母上の導く先に
目の前には大きな漆黒の扉がある。
食事のあとしばらくして約束のとおり導かれてきた先の扉だ。
私が今まで生きてきた中で通ったことのない、地下の道を案内されて進んできた先。
ここだといわれて再度目の前の扉を見たが、手で押しても開きそうにない重厚な大きな黒い扉。
「母上?」
ここに入るのだろうか?押しても開きそうにない扉だが、意外に母上だけで開けれるのだろうか?
「ここに立って、そう」
そう言い、扉の目に一人立たされる。
黒い扉のせいが、なんだか威圧を放っているように感じる。
華美な装飾はないが、近くにいても材質が分からない、しいて言うならば何かの革細工のような少しのっぺりとした表面のようだ。
しかし、なんだかこの扉は冷たい、重たい空気がこちらに流れて全体を押されているような。なんだか奇妙な感じがする。
「この扉はね、すごく昔にに作られたのよ」
なんとなく黒い扉を観察していると、急に母上がしゃべりだす。
「本当に昔。この国が作られて間もない時の話だそうよ。この国を大きく強くしてくれる神様がここにいるの」
「え?」
そんな話、聞いたことがないのだけれど、と思い思わず振り返ろうとしたときにどんっと背中を押される。
そうすると目の前には大きな扉が。
思わず両手で自分の体を支えようとして、でも押された勢いのまま両手が扉に突いたと思ったけど、支えなく地面に転がり込んでしまう。
なんで?
受け身をとれず倒れこんで、両手と膝が床にぶつかり痛いけど、それよりもなんで扉にぶつからなかった?
起き上がり前を向くも先の見えない長い廊下が続くだけ。
だから今度は慌てて振り向くと、そこには先ほどまで見た黒い扉があるだけ。なんで?
母上は?
扉に手をつくけど、力を入れて開けようとしても開かない、当たり前だがすり抜けることもできない。
でも、じゃあ私はどうやってここに来た?
「やはり、ラインハルトなのね。よかったわ」
近くで母上の声がする。でも姿は見えない。扉の先に母上がいるようなそんな声の響き。
「は、母上、これはどういうことで、、、」
「ラインハルト。ああ、よかったわ。ちゃんと帰ってきてくれて。わたくしはとても嬉しかったのよ。運命なんだわ」
「母上、」
「先ほどの話なのだけれど、ここには神様がいるのよ。この国の大切な神様。この国始まってずっといてくださるの。いっぱい力を歴代の王様に授けてくださったのよ、だから私たちも国の国民も幸せに暮らせているでしょう?でもそれだとフェアじゃないわ。わたくし、子どものころに調べたのよ。旦那様にも聞いてみたわ。もっと強くなるためには捧げものも必要なの」
捧げもの、とは。
「この神様は初めの建国の王が闇属性だったからか、闇の属性のものしかお気に召さないみたいなの。だからよかったわ。ラインハルトあなたが闇属性で。」
私の手のひらに着いた黒い扉を挟んで、母上は楽しそうに、歌うようにこの建国の話を語るが、私は胸が痛いほどに心臓が早打ちしている。嫌な汗が顎を伝う。
捧げものって。何の事。闇属性って。
「ここ50年以上闇の王族が生まれていなくて、わたくしは心配していたのだけれどラインハルトがやっとここに来れる年になったから、ほっとしたわ。あなたの生まれた意味よ。この国の繁栄のために、その先の神様に会ってきなさい。そしてその身をささげて頂戴。旦那様と、あなたのお兄様の為に」
「なんで、ここから出してください」
指先がしびれるように冷たくなったけど、かまわず扉をたたいてみる。
しかし冷たい何かの皮のような扉はびくともせず、母上もこの扉の先で笑っていることに絶望する。
「旦那様はいい顔をしないけども、あなたがここで国の礎になることを、この国をより豊かにすることを望んでいるはずだわ。そうして、その力を継ぐあの子も」
力いっぱい扉をたたくが軽い音を立てるだけで、少しも動くことはない。
暗いながら開ける方法を探してみるが、のっぺりとした扉の作りで手を引っ掛けれるような細工も見当たらなかった。
「大丈夫よ、ラインハルト。心配しないで。この日の為に婚約者も作らず最低限の者たちに囲まれて育ったのだから、影響は少ないわ。大丈夫、だから」
「そんな、なんで、ひどい」
「だから、その先の神様に慰めに行きなさい。大丈夫、今まで何人も同じように会いに行ってるわ。愛しているわ、ラインハルト」
「、、、っどうして」
「、、、、、、、。」
たたいても、どうしてもこの扉は開かない様だ。母上はここから立ち去ったのだろうか、もう声が聞こえない。
どうして、こんなことに。
この城に帰らず、叔父上にあった時点で旅に出ればよかった。
ここで生贄になるために育ててきただなんて。そんな。愛しているとは言えないだろう。こんなこと。やはり母上は兄上だけを愛していたのか。
その事実に、なんだか目が熱くなり、視界が滲む。
これからその神様のいけにえになることも怖いが母上に捨てられたことが今は本当につらい。
「ふ、ううう、、、」
変な呼吸を止めることができない。声が口から洩れでる。胸が裂けるように鈍く痛む。
ぽつぽつと涙が地面に落ちてく。
どのぐらい、ここでしゃがみ込んでいたのかこの薄暗い場所では時間の感覚もわからないが、少し泣いてだんだん落ち着いてきた気がする。
もういいじゃないか。だったらこっちから家族なんて捨ててやる。
そう思い、座り込んだ足を延ばしたときに、今まで気がつかなかったけど、何かいた。目の端に何かが見えた。
「っつ!」
びっくりいて振り向くと、そこにはピコとクーが困った顔をしている。
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