9話
「ほらほら、続きやるよー。戻っといでー柚葉」
「はい…うん…失礼しました。さあさあ、是非この可愛らしい魔王様の技術を盗まなくては」
「誰が魔王ですか」
せめて賢者…いや、大魔道士にして欲しい。賢者とかドスが効いてねえ。
…ドスなら魔王でもいいのか。
『妹が魔王ということは姉は…?』
『姉はヤク…ん?なんか窓が』
『逃げろ逃げろ』
『大魔王からは逃げられない』
「えっと、テトリスに必要な要素は3つです。先読み力、構築力、空間把握能力です」
「…」
「…?」
『なんて?』
『先読みはまぁわかる』
『言わんとしてることはわかるが』
『我元有識者。内容は的確』
『生きとったか元有識者ニキ』
「ゲームの話よね?」
「え、そうだよ。簡単に言うとね、今落ちてるブロックと次に来るブロックは見えてるから、次の次に何が来ても対応しやすくなるように積みを構築していくってことね」
「???」
「???」
『ふたりとも宇宙猫になってて草』
『戦いとは二手三手先を読んでするものってこと???』
『なるべく平坦に積めってことやな』
『あー、何が来ても対応できるように積めってことか』
「あ、コメント欄的確。今表示されてる2つを配置したあと、その次にどんなブロックが来てどう配置するか、最善から最悪まで想定して配置を考えると綺麗に積みやすいよ」
「なんとなくわかって…き…た…?」
「あとは回転置きとかTスピンとか出来るようになって隙間を埋められるようになると、手の幅がぐっと広がるよ」
「理屈はわかるのですが…」
『やれるかって言われると…』
『テトリスって落ちてるミノに注目しがちだけど必要なのは全体を把握する能力なんだよな』
『あぁ、構築力とか空間把握能力ってそういう』
『妹さん上級者?』
「いや、全然そんなんじゃないと思うけど…」
「そこで謙遜されるとわたくしの立場がないのですが…?」
「あ、すみません」
『柚葉様涙拭いて』
『俺のハンカチを』
『俺のタオルを』
『ワイのバスタオルを』
「そんなに泣いてませんよ!?」
★
「じゃあ次はぽよぽよ側とテトリス側を入れ替えてみよっか」
「次はおレンさんがプレイされるんですよね?」
「なんか声色が不穏なんだけど…?」
『骨は拾ってやるよお嬢』
『姉の威厳見せたれお嬢』
『魔王vsヤクザ』
『頑張れ魔王様』
『理解らせたれ魔王様』
「ちくしょうやってやらァ!」
「お姉とゲームするの久々だなあ」
★
「………」
「なんか、ごめん…」
『知 っ て た』
『親の虐殺より見た虐殺』
『もっと親の虐殺見てもろて』
『容赦ねえw』
『いや、でも実際のプレイと照らし合わせるとさっきのアドバイスわかってきたわ』
『たしかに、すげー綺麗に積む上に判断が早いよな妹ちゃん』
『鱗ダックさんもニッコリな判断の速さ』
「おレンさん…」
「慰めは、いらないわ…」
「ようこそこちら側へ!」
『柚葉様ニッコニコで草』
『癒やされ…る…?』
『よくやったお嬢』
『お嬢の4は無駄にしねえ』
「ふーんだ。さぁさぁ、技術のコツを披露してくださいよ魔王様」
「ウザ、拗ねないでよ」
ちょっと10タテしただけじゃん。
まぁ昔はよく一緒にゲームをやったので、お姉のパターンとか効果的な揺さぶりタイミングなんかはわかってる。要するにメタ読み的な要因も大きいんだけども。
「ぽよぽよの基本はぽよを積んで連鎖を組み立てること、これはOK?」
「OK」
『まぁ基本よな』
『コンボ一気に決めると気持ちいいよね』
「そんで重要なのは、連鎖を複数育てることと、一つの連鎖の起点を複数もつことね」
「またわからなくなってきました…」
『これはまぁわかる』
『起点を複数持つのは考えてなかったな』
『ひとつの連鎖育てるのにこだわりすぎると想定外が起きたときに詰むからな』
『対戦だとお邪魔ぽよくるしな』
「そそ。お邪魔ぽよの存在があるから、邪魔されるのも想定して複数のルートを作るのが鍵」
「でも対戦ならば、こちらも攻めないと勝てないのではありませんか?」
