3話
「あんたのことだから緋影レンのことは調べたんでしょ?」
「それはまぁ、うん」
「バズったことも知ってると」
「友だちに聞いた」
「なら話は早いわね」
「いやいや」
いやいやいやいや、なんでゲスト?Vですらないよ私。
「会社のことなら許可取ったから大丈夫よ?」
「ええんかそれ」
先日の配信が緋影レン史上、というか所属するにこっとぷれい史上かつてない大バズなので、勢いのあるうちに便乗しよう、ということらしい。いいのかそれ。
なお件の切り抜き動画は100万再生を突破したとのこと。なんでさ。
「珍しく抵抗するわね」
「そらそうでしょ」
登録者だけで20万、同接平均4桁の前で(オンラインだけど)喋ってゲームやれと?しかも神プレイを期待される状況で。無茶もいいところだ。そもそも私は別に神プレイヤーというわけでもないし。ちょっと慣れてるだけである。
日頃お世話になってるお姉にはなるべく恩を返したい所存ではあるが、無茶なもんは無茶だ。
「これを見せれば従順になるかしら」
「脅しには屈しないぞ!」
圧政には断固たる姿勢で望む。圧政者に屈してはならぬ。アッセイ!
いや待て、お姉が懐から取り出したるそれは…それ、は…高校生の身では中々お目にかかれない…あの…
「控えおろう。この栄一が目に入らぬか」
「ははーっ」
上半身だけ倒してひれ伏した。平蔵くんもにゃー、と伸びをした。かわいい。
「言うことを聞けばそなたに授けるが、如何する?」
「お姉様に従います」
こうして私は脅しに屈した。
★
さて、始まってしまったからには真面目にやろう。
コメントの相手は基本お姉がするから無理に喋らなくてもいいとは言われている。一応禁止事項(暴言や誹謗中傷しない、身バレにつながるようなこと言わない等)も言い渡されたけど、何がどうなって曲解されるかもわからないし、基本黙ってプレイしようっと。
おさらいするとナイトメアナイトはスリーマンセルの高難度3Dアクション。プレイヤーはランダムな位置からスタートし、マップにこれまたランダムに配置された拠点を巡ってレベルや装備をファーミングする。10分後にエリア収縮が始まり、2分で完全に収縮。更にその10分後に2回目の収縮。最終エリアでエリアボスを倒すとゲートが開き、最終ボスのナイトメアと戦える、というシステム。ナイトメアを倒すとアーティファクトという様々なパッシブ効果のあるアイテムがもらえ、プレイヤーはアーティファクトを集めてキャラクターを強化し、さらに強いナイトメアに挑む、というのが全体の流れだ。
ジョブもそれなりの数があるので、やりこみ要素も豊富だ。とはいえ2ヶ月前発売のゲームだから、お気に入りのジョブのアーティファクトは集め終わってる人も多いんだけどね。
今回のジョブは私が要望の多かったらしいサムライ、お姉がナイト、リスナーさんが狩人だ。
ナイトは剣と大盾を持っていて防御力に優れ、ダウンした味方を起こすのに役立つスキルを持っている。とにかく死ににくいので比較的初心者向けのジョブだ。
狩人は弓を得意とするジョブで、ヘッドショットのダメージボーナスとスキルによるトラップでバトルメイクをする中級者向けジョブ。
限られた時間の中で如何に効率よく拠点を潰してファーミングをするかがプレイヤースキルの見せ所ではある。
今回は私が先導するらしい。いいのかそれで。
「リスナーさんはお姉のプレイを見に来てるんじゃないの?」
「今回に限ってはそうでもない」
そうなのか。リスナーはいいのかそれで。
『見せてもらおうか。お嬢の妹の性能とやらを』
『勉強させてもらいます』
『お姉ちゃんにお手本見せたって』
いいらしい。VTuberのリスナーがよくわからん。どういうポジションでいればいいのだろう。
「お姉ちゃんとかいう単語久々に聞いた」
