私は一人なの?
「あなたは頑張らなくていいのよ、お兄様が頑張ってくださるわ」
「まあ、すごいわね。でもお兄様をちゃんと立ててあげてね。」
お母様がきれいな笑顔で、いつも優しく私に言ってくれた。
ゆったりとした清潔な部屋で、ソファに腰を掛けていつも私をなでてくれる。
でも、
私がどんなに頑張っても、お兄様を大切に。お兄様はすごいのよ、と。
私をほめるあとにはお兄様のことが話題に出る。
私だけを愛してほしいとは言わないが、なんだかさみしい、ような気がした。
おじいさまも私よりお兄様が好きみたいだ。私といるより笑顔や態度がなんだか違うように感じるから。
それとも私の のせいなのか、それがなければみんなに一番に愛してもらえるのか。
私は、どうすればいいのだろうか。
今度の公務を成功させたら、少しは私を愛してもらえるだろうか。
一番に愛してなんて、子供っぽくて言えないが抱きしめて一番大切と言ってほしい。
なんて。
なんだか胸当たりが暑苦しくて目が覚める。
城での夢を見ていたような気がする、あまり覚えていないが。
胸に手を置こうとして、ふわっとしているが固い感触がある、なんだこれ。
「おはようございます、ラインハルト。魘されていましたよ」
派手な羽がしゃべった。クーが私の胸に座っていたようだ、なんでだよ。
両手でクーをもち横に置いて起き上がる。今日もいい天気だ。
「ピコは森の中で遊んでいますよ。今日はもう少し食糧があるといいですね」
「そうだな、ありがとう」
素直にお礼を言う。なんだか少し、落ち着いた気分だ。
当たり前だが、おなかはすいているしのども乾いているが。
ランチョンマットに包んでいた果物を取り出し食べておく。
みかんを一房クーのもとになんとなく持っていくが、
「私には必要がありませんので、ラインハルトが食べてください」
と静かにいう。
まあ、そうかと思う、そうして色々ここにきて想定していたがやはり生きているのは、食糧を必要としているのは私だけか。
またぼーと海の方を見ていると、なんだか波間を進む小型の船が見えた。
思わず駆け出し、海のほうに行く。
助けだ!!
波打ち際までいって大きく手を振り、大声で叫ぶ。
大声をあげつつ船を追っていくが速度は変わらず、こちらにもきずいてない様子。
砂浜に足がとられて、頭から転んでしまう。こんな時間が惜しい時に転ぶだなんて。
起き上がり船を見るとその分遠ざかり、絶望的な気分になる。
それでも限界まで大声で叫ぶ。が船は遠く、そのまま進んで島の影に消えてしまった。
その時に緊張感のない声でピコが来るので、船に行って助けを呼んできてくれるように頼んだ。難破した私を助けてくれたように、今度も助けてほしい。
急いで説明するも、気乗りしない表情で「無理だとおもうよ~」と言いつつ船のほうに行ってくれた。
せっかくの救助だ、そうして今はすぐにでも城に帰りたかった。
温かい両親や兄、先生に会いたかった。
船が消えた方角をじっと待つ。
気がせく中とても長い時間がたったような気がした。
気が付くと横にはクーがいて黙ってただそばにいてくれている。
そうしていると、遠くからピコが返ってきた、が一人だ。船の影や立てる波すらない。
「やっぱ無理だった~」
「なんで!!言ってくれたんじゃなかったの!??」
悲しさと、怒りで感情的になる。
帰りたかったのに!船で私のことを探しているのに、絶対に!
「だって、私のこと見えてないもの、みんな。声も聞こえないみたいだし」
何だかいつもより、のんびりというピコに腹が立つ。
そんなわけがない!私とちゃんと会話しているじゃないか。なんで助けてくれないんだ。なんで!なんで!!
膝にクーが乗りこちらに注意を向けようとしていることは感じたが感情が抑えれない。
こんなところもう嫌なのに、怖いのに!虫も多く、気持ちが悪い。水もご飯もなく、横になることもまともにできず、痛い木の上で休んで、文明のないこんな、生活もう嫌だ。
自分だけ、なんでこんな、一人でっ。私は王子で、高貴な生まれで。いろいろな感情が生まれてきて、悲しさが、悔しさが、怒りがこぼれる。
涙がにじみ、こぼれたとき、体の周りで突如爆発音がした。
呆然としているとぱらぱらと砂が降ってくる。
「は?」
目と口の中に砂が入って気持ち悪いし、痛い。
ペッペッと口に中の砂を吐き出したときに、すうっと冷静になった自分がいた。
少し離れた2人を見て、なんだかやるせないような、申し訳ないよううな。
自分で頼んでダメなら激昂するとは、ダメな人間のように感じる。
そうして、急に今この2人に見捨てられたら生きていけないことも感じてすごく恐怖も沸く。
嫌われていたらどうしよう。私を放っていってしまうかも。
しかし、どう声をかけていいか、謝ればいいかもわからず突っ立っていると。
「すごい爆発だったねぇ。」
と、何でもないようにこちらに話しかけてきたピコ。
賛同するようにギャアと鳴き、その横に来るクー
普段通りでなんだか、気が抜けて、でも助かった気分になる。
「うん、ごめんなさい」
気が抜けたまま素直に謝ることができたように思う。
「大丈夫だよー。でも、本当にピコのことみんな見えてないし、わからないんだよね。ラインぐらいなんだよ。わかってしゃべれるの、すごいよね!」
と、こちらをのぞき込み少しすまなさそうに声をかけてくれた。
「うん、信じてる、ごめんなさい」
そもそも、私としてもこの二人をお化けとして認識しているのに、船を見たときに忘れてしまった。
なぜ私としゃべれるか、見えるかなんてはわからないが、普通は見えることもないのだろう。
本当になぜだか、わからないけども。
爆発したせいか、あの絶望的な気分も収まり、朝に果物を食べてしまったので、また食糧がなくなってしまったことを思い出した。
そもそも、船がここを通過したということは、私がここにいる限り何度か通り過ぎるチャンスもあるだろう。それを待とう。
その為には生き残り続けなければいけない。
だから私は食糧を探すことにする。生きるために無様でもあがく所から始めなくてはいけないからだ。
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