私が何をしたって言うの?
仕事に行きたくなかった。けど、仕方ない。
働かなければ生活が今よりも厳しくなるのだから。
日に日に職場の人達の私への態度が冷たくなっていった。
少しのミスで怒鳴られるようになってしまったし……なによりも百瀬さんの話だけを鵜呑みにしてて私の話を一切聞いてはくれない。
あおいちゃんともしばらく会っていない。
車に轢かれそうになったあの日から、何となく気まずくて避けてしまっている。
もう、一週間はたとうとしている。
タイムカードを切り、更衣室で着替え終わった私は帰ろうとしたら、百瀬さんに声をかけられた。
「神経図太いのね。もう誰もあんたの味方いないのに」
壁に背を寄りかかっている百瀬さんは鼻で笑った。
「私の味方……、そんなの最初からいないでしょ」
「あんたのそういう態度がムカつくんだよ!!!」
百瀬さんは舌打ちして、私の肩を壁に力強く押し付ける。
痛みで顔を歪める。
「あんたの友達が佐々木様だなんて嘘、訂正しなさいよ。相応しくないのよ。どんな手を使ったの? 人殺しなんだもんね、脅すことも出来るわよね。根暗が考えそうなことだわ」
「なに言って……」
「虚言を吐いて、佐々木様に迷惑をかけるなって言ってんのよ」
「迷惑なんて」
「言い切れる? 佐々木様はあんたが可哀想だから仲良くしてるだけよ。何も思ってないの」
キッと睨む百瀬さんにたじろぐ。
すると、扉があいて、中を覗き込んだのはパートとして働いている主婦の一人だった。
「今、凄い音が……」
主婦が扉を全開にして部屋を見渡している最中に、百瀬さんが悲鳴を上げた。
その声に反応したのか、目を見開きながらも駆け寄ってきた。百瀬さんを庇うように抱き寄せ、私に詰め寄る。
「またあなた? いい加減にしなさいよ。大人でしょう。恥ずかしいと思いなさい」
「ち、違っ……」
「言い訳は結構です。……早く辞めてくれないかしら。迷惑なのよね」
私は何も言えずにぺこりと会釈してから急いでスーパーを出た。
百瀬さんは、わざと悲鳴を上げ、私を悪者に仕立てた。
私が何をしたっていうの?
ただ私は、あおいちゃんと話をしただけ。遊んだだけ。
何がいけないの。
なんで私はいつもいつも、
「……ほんと、嫌になっちゃう」
目尻に溜まっている涙を拭りながらも歩いていると、声をかけられた。
その声がする方を見ると、父が不安そうな顔で私を見ていた。
「お父さん」
「何かあったのか?」
「なんで……今日も夜遅くなるんじゃ」
「たまたま早く帰れたからな。仕事でなんかあったのか」
夜遅くに帰ってきて、朝は早めに出勤しているので、私とは何年も顔を合わせていない父。
少しやつれてる父は、どこか懐かしさがあった。
父は私の頬に触れ、指で涙を拭う。
「……うん……うんっ」
久しぶりの父に安堵したかのように一気に涙が溢れた。
今まで辛かった。辛いことを言えずにいて、もっと辛かった。
私はうまく人と話せない。だから、苦労も沢山してきた。誤解もされてきた。沢山、失敗もしてきた。
それでも頑張れたのは……父を支えたいと思う心からだ。
「お父さん……私、ね」
それでも、ずっとしまい込むのは辛いんだ。
もう耐えられないと思った。
「話したい事があるの」
何も解決しないだろうけど、言いたい。相談したいから……。




