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寂しき恋四季

作者: ATURA


 単調で、粗暴な文章です。

でも、伝えたいことをありったけ込めて書いた。

それを感じ取ってくれれば幸いです。

 別に好きでもないのに、気になる女がいる。

同じ中学生としては、どうも純粋すぎるというか?

ただ、ひたすらにがんばっているバカ………てな感じの女だ。


中学二年になって、その女とはじめて同じクラスになった時だ。

その女は、ため息と辛そうな表情で席に座っていた。

一瞬泣くんじゃないかと思うくらいの顔を見て、正直良い気はしなかった。

別段いじめられている様子は見えない、要はいじけているだけだ。

新しいクラスでは仲良しの友達と同じじゃない。だから不安で泣く。

そんな負のオーラはすぐにクラスの雰囲気も悪くする。

全く、新学期早々嫌な感じだ。

だが、次の瞬間、不思議な光景が見えた。

周りの女子達が慰めている。

何気ない言葉をかけているが、親身になって傍にいてあげている。

親切な友達ばかりだな。

オレはそこで、ただ単純に人がいいクラスメートが多いのだと……それだけしか思わなかった。



春日和だ。

こういう時期は暖かい光を全身で受けて日向ぼっこをするのが一番だ。

教室で友達と他愛も無い世間話をしていると、校庭にあの女が見えた。

二階の窓からだと非常に見やすいな。俺は何気なく上から見ていた。

お?男と話をしているな?

気の弱そうな、でも、人のよさそうな男。

あぁ、去年同じクラスだった男だ。

気は弱いが、一緒にいて居心地のいい奴だ。

そいつの持っている雰囲気が、男女を問わずに、癒しの空間を作るのだろう。

弁当を手渡している様子を見ると、あの女はあいつに惚れているわけか。

他人の色恋に興味が無いわけではない。いわゆる今見ているあの二人みたいな『微笑ましい光景』はどちらかというと好きだ。だが、他の人間は修羅場のほうがお好みらしい。

相手を取った取られたなど、なんとも気分の悪い話だ。

「おい、何見てんだ?」

「あ?………別に、ただ外見てただけだ」

友達が興味ありげに窓の外を見るが、こいつにとっては何も無い。

つまらなそうな顔を返した友と代わって、俺の目には楽しげに弁当を食べる二人の姿が見えた。



夏だ。暑い日が続く。

この時期になって、あの女と俺は、奇妙な縁があったのか、調べ学習のペアになった。

「よろしくね!」

新学年の初日、泣きそうな顔だった女は、今は笑顔を俺に向けていた。

もしかすると、あの男と別のクラスだから泣いていたのか?

まぁ、どうだろうな。

栗色の軽い天然パーマをヘアピンで留めた髪。

初日と打って変わって、笑顔でよく喋るムードメーカー。

まぁ、正直に言えばどこにでもいるような女だ。

元気な友達が増えた。そんな感じだな。

だが、調べ物の昆虫採取のため、夏休みを利用して木々の多い場所へ出かけた。

二人だけでは効率が悪いから、いくらか人を集めた。

虫取りはそこまで得意じゃない俺は、こっそりと森に囲まれた寺の陰に隠れてサボる。

すると、声が聞こえた。

寺の東境内に身を潜めていた俺は、恐る恐る石段方面に目を向けた。

石段に座る男女。おや?あの気のいい男がいる。

ん?もう一人は、面識は無いが知っている。

我が校のアイドル、といわれている美少女だ。噂だけは良く聞く。

ほう?寺の様子を調べている。どうやら地域の寺や神社の調べものをしているようだ。

二人は楽しそうに喋りながら寺の様子を用紙に書いている。

ふむ。心なしかあの男が、美少女相手に気がある素振りが見える。

まぁ、可愛い子が目の前ならそうなるものか?

俺は別段見てはいけない場面でもないので、ただ黙って息を潜めていた。

すると、偶然だが、会話が聞こえてきた。

「あ、あの!……僕と、今夜の夏祭り一緒に……行かない?」

「え?………う、うん。いいよ」

少し、俺もドキッとした。

傍観者でありながら、その甘酸っぱい雰囲気にでも包まれたか?

