信頼出来るのはあおいちゃんだけ
万引きをした覚えがない私は、否定したかったが、怖くて言葉が出てこない。
私は、クラスでは空気のように扱われていた。特に目立つ事は無く、影みたいな存在だった。
なので、噂話とかには全く興味がなかったのだが、
何故、そんな信用出来ない曖昧な噂が流れてるのか意味がわからなかった。
あおいちゃんはそっと私の手を両手で握る。
「心春ちゃんは、そんなことしないの……僕が一番分かってるからね」
だから、心配しないでと言われて頷く。
あおいちゃんの一人称が僕なのは、言いやすいからだそうだ。
変な噂があるのにも関わらずクラスメイトは普通だった。
もっと、極端に私を白い目で見たり、いじめの標的にしてもおかしくないと考えていたのに。
それでも、影でコソコソと噂しているみたいで、噂の進展はいつもあおいちゃん経由で聞いている。
「あの子の消しゴムが無くなったのは心春ちゃんが盗んだって」
「なんで学校に来てるのか意味わからない」「人の物を盗んでおいて……最低なんだけど」
とか。そんなことを言われてるのかと思うと、気が滅入りそうになる。
でも必ずあおいちゃんが言うんだ。
「そんな噂話は気にしないで」
「心春ちゃんの味方は僕だけだよ」
「先生やクラスメイトや他の子は信用してはダメだよ。だって、心春ちゃんが傷つくことしか言ってないんだから」
「何かあれば僕に頼って。クラスや先生も……それから他のクラスの子も影で心春ちゃんを罵ってバカにしてるんだから、絶対に話しかけられても無視してればいいんだよ」
と、優しい言葉をかけてくれる。私はその言葉を信じて言われるがままにした。
話しかけられても無視をし、授業中に先生に指名されても聞こえないフリをした。
後々先生に怒られるんだけど、その都度あおいちゃんが「心春ちゃんは何も悪くないよ。先生は心春ちゃんが羨ましいんだよ。だから嫉妬して怒るんだ」と私を慰めてくれた。
小学生だった私は、経験が少なく、視野も狭かったのもあり、あおいちゃんの言う事を素直に信じていた。
友達があおいちゃんだけだったのもあり、信頼出来る人がいなかったのもあるかもしれないけど。
中学生になると、制服指定になる。男女決められている制服で、女子はセーラー風。男子は学ラン。
入学式の時に初めて分かったことがある。
あおいちゃんをずっと女子だと思い込んでいた。でも違ってた。
男子だった。制服が学ランで、驚き過ぎて現実逃避しそうになった。
小学の頃はボトムス系を履いていたから気付かなかった。女子でもボトムスが好きな子は沢山いるから、なんの疑問も持つことはなかった。
そもそもあおいちゃんが誰かと仲良く話してるのも見た事もなく、他の子になんて呼ばれてるのかも分からなかったし、興味が無かった。
学校行事の遠足や旅行はあおいちゃんは必ず休んでいた。勿論、それに便乗して私も休んであおいちゃんと二人だけでこっそりと遊んでいた。
知らなかったとはいえ、男子に名前を『ちゃん』付けしてしまったので、申し訳なく思い、誠心誠意謝った。
そしたら、
「心春ちゃんにちゃん付けされるのは悪い気がしないからそのままでいいよ。心春ちゃんだけは特別だから」
と、照れながら言ってくれた。
これが友達なんだなと改めて友達を実感して感動していた。
けれどーー……。
中学生に入ってからあおいちゃんが明らかにおかしくて不気味さが増していることに私は気付かなかった。
いや、気付かないようにしていたんだ。




