これで良いんだ
井上 美月さんに保健室まで連れてきてもらってからもう二ヶ月が過ぎた。
私は未だにクラスに馴染めていない。というよりも、最初は色んな人が話しかけてきたのだが、私が距離を取っているのでいつしか誰も話しかけることは無くなった。
いや、唯一話しかけてくる人がいる。
「佐藤さん、一緒に帰ろ?」
「……」
その人は井上さんだった。
私は井上さんに何も言わずに帰る準備をする。
影で色々言ってるはずなのになんで私に絡むのか謎。
話しかけないでほしい。それに、たまに机の中や下駄箱の中に手紙を置くのもやめてほしい。
どうしたらいいのか分からなくて、結局はゴミ箱に捨ててるんだけど。
なんか、読むのが怖くて……。
鞄を持って教室を出ると背後から話し声が聞こえてくる。
「井上さん、まだあの子を気にしてるの?」
「優しいんだから。でも、仲良くする気がないみたいだから諦めようよ」
「仲良くなりたいのよ」
「でもほら、佐藤さんって、ねぇ」
なんて、そんな会話が教室の外だというのにハッキリと聞こえるのは、わざと声を大きくして私に聞かせる為だろう。
どういう意図なのかは分からないが、『あんたの味方はいない。クラスの全員がよく思ってないのにいい加減気付け』というように私は解釈してしまう。
そんなことは自分が一番わかってる。でもどうすればいいのか分からない。
こんな時にあおいちゃんが居てくれれば応えが見つかったのかな。でも、私は毎回考えを放置しちゃうんだよね。
あおいちゃんは私を甘やかすから。それで楽な道を歩んでしまう。
悪循環になっていることぐらい、私にだってわかってる。
けど……あおいちゃんを裏切りたくなんてないのよ。
あおいちゃんは最近、あまり学校に来ない。今日もそうだ。
たまに来たと思えば頬に大きなガーゼが貼られてたり、制服で上手く隠してるけどたまに見える傷のようなものも……。
聞いても「大丈夫だよ。転んだだけだから」と、曖昧に応えられる。
あおいちゃん、大丈夫かな。
深い溜息をしていると、肩を叩かれた。
いきなりすぎて驚いてしまい、「ひゃあ!?」と変な声を出してしまった自分が恥ずかしくて口を抑える。
「あっ、ごめん。そんなに驚くとは思ってなくて」
肩を叩いたのは井上さんだった。井上さんは困ったように笑う。
無視してるのに、なんで私に構うの?
意味が分からない。
井上さんは肩で息をしていたので、走って私の後を追ったのだろう。
「……あの、一緒に帰らなくていいから、聞いてほしいの。私、何かした? 気に障ることしちゃったかなって」
すぐさま無視して帰ろうとしたら、井上さんに腕を掴まれる。
乱暴に振りほどこうとしたら井上さんは暗い表情をして私に問う。
ーー何かした? 気に障ることしちゃったかなって
その言葉を聞いて腹が立った。
悪口言ったじゃん。他の子と楽しそうに私を馬鹿にしてたじゃん。
私は井上さんに掴まれている腕を乱暴に振りほどく。
「したじゃん。私、見たんだから。井上さんが他の子達と仲良く私の悪口言ってるところ」
「そんなこと言ってない。何かの間違いでしょ」
「……そう。ならもう私に関わらないで。私、カマトトぶってる奴が一番嫌い」
私は早歩きでその場を立ち去った。背後で私の名前を呼ぶ声が聞こえる。
聞こえないフリをした。
井上さんの傷付いた表情がチラついて、胸が針に刺されたような痛みを感じたが、私はその痛みにも気付かないふりをした。
これで良いんだと自分に言い聞かせて。