まぁ、悪い気はしない。

俺は恥ずかしがっている様子の二人を見ながら、気持ち悪いほどニヤニヤしてた。

すると、後ろからいつの間にか、あの女がいた。

ビビッた俺に、『静かに!』とだけ小声で言った女は、あの二人が去るのを待っていた。


石段から降りて、あの二人は去っていった。

終始楽しそうな会話が、今だけ余計にこの場の雰囲気を悪くしていた。

女は明らかに元気のなさそうな顔で、二人のいた方向をずっと見ていた。

「………あいつと、付き合っていなかったんだな?」

「ほえ?いつ付き合っているように見えたんです?」

この女独特の口調になる。だが、顔は俺のほうに向けなかった。

「いやさ……教室からお前らが弁当一緒に食べているシーン見たから……」

「ふふっ……一瞬でも付き合っているように見えたんなら、うれしいです」

心に、ぐさっと来る、言葉だ。

「まだあいつらは付き合っているわけじゃないだろ?」

「……でも、あの人は………私じゃなくて、別の人が好きなんですよ」

なんとも、明るい声だ。だが、無理しているのが見え見えだ。

頑なにその場を動こうとしないその姿からも、この女が、言い知れぬ悲しみに包まれているのが分かった。



夏も過ぎて、風が多少寒くなってきた。

涼しい時期だとか聞くが、俺は寒さに弱いのでそんな生易しいものには感じない。

だが、この女にとっては特に関係なさそうだ。

手編みセットを学校にまで持ち込んで、マフラーを編んでいる。

弁当作りも続けて、毎日顔をあわせて、ことあるごとに、あの男と会っている。

一瞬諦めたようにも感じたが、夏のあの日以来、この生活は止めてないようだ。

「………なぁ、振り向いてもらえそうか?」

「さぁ?………でも、尽くしているだけで、なんか幸せです」

穏やかだ。こちらが呆れてため息をするぐらい、優しく、本当に幸せそうな顔をする。

その分、健気と言うか、言い方が悪いが、可愛そうに感じた。

「………なぁ、まだあの二人は付き合っちゃいないんだろ?」

「そうですよ?」

「………告白したらどうだ?あいつに?」

「……今しても、困らせちゃうだけですから」

「はぁ?」

「私ががんばって、あの人を振り向かせようとしているように、あの人も、がんばって振り向かせようとしているから……そうしたい人が、いますから」

「……………………」

辛くないのだろうか………なんて陳腐な言葉、言っても無駄だろう。

辛いし、もどかしいし、苦しい………。

そんなの、見てるだけで分かる。

マフラーが完成して喜んでいるこいつを見ながら、俺は、どうしようもない現実に苦笑いをした。




冬か。外よりはいくらかマシ程度な教室内で、俺は包みを持ったあの女を見る。

下校時刻にも拘らず、女は困った素振りでその包みを、自分のカバンに入れた。

「おい、渡すんじゃなかったのか?」

秋ごろから作っていたマフラーが中にあることぐらい、容易く想像できる。

「いいんです。失敗作だし」

「嘘つけ。あいつがもう別の女から貰っていたからって、お前のを渡さない理由にはならんぞ」

俺は多少イラ付きながらそう言った。

だって、がんばって作ったくせに渡さず済ますってどうよ?

他の奴に先越されたからって、渡す意味が無いわけじゃねぇぞ?

