23話
しーちゃんと並んで洗い物をしている。
服が汚れるからいいよって言ったんだけどね。
「洗い物までがお料理のうちでしょ?」
とのことなので手伝ってもらった。
今日のしーちゃんは白のフリルブラウスにチャコールグレーのハイウエストジャンパースカートだ。清楚系お嬢様感があってとてもかわいい。ブラウスに泡や汚れが飛んだらえらいこっちゃなので、お姉のロングエプロンをつけてもらった。
今日の練習がちょっとは自信になったらいいけどなあ。料理は経験の積み重ねだからね。
よく入門は野菜炒めから、とか言われるけど私はあんまりあれ好きじゃないんだよね。野菜炒めが嫌いなんじゃなくて、簡単だからこそ自信に繋がりにくいと思うんだ。独学で始めるならともかく、教えてくれる人がいるなら一品料理をキチンと完成させたほうが自信がつくと思う。
誰かと並んで家事をするのも久々だなあ。お姉とやる時は役割分担きちっとするから、一緒に並んでやることはあんまりないんだよね。
でもこういうのも悪くはない。同棲感があるというか、新婚さんってこんな感じなのかも。
……それとなくしーちゃんに外堀を埋められてないか、これ。
★
さて、洗い物も終わったのでお出かけ……の前に着替えよう。
といってもグレーのノースリーブサマーニットと黒のフレアスカートのシンプルコーデだけども。アクセも最低限だ。夏はやっぱり身軽なほうが好き。
メイクも軽く直して、平蔵くんの給餌機と給水器をチェックしてから家を出た。しーちゃんの宿題は嵩張るから家に置いて、帰る時に取りに来ればいいよね。2度手間になるけど宿題持ち歩いて遊びたくないだろうし。
電車に乗って隣の市の大型ショッピングモールに向かう。
夏休みだけあって電車はそれなりに混んでいた。私たちみたいな学生グループも何人かいる。夏休みの解放感ではしゃぎたくなるのはわかるけど、公共の場であんまり大きな声で騒ぐのはやめて欲しい。
なんとかドア横のスペースに立てたので、身を寄せ合ってスマホで水着のwebカタログを眺める。
ていうかこの電車、冷房効きすぎでちょっと寒いな。ショールかなにか持って来ればよかった。しーちゃんにひっついて暖を取ろう。
「あーちゃんはどんなのにするの?」
「どうするかなあ」
私はなあ、胸が小さくてお尻が大きいから、似合うデザインは結構絞られるんだよね……。
その点しーちゃんはバランスがいい。胸は平均よりやや大きめで腰もお尻もキュッと……。
「ど、どうしたの。すごい目してるけど」
「いや、けしからんなと」
思わずしーちゃんの胸をジト目で見てたらしい。
「もう」と、しーちゃんは片腕で胸を隠した……そのむにゅっとしたのは見せつけてるんですかね? おん?
それはともかく。水着ってもっと早く……GWあたりか、遅くても6月ぐらいには買っておくべきなんだけどね。そのぐらいに今年の新作が出るし、商品入れ替えでセールもやるし。この時期に残ってるのって言っちゃ悪いけど売れ残り予備軍だし、軍資金に限りのある学生ならセールを狙うべきなんだろうけどね。まあ買うと決めたのが7月なので仕方ない。
「んー、やっぱこの辺かな」
在庫アリと表示されているフリルのビキニを指す。ボリューム感が欲しいから明るめの色か柄物かなあ。大人っぽい黒にも惹かれるけど、水着に着られてる感が拭えないような気がする。
「これとかどう?」
……金のマイクロビキニ? 実在するんだ、こういうの……。
「……しーちゃんが着るならお揃いにするけど」
「え、いやかな」
「じゃあなんで勧めたし」
「見てみたいかなって」
「へんたいだー」
この後、紐とか貝殻とか検索してはふたりでけらけら笑ってた。うむ、他人のことは言えん。
★
ショッピングモールは駅の目の前にあるのでささっと移動して水着売り場に直行する。暑い屋外に長居したくはないよ。
水着売り場についた。
うん、意外と品揃えはいいかな。新作はあんまり数はなさそうだけど、ざっと見た感じでもよさげなものがちょいちょい目に入る。
しーちゃんは自分のを選びに他の島へいった。
ふーむ、ある程度目星はつけてたけど、現物見るとやっぱり迷うなあ。あ、これかわいい……。
「あら? 愛ちゃんではありませんか」
後ろから声をかけられた。
え? この脳を蕩けさせるウィスパーボイスは紫上さん?
