5話
「うーーん」
隣からの呟き。寝返りをして、俺の肩に柔らかな髪が触れた。
寝室はまだ薄暗いが、遮光カーテンの下からは、微かに光が漏れている。
美咲が腕に手を絡ませすり寄って来た。寝ぼけているのか。普段は自分から俺に触れてくることはない。昨夜みたいに、酔ったときくらいか。
枕元のデジタル時計を見る。9時を過ぎていた。
業界人特有だろうか、どうしても夜型の生活になりがちだから、仕事がなければ普段はまだ寝ている時間だ。
「頭がいたい……」
寝言か?
だいぶ飲んだのだから、二日酔いでも仕方がないか。あとで薬を出してあげよう。
今でこそ慣れたが、まだ研修生のアイドル見習いの頃は、先輩やお偉いさんの前で、無茶な飲み方をして、最悪な翌朝を迎えたことが多々あった。
「おはよう」
声をかけると、俺の肩越しでビクッと身体が動いた。
「お、おはようございます」
寝起きはいいと言っていた。どんなに飲んだ翌日も、仕事に遅刻したことはないと豪語していたが、これからは、少しは控えてもらいたい。
「お目覚めですか、お姫様」
「なんで、コウキがここに?」
「なんでもなにも、俺が自分の家にいてなにが悪い」
スススッと、ベッドの端へ後退りする。
「先に言わせて。ごめんなさい」
一体、何に謝っているんだか。
「どこまで覚えてるの?」
「ケイタ君が途中で帰ったのは、覚えてる」
「そんな前かよ!」
バサッ!
「ひゃあ!」
足でかけ布団を蹴り飛ばすと、美咲のきれいな肌が露になる。
「俺たちが素っ裸でいる理由を、何も覚えていないだと?」
「うわーー、ちょっと、ゴメン、ゴメンけど無理!」
両手で胸を隠し足を丸めて、まるでダンゴムシのようなポーズ。暗がりでも顔を赤らめているのがわかる。
「一緒に風呂に入って、俺が化粧落としてやったのも、髪を乾かしたことも、そのあと、このベッドでしたことも、なにも覚えてないの?」
「うぅ、本当にごめんなさい。部屋に入ったり、2人でいるとこ、他の誰かに見つかってないかな」
まったく。心配してるのはそんなこと。それもいい所なのは分かるけど。このマンションは芸能人や有名人がそれなりに住んでいるから、住民も多少のことでは騒がないはずた。
かけ布団を戻したのに、俺に背中を向けたまま、小さくなっている。叱られた犬のようだ。
その背中に腕を回すと、ビクッと大きくのけ反る。
身をよじって逃げようとするので、腕に力を入れて阻止する。逃がすわけがない。手放す気なんてないんだ。
「今からしようか、今度は忘れないように」
後ろから抱くと、利き手が自由に動かせる。
「んっ……!」
まずは、美咲の好きな右側の小さな蕾を撫で、それから摘まむ。そのまま何度か続けてやると、強ばる身体もほぐれていくのがわかる。
それを合図に、手を移動する。
「や、だめ」
「だめ?なんで?朝だから?」
朝だからこそ。なんだけどね。
首筋に舌を這わせて、軽く甘噛みする。
「もう、いっぱい出てる、美咲の甘い蜜」
指を浅く入れる。暖かい。愛おしい暖かさ。
「あっ」
優しく蜜を溶かすように交ぜると、指の動きに合わせて、吐息が零れる。
「どうしたい?やめる?」
「あ、やっ、だめ」
そうだね。感じやすいところを焦らすと、欲しくてたまらないって顔するんだよね。
もっと、もっとと、美咲が奥へと呼び寄せる。
「ちゃんと、あげるよ」
欲しいものは何度でもあげる。俺を求めてくれるなら。
終わったらシーツを洗って、美味しいコーヒーを入れてあげよう。ランチは簡単にパスタを作って、仲良く映画でも見ようか。
2人で過ごす休日は、まだ始まったばかりだから。