そんな所でイジイジ立ち止まってたら意味ねぇだろ。

そう言ってやりたかったが………コイツ自身が、無理矢理渡して、あの男を困らせたくないことが分かっている手前、どうも言えなかった。

「そうだ……何ならあなたが貰ってくれます?」

言うと思った。不機嫌そうな顔でそう言われて貰っても、うれしいわけねぇだろ。

「………よし、じゃあよこせ」

俺は少し妙案を思いついたので、その包みを受け取った。

「じゃあ、帰りますね!」

走って出て行くあいつ。さて、更にお節介をしに行きますか。

俺は、あの男の元へ行く。


ギリギリ補習を受け終わり、帰る途中の奴を見つけた。

俺はそいつを校門前で呼び止め、渡そうとした。

だが、そいつが既につけているマフラーに目が行く。

「………それ………」

「あ、えっとね……へへっ、安藤さんに貰ったんだ!」

安藤………あの美少女か。

嬉しそうなそいつを見て、ふと気が付いた。

あぁ、こいつもあの女と同じで、恋愛をがんばってんだな。

振り向かせるための努力、しているんだな。

これじゃあ、俺、お節介じゃなくて………邪魔だな。

結局、俺は渡せなかった。

そして、翌朝、女に返した。

「いらないんですか?」

「…………すまん」

俺の意味深な謝罪に、理解してくれたようで、そいつは笑顔でその包みを受け取った。





あぁ、気が付きゃもう中学三年かよ?

俺は高校進学を考える学年に上がり、多少面倒に思う。

だが、いづれはたどる道だ、仕方がない。

そう言えば、あの女も、男とも、別教室だな。

気が付けば一年間ずっと、あいつらを見ていた気がする。


雨が降っている帰り道。

そう、偶然だった。

俺は傘をさしながら、雨の中歩いていた。

下校中だ。思いのほか土砂降りとなった雨模様に、苛立ちが募る。

そんな中、あの二人を見た。

数ヶ月程度だが、なんとも懐かしい感傷を覚えた。

だが、二人の様子が、甘いものでないことも、わかった。

気まずそうな顔の男、そして、雨なのか、それとも別の何かか、濡れた顔をしたあの女が、傘もささず、走って行ってしまった。

会話すら聞こえない、なのに、内容が手に取るように分かった。

俺は捨て去られたあの女の荷物を拾う男に近づく。

「……あ、どうも………」

「あぁ………その、振ったのか?」

「………………はい」

荷物を持った男は、気まずそうに、俺に助けを請う目を向けた。

「………あぁ、荷物か……うん。俺が持っていくよ」

振った手前、この男が持っていくわけにはいかないからな。

「ありがとう」

男が差し出したカバンを受け取った俺に、偶然、中身が見えた。

あの、マフラーが入っている包みが、その中には眠っていた。

俺は、なぜか急かされるような気持ちで、その包みを手に取る。


 なぁ、もしかしてやっぱり、渡したかったんだよなぁ?

    だって、がんばったんだぜ?あいつ。

 振り向いてもらえる確率なんざ、ゼロに近かったのに……。

 わかってて、苦しんで、それでも、夢見たんだよな?

 ずっと、こいつの傍に居たいって、願ってたんだよな?


「………なぁ、俺からの頼みだ」

「はい?」

「このマフラー、受け取ってくれ」

俺は、お節介を働く。

別に、特に必要なことじゃない。

むしろ、終わった恋を蒸し返すような、いらんお世話だ。

それでも、それでもさぁ………。

「………うん」

そいつは、素直に受け取った。


なんかさ、努力しても無駄みたいな現実ってさ、嫌じゃん。

でも、そういう現実も、あるんだよな。

がんばってがんばってがんばって………それでも、叶わない。

恋なんて、それが一番多い気がする。

だから、気が狂って、無理矢理奪ったりするんだよな。

でもさ、それって俺一番嫌いだわ。

恋とかさ、人間関係って、壊したり奪ったりするもんじゃないって。

ましてや、他人の恋の邪魔なんて、最低だって。

きれい事しか言ってないようにも思えるけどさ、これが現実だって。

わかってるんだろ?

勝負とかさ、仕事?地位?名誉?金?

無機質なものに対してはさ、まぁ奪い合いもありだろうけどさ?

人間は別だろ?人だぜ?生きているんだぜ?

奪い合っていいもんじゃないって………。



あの女は、また翌朝も元気に登校してきた。

「昨日は荷物持ってきてくれてありがとうね!」

「雨の日にカバン落とすとかドジすぎるだろ?」

「はう………すみません」

「………中には、無くしちまったものもあるかもしれないんだからな」

俺は、あえて黙っていた。

渡したと、言わなくても良いだろう。

無粋だし、言っても意味などない。


「お~い、どうしたのアツラくん?」

「別に?」


俺はまた、あの心地よい春日和の校庭を、窓から見ていた。



 




 い、いや、別に体験談じゃないんだけどね。


どうしてもユーモアが欲しかったんだ。


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