振り向くと、和風美人な女性が微笑みながらこっちを見て立っていた。うん、紫上さんだ。
「しじょ……っと」
いけないいけない、VTuberの名前で呼んじゃうところだった。
「ふふ、久我原 結衣子です。結衣子お姉さんとお呼びください」
「あ、はい。結衣子お姉さん」
本名は久我原 結衣子さんていうんだ。というか相変わらずお茶目な人だな。
「今日はお買い物ですか?」
「はい、友だちと水着を買いに。結衣子さんも?」
「結衣子お姉さんです」
「ゆ、結衣子お姉さん」
「はい、よろしい」
押しが強いな……。
「で、結衣子お姉さんも水着ですか?」
「いえ、わたくしは……」
「お待たせいたしました、お嬢様」
結衣子お姉さんの後ろからスーツ姿の女性が近づいてきた。
お姉に匹敵するぐらいの長身で、ショートヘアでメガネの似合うやたらかっこいい人だ。
「早かったですね、ご苦労様」
「いえ。……こちらは?」
「蓮理さんの妹さんです。何度か話したでしょう?」
女性は「あぁ……」みたいな顔をした。
……どんな話をされてるんだろうか。悪評ではないと思いたいけど。
「愛ちゃん。こちらは梶原 英理さんといいます」
「梶原です。結衣子お嬢様の秘書を勤めさせていただいております」
「皆瀬 愛です。よろしくお願いします」
秘書って、あの秘書だろうか。それにしては雰囲気が只者じゃないというか、秘書というよりボディガードとでも言われた方がしっくりきそう。実際にそれも兼ねてるのかもしれない。
薄々思ってはいたけど、紫上さんもいいところの出身なのかなあ。まんまお嬢様って呼ばれてるし……。
「せっかくですし、お茶でも……と言いたいところですが、デートのお邪魔をするのも野暮ですね。またの機会にいたしましょう」
「? はい」
「またお会いしましょうね。いきましょうか、英理さん」
「はい、お嬢様」
「あ、さようなら結衣子さ「結衣子お姉さんです」
「……結衣子お姉さん」
「はい、結構」
こだわるなあ!
くすくすと笑いながら歩いていく結衣子お姉さんに梶原さんが寄り添うように歩いて行った。
少し離れたところでダンディなスーツの男性が合流した。あっちは完全にボディガードだね。スーツの上からでもガタイのよさがわかる。
こっちが女子学生だから、威圧しないように気を使って離れててくれたのかな。
いやあ、いきなり違う世界の人に触れたようで不思議な気分だ。
「あーーちゃーーん?」
「ふひゃあ!?」
背後から伸びてきた手にほっぺを引っ張られた。この声はしーちゃんだ。
「まったく、ちょっと目を離すとすぐ年上の女性をひっかけるんだから」
「ほはいだひょ、ひいこ。はなひあほう」
話せないからほっぺをむにむにするのをやめていただきたい。地味に痛い。
★
なんとかしーちゃんを宥めすかして買い物に戻る。いや、私は何も悪いことしてないと思うんだけどね……。
広めの試着室だったので、店員さんに許可をもらって二人で入ってあれやこれやと試着しあった。なかなかしっくりくるのがなかったんだけど、お互いに着せ替え合うのは楽しいね。ついでにお胸様も拝んでおこう。お賽銭いくらですか。
最終的に私は白地のグリーンのラインが入ったフリルビキニにした。トップスの大きなリボンとボトムの編み上げになってるサイドがかわいいのだ。
しーちゃんは黒のフリルトップに白地にボタニカル柄の入ったスカートっぽくみえるキュロットのボトム。いつもより大人っぽい雰囲気でかわいいね。
お会計を済ませてから休憩とおやつを兼ねてカフェに入った。わらび餅パフェが季節限定らしい、ほほう。
わらび餅パフェのミニサイズを2つと、私はアイスラテ、しーちゃんはアイスティーを頼んだ。
「水着買ったはいいけど、どこいこっか」
「海は日帰りだとちょっと遠いよね。プールかな」
「レジャープールかなあ。誰か誘う?」
「グループチャットで聞いてみよっか」
運ばれてきたパフェをつっつきながらスマホでプールを調べる。ナイトプールって選択肢もあるけど、高校生が入れるとこあるのかな。
こういうレジャー情報って広告多いし、文章情報過多で逆に見にくいし肝心の情報が分かりづらいと思うのは私だけだろうか。
「影山さんが乗ってきたよ。あとは調整しだいだけど何人か行けそう」
「おけ」
しーちゃんと二人でもいいけど、やっぱ人数多いほうが楽しいしね。
その後、日程なんかを調整しながらまったり過ごした。




