16話
VTuberに関わるようになってから、そういう配信や動画、情報に接する機会が増えた。
見てて思ったのは、やっぱりとても厳しい業界だっていうこと。検索上位の大半は大手事務所が占めてて、それ以外は企業でも個人でも話題になりづらい。にこぷれはそれなりに大きい事務所らしいけど、それでも深堀しないとあまり検索には乗ってこない。なるほど、些細なきっかけでもレオナさんに感謝されるわけだ。
同時接続も大手のエース級は5桁とか超えるのに対し、それ以外は4桁中盤いればすごい方で、中規模で4桁いくかいかないか、小規模事務所や個人でやってる人だと2桁とか1桁の人もいる。母数が多い(5万人とかいるらしい)から宣伝力がないとまず見つけてもらうのが難しいだろうし、関心を持ち始めた人はある程度面白さが保証されてる大手をまず見に行くだろうしね。
役者や芸人さんなんかも下積みからのし上がれるのはほんの一部だって言うし、芸事でお金を稼ぐのは大変だ、というのはリアルもバーチャルも変わらないんだろうね。
まぁ中にはお金儲けというよりは配信そのものが楽しいっていう人もいるだろうから、必ずしも目に見える数字だけが全てではないんだろうけども。
違うのは男性ユーザーが圧倒的に多いからか、男性のVTuberは女性と比べて大なり小なり苦労するってとこだろうか。最近は女性リスナーも増えてるらしいし、にこぷれもそこを狙って展開してるとは聞くけど、それでも状勢はあまり変わらないらしい。
そういう人たちの目に、私みたいな存在はどう見えてるのか考えてしまう。人の積み上げてきた成功の上に土足で割り込み、美味しいとこだけつまみ食いしてるようなやつに見えるんだろうか。
先日のカラオケ配信でのSNSの反応のログを見た。基本的には好意的な人が多かったんだけど、「でしゃばりすぎ」「邪魔するな」「部外者は求めてない」、そういった意見も少なからずあった。人からそういう風に見られていると知ってしまうと、やっぱり怖い。
昨日まで私を魔王だなんだと褒めそやしてた人たちも、なにかのきっかけで態度を翻して敵意や悪意をぶつけてくるかもしれない、と思うと怖い。
人の評価なんて些細なことで簡単に裏返るものだし、人間は顔の見えない相手には際限なく悪意をぶつけられてしまうものだから。
しーちゃんは私をコミュ強の凄い人、みたいに思ってるみたいだけど、私は単に人の悪意を見るのも向けられるのも怖いだけだ。鍋島との件だって、自分の周りでそういうことが起こるのが嫌だっただけ。
他人の感情の話だから、どうしようもないことではあるんだけどね。
やっぱり、弱い私がひとりのVTuberとして活動するのは難しいな。
プラスであれマイナスであれ、学校の子達とは違って顔も見えない誰かに評価されるっていうのは怖いし、厳しい世界だとわかっていて手を伸ばすほどの勇気や夢、情熱もない。お姉やレオナさんといった大人に守られながらだからなんとかオマケをやれてるだけで、私自身はちょっとゲームが出来るだけの、ただの弱っちい子どもなんだ。
★
色々見てたらなんとなく目に留まった個人Vのアーカイブをつらつらと流し見している。モニターのマウスカーソルをぺしぺししてた平蔵くんは、飽きたのかモニターの前で寝てる。
煌星るみなというらしい。個人でやってる現役JKのVTuberだそうで。立ち絵は手描きなのかな、ライブ2Dには対応してないぽい。
バーチャル体である以上本当にそうなのかは断言できないけど、声の感じとか話し方なんかは同世代ぽいなと感じるので、おそらく本当か、少なくとも近い年代なんじゃないかな。
しかしすごい名前だな。にこぷれは演者とVの姿があまり掛け離れないようにしてるらしい(リアルとバーチャルの姿のギャップに苦しんだり、無理なロールプレイを続けて自己同一性喪失の危機になって心を病み、界隈から去っていったVTuberをレオナさんが何人も見てきたからだそう)ので名前もそんなもんかと思ってたけど、振り返ってみればこういうインパクトのある名前の人の方が全体的には多い。
個人で使ってたアカウントをそのまま流用したのか登録自体は結構前だけど、アーカイブの1番古いデビュー配信が2年くらい前なので、活動もこのへんぐらいからかな。
登録者数は800人弱、アーカイブの再生数は3桁を少し越えるぐらい。
数は結構あるので流し見になってしまうけど、内容はまあ、うん。率直に言うとそこまで面白いものではない。
ゲームもそんなに上手いわけでもないし、コメントは拾うけどあまり上手に話を広げられてない。出来るオンナのさしすせそ、とは言うけど、アレは相手が話を続けてくれるのが前提のいわばリアクション術であって、そこで止まっちゃだめなんよ。
初期は大手の真似をしてか常にテンション高めで声も大きくしようとしてるけど、黙っちゃうシーンも少なからずあるので、少し空回りしてるようにも見える。
こんな感じな配信がしばらく続いて、1年ぐらい経って常連さんなんかもできたのか、少し落ち着いた配信が増え始めた。トークもこなれてきたけど大きな盛り上がりとかがあるわけでもない。勉強配信なんかもやってたみたいだけどガチで勉強してるのか、時折「あーもぅわかんない…」とか独り言が入るだけで黙ってるシーン多め。
最近は…あまり配信してないのかな。頻度が落ち気味になっている。ホントにJKなら受験学年だろうしね。
まあ、界隈ではよくいるらしい、どこにでもいる個人Vだ。探そうと思って探さなければ一生関わることのない、数多いる人知れず消えていく活動者。
でも、私は彼女を笑うことは出来なかった。
確かに数字としては芳しい結果に結びついていないかもしれないけど、彼女は確かに一歩を踏み出し、今も歩き続けてるんだ。私がビビっている一歩を、今の私より若い頃から。
むしろ尊敬に値する、とても強い人にすら思える。
…ん? 通知?
