で、何か聞きたいことあったんじゃない?」


「え、え、何故それを」


「いや、お礼言うだけならわざわざ落ち着く場所で、とかいいじゃん」


 私もコーヒーをひとくち。うーん芳醇な香り、香ばしさと深いコクにすっきりとした苦み。さすが、美味しい。これで一杯380円なんだからお得すぎる。仮に有名チェーン店が出来ても、地元の人は皆ここに来るんじゃないかな。


「あの、その、わ、わたしのサイクロンいかがだったでしょうか……?」


「いかが、とは」


「ぐぐ、具体的には、その、大会で優勝とかできるかってことなんですが」


 思わずギャル山さんと顔を見合わせてしまった。随分大きく出たな。

 うーん、まぁ誤魔化しても仕方ないし、率直な感想を言えばいいか。

 

「率直に言うと無理だと思う」


「む、無理、ですか……」


「うん。まずはもっとシステムに慣れるとこから始めたほうがいいんじゃないかな」


「だねえ。まだまだ使いこなせてない感じしたし」


 ギャル山さんも同調した。大会で優勝できるぐらい上手くなりたいって意気込みは買うけどね。格ゲーは奥が深いし、まずはじっくりやり込んで……


「ゆ、ゆうくんには何度も勝ってるので自信あったんですが……」


「ゆうくん?」


 彼氏かな?


「おと、弟です。まだ11歳なのにシルバーランクで、つ、強いんですよ」


 小学生やんけ。いや私も小学生からFPSとかやってたから侮るわけではないが。


 うん、なんとなくわかった。

 この子、だいぶ残念な子だ。



 ★



「てかさ、なんで大会に出たいの?」


 ギャル山さんが聞いた。たしかに、そこはちょっと気になってたな。上手くなるよりも大会に出て優勝することが目的、みたいな印象受けたし。

 名誉が欲しいタイプ……にもあまり見えない。


「あ、えっと……」


 歯切れ悪くなったな。まぁ無理には聞かないけど。


「そもそも、ゲームに大会とかってあるんだね」


「対戦ゲームだからね、プレイヤーが自主的に企画するやつとか、どっかのゲーセンがやるとか色々あるよ」

 

 格ゲーは歴史が長いだけあって大会も人気がある。小さい規模だとゲーセンが店舗単位でやる大会イベントとか、今だとオンライン大会とかもあるのかな。大きいのだとEVOとかメーカーが主催する世界大会とかね。いつぞやの世界大会で億単位の賞金が話題になったはずだ。


「へー……ゲームやってお金が貰えるのっていまいちピンとこないけど」


 こういうのは一種のショウだからね。スポーツの大会とかで賞金が出るのと同じなんだけど、ゲームをやらない人にはわからない感覚かもしれない。


「そそ、それ、まさにそれなんです」


「うん?」


 白井さんが身を乗り出してきた。近い近い、顔が近い。と思ったら詩子がぐいっと顔を押しのけてくれた。

 うーん、近くで見ると、顔がいいだけに目つきの鋭さがますます勿体なく思えるな。目元を整えて……いや、触らない方がいいか。眉毛の印象を柔らかくして、チークとかで目元以外に色を足してあげればスクールメイクでもかなり印象変わりそう。

 

「……え、賞金目あてってこと?」


「は、はい」


 思わず3人で顔を見合わせる。いや随分無謀というか、なんというか。ギャンブルとか宝くじで生計立てたいみたいな話だ。


「……バイトしたら?」


「めめ、面接が通ったことが、な、なくて……」


 まぁこの調子じゃしょうがない……のかな。どんな仕事でも報連相は欠かせないもんね。喋るのが苦手っていう人は最初からハンデを背負ってるみたいなものだ。

 白井さんの場合はまず話すことに慣れることから始めないとだね。

 

「ゲームで稼げるなら、と思ったんですが……」


「そう簡単にはいかないと思うよ」


 白井さんは目に見えて落ち込んでしまった。かわいそうだけど、こればっかりは仕方ないね。

 レオナさんだって、きっかけがあるまでは苦労してたって言ってたからね。エンターテイメントで稼ぐっていうのは、簡単そうに見えてもやっぱり大変なことなんだ。

 というか、なんでお金が欲しいんだろう。いや、お金は老若男女だれでも欲しいものなんだろうけど、白井さんは何か目的でもあるんだろうか。


「何か、欲しいものでもあるの?」


「え、えと、それは……」


「まあ無理には聞かないけど……」


 白井さんはしばらく逡巡していたが、やがてまっすぐにこっちを見た。


「実は、ですね」


「う、うん」


 何を聞かされるんだろうか。


「わたし、VTuberになりたいんです」


 がちゃん、と、私とギャル山さんが同時にカップをソーサーに置いた。



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