「ですです。そこは臨機応変に、育成途中の連鎖でもあえて崩して攻撃してから再構築したり、大連鎖ルートと別に小刻みに攻撃する用のルートを作って相手にプレッシャーを与えたりと対応するのがコツです」
「はへぇ…」
「そんなに考えてゲームしてるのねあんた」
「考えて動くクセをつければ反射的に判断して動けるようになるから簡単だよ」
「簡単ではないような…」
『これが若さか』
『思考と反射の融合ってことだな』
『魔王じゃなくて強化兵だったか』
『前のマシマロのときも思ったけど、妹ちゃん要点分析が上手いんよ。ゲームをロジカルに分解して構造把握、キーポイントを掌握して、そこだけに思考リソースを集中させるからプレイに無駄がない』
『↑なるほどなぁ…』
「えーと、では達人のアドバイスを参考にもう一度プレイしてみましょう、がいつもの流れなんだけど…柚葉、出来そう?」
「や、やってみましょう」
「私は見てればいいの?」
「可能なら口も出してみて」
「りょ」
★
「柚葉さん、右のルート一旦とめて左いきましょう。その青と次の赤で2連鎖と3連鎖できるんでお姉を揺さぶれます。お姉そのTは左3列目の左向き凹に捩じ込めば次の「で縦3列できる。Iくればテトリスいける。あ、置きミスしました?大丈夫、そこ起点に違う連鎖組めます。焦らずいきましょう。その赤で3連鎖いけます。次、緑が2個くるんで、右ルート再開して挟み込みでいけます。うまくいけば全消しもいけそう。お姉、今のL字、右端に立てて壁作っておこう。次のS字で回転置きで下を埋める感じ。たぶんもうすぐIくるからルート塞がないでね。今の青、あえて空けといて後で繋げると5連鎖ルート見えます。I来たね。テトリスしたら左からルート構築しよう」
『ワイらは何を見せられとるんや』
「何ってお前…なんだろうな…』
『魔王無双だろ』
『要点分析とやらをできるようになればこんなこともできるんか…?』
『シンプルに妹ちゃんがバケモノなだけだと思う』
『俺もう有識者名乗るのやめるわ』
『強く生きろ元有識者ニキ…』
『参考になるような、ならないような<獅子森レオナ>』
『社長!?』
『社長もよう見とる』
「ちょっとレオナー覗き見禁止」
「そうですよ、わたくしたちの犠牲の成果を横合いから掠め取ろうだなんて。出禁です」
「酷い言われようなんだけど…」
『ここ事務所のチャンネルでわたし社長なんだけど!?<獅子森レオナ>』
『社長出禁は草』
『社長wwwww』
『完全に魔王が君臨してて草』
あとで知ったんだけど、この放送はにこメン(にこぷれ所属ライバー)全員が見てたらしい。
★
後日談。
翌週開催された「にこぷれ杯テトぽよ最強決定戦」は、ライトゲーマー中心のにこぷれらしからぬ異様な空気に包まれていた。ゲーマーズの配信を見た各ライバーが「後輩に負けられるか」「素人にこれだけ盛り上げてもらっといて冷めた大会になったらプロとして情けなさすぎる」「真剣にやらんと見せ場も作れずに終わる。ストリーマーの恥」「場があったまりすぎなんだけどォ!?」とマジになった結果だそうで。
リスナーが予想していたバラエティのようなわちゃわちゃや、女性ライバー同士の百合百合したやりとりを挟むヒマもなく、ゴリゴリと鎬を削り合うガチの真剣勝負。
リスナー達はいつもと違うにこメンに困惑すると同時に、推し達のかつてない真剣な様子に心打たれ、応援のコメントが凄まじい勢いで加速した。
この大会はVtuberファンのみならずゲーマーたちの注目も集め、プロゲーマーやゲームメディアがこぞって自身のチャンネルやメディアでとりあげた。更に某有名事務所の大物Vtuberが雑談の中で話題に挙げたことでアーカイブの再生数が爆伸びし、チャンネル登録も大幅に増えて社長がホクホクになった。
なお優勝は紫上柚葉さん。
どうでもいい余談として、にこぷれの魔王なる存在が界隈の一部でまことしやかに噂されるようになった。
…どうしてこうなった?
勝ち方については作者の主観です