あ、煌星さんが今から配信するようだ。タイミングいいし、せっかくだからリアタイしてみよう。
タイトルは…魔王式最強テトリス戦術に挑戦します?
おい待て、なんか嫌な予感するぞ。
★
【魔王式最強テトリス戦術に挑戦します!】
《こんるみ!》
『こんるみー』
『こんるみー魔王式?』
『間に合ったーこんるみ!』
同接は私含めて15人ぐらい。コメントしてるのはその内3人ぐらいかな。始まったばかりだからそのうち増えるのかもしれないけど。
《aaaさんこんるみ! bbbさんもこんるみー! いつもありがとう!cccさんギリセーフ! こんるみー!》
挨拶は全員に返すタイプか。個人ならではだね。
《今日はね、この前見た魔王式最強テトリス戦術に挑戦していきます! これで私もプロゲーマー!》
『あー知ってる。にこっとぷれいの番組のやつだよね』
《そうそう! 難しそうだけどチャレンジしてみようかなって!》
やっぱりじゃねーか! てかなんだ魔王式って。なんでそんなのが広まってるんだ…?
★
《う、うぅ、難しい…》
あれから30分、彼女はゲームオーバーを繰り返している。そう、ゲームオーバーを。
うん、なんか変に上手くやろうとして見事に空回りしてるな。
最初は順調に平たく積んでるんだけど、少し乱れるとそこからパニックになって一気にグダグダになる。
そういうときは逃がして次の布石にするんだよ。
同接は増えたり減ったりであんまり変わってない。コメントしてる人も同様。微笑ましく見守ってる感じするから、これはこれでリスナーさんも満足してるんだろう、か?
『下手くそw』
お、なんだこのコメ。荒らしか? こういうの見るとちょっとお腹がキュッとする。
《ちょっとごめんね…はい、荒らしちゃんはないないしちゃおうね》
『ないないー』
『きゃっきゃっ』
『ばぶぅー』
あ、消えた。るみなさんが消したのか。
…やっぱり、強い人だ。
もし私が彼女の立場だったとして、こんなに冷静に対応できるだろうか。ネタにまで昇格して。
これは強さではなくて悲しい慣れなのかもしれないし、ひょっとしたらモニターの向こうの彼女は涙を堪えているのかもしれないけど。
…
…コメント、してみようかな? 配信者にとってコメントが有ることのありがたさは今までの経験でよくわかった。
それが少しでも、応援になるのなら。
えっと、こういうのってあんまり自我を出さないほうがいいんだよね。
ここはシンプルに「初見です。頑張ってください」…と。無味乾燥だけどこれぐらいがいいだろう。
…いいよね? なんか変な誤字とか言い回ししてないよね? 図々しいとか思われないよね?
何度も見直したりタイミングを図ったりしてるうちに、いつの間にか起きてた平蔵くんが「はよいけ」とばかりににゃー、と鳴いた。
ええい落ち着け皆瀬愛、おれはデキるオンナだ。でも平蔵くん助けて。
カーソルを合わせて平蔵くんの前足でマウスをぽちっとな(平蔵くんは凄い迷惑そうな顔してた)。
『初見です。頑張ってください』
って、あ。
《えっ! 初見さん!? はじめまして、煌星るみなっていいます! いらっしゃいませ!》
『久々の初見さんやー』
『初見さんいらっしゃいませ』
『いらっしゃいませ、お茶でもどうぞ( ^^) _旦』
《えっと、ぱりぴじぇいけーさんかな? ユニークな名前だね! コメントありがとうございます! 凄い嬉しい! ゆっくりしていってくださいね!!》
『ぱりぴじぇいけーwwwww』
『笑ったw』
『センスよwww』
名前ェ! どうせ見る専だからって適当につけてたんだった!
やっちまったー…え、は、恥っず…
妹ちゃんは初手に特殊な形の配信者として関わってしまったので、界隈のアレコレがいまだによくわかっていません。