「普段は”お姉”だもんね」
「お姉ちゃん呼びとか小学生まででしょ」
『仲悪いんか?』
『そんな…妹にお兄ちゃんお姉ちゃんと呼ばれるのは全オタクの夢なのに…』
『リアル姉妹なんてこんなもんでは』
「お姉のことは好きだけどそれとこれとは別じゃない?」
「へー、ほー、ふーん。小さい頃はお姉ちゃんお姉ちゃんってあたしにべったりだったのに」
「うっさ。早くやるよ、もう」
藪蛇になる前にさっさとプレイして満足してもらおう。
『てぇてぇ…か?』
『姉やってるお嬢は中々新鮮』
『いうて普段から割と姉御肌だけどなお嬢』
そうなのか。
★
拠点にもいくつか種類があって、概ね強いボスが居る拠点は経験値も武器もいいものが出るし、弱めのボスのとこはドロップもそれなりになる。
ローリスク・ローリターンを繰り返して堅実に強化するか、序盤からハイリスク・ハイリターンを繰り返して手っ取り早く強化するか。この辺は先導者の好みとかプレイスタイルが反映されやすい。まぁ先導者と言ってもゲーム側から明確に指定されるんじゃなくて、誰かが率先してやるかなんとなく流れで決まることの方が多いんだけども。テキストチャットないしね、このゲーム。あるのはピン刺しとエモートだけだ。
事前に見せてもらったお姉の腕はまぁ、普通。野良でマッチングするとよく遭遇するレベル。
リスナー参加枠の人が上手いな。こっちの先導の意図を察してくれて動いてくれるから討伐が凄いスムーズ。やり手だ。
「リスナーさん…これなんて読むの?」
「ん?xxxさんだよ」
「xxxさんめっちゃ上手いね。かなり慣れてる感じする」
「そうなの?さすがウチの組員さん」
なぜお姉がドヤるのか。
ていうか組員さんってなに?ファンネームらしい。組員さんから「お嬢」って呼ばれてるってそれなんてヤクz「言わないように」「はい」
いやでもほんとに上手いな。トラップの使い方も巧みだし無駄な被弾もほとんどない。アイテムも自分で使わないものは共有してくれるし、かなりの上級プレイヤーだ。
『リアルJKに名前呼ばれたヒャッホゥゥゥゥゥゥ!!!』
『裏山』
『今からでもこいつ俺ってことにならん?』
『余裕あんなこいつw』
ほぼノンストップで進んでるのにどうやってコメントしてるんだこの人…?
★
順調にファーミングが進み1回目の収縮も終わった。さて次の拠点に…と思ったところでにわかにフィールドが暗くなる。あー、これは…
『侵入か』
『配信上手いですねえ!』
『何が来るかね』
そう、侵入という、いわゆる突発イベントである。登場するボスはある程度ランダムだけど、今回は…うぇぇ。
「呪剣士かいな」
「強いんだっけこれ」
「むっちゃ強い」
本編で初心者キラーと呼ばれた厄介ボスである。比較的序盤に出てくるくせにやたら強くてSNS等で阿鼻叫喚の地獄を呼び、発売3日後にナーフパッチが当てられ、それでも突破できないプレイヤーが絶えなかったので専用の弱体アイテムまで実装された曰く付きのボスだ。
ついでに言うとナイトメアナイトではわざわざ「調整前の本来の強さをご用意しました」と公式がアナウンスし、SNSは再びメーカーの所業に恐怖した。
幸い負けても比較的ペナルティは軽いし、撃破ボーナスもそこまで重要ってわけでもない。なんならさっさと負けてファーミングで取り返したほうが早い、とか言われてる始末。
まぁ、それでもいいけど今回は…
「…xxxさん、お姉と一緒にファーミング続けてもらっていい?」
「やるの?」
「まぁ、見せ場作るならここかなと」
「そんなこと気にしなくていいのに」
「やってみたいじゃん」
「あんたがやりたいならいいわ」
『うおおおお!!!』
『撮れ高意識とかやるねえ』
『xxx了解しました!』
『頑張れ!』
『完封見られるか?』
さて、いっちょ魅せたりますか。




