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7.悪党達は次の手を考える

 ――一方その頃。

 ――夕方、シッミアの下刻。

 ――トルリア城、リッカルドの私室。



「ぬぁぁぁぁーーーー!!」


 リッカルドは大声を上げて机の上に積み上げられた本を、薙ぎ払った。ギリギリと歯を剥き出しにして怒り、美しい顔が崩壊している。


 ソファには、あの時脱ぎ捨てられたクラノスのマントを抱き締めながら、不満そうにダニエラが座っている。


 本来の作戦は、ティティアがまだ聖女として未熟であると判明し、ダニエラが聖女続投。あのままティティアを部屋に連れ帰り、監禁。聖女の道を諦めて貰う、そんな作戦だった。

 

 だがクラノスのせいで失敗し、リッカルドとダニエラは貴族達に笑われ、儀式は成功だがなんとも言えない微妙な終わり方をした。


「まさか竜王様が入られるとは……」


 椅子に座り、大神官は目の前にある粉砕された金の腕輪を見やった。


「ダニエラ!! 何故さっさと守護結界を張らなかった!! 聖女の首飾りを奪い取ってしまえば良かったのに!!」


 ダニエラはギュッとマントを握り締め、イラッとするようにリッカルドを睨み付けた。


「奪い取って守護結界なんて張ったら変じゃないですか。殿下がさっさと外に連れ出せば良かったんですよ」

「なに!?」

「そもそも、私は仕事1つ成功させましたからね。その腕輪に魔力封じの呪いをかけるっていう」


「あれが成功か?! 守護水晶が光ってヒヤヒヤしたぞ!!」

「それでも成功してます」


 やいのやいのと罵り会う2人を見て、大神官は溜息を吐いた。


「クソっ、こうなったら我が騎士団を率いて竜王城に行く――」

「戦争になりますよ? そもそも、ファフニルに入るには竜王様の許可がいります。了承するとは思えません」


 ダニエラは貧民窟(スラム)出身で、今の生活より酷いものはないと選定の石に触れ、聖女になった。そして聖女の地位の心地良さと、クラノスの真の姿を見たらしく、クラノスと死ぬ迄一緒にいたいと願うようになった。


 リッカルドはティティアが孤児院にいる時から夢中だった。運命の相手だと信じ、所有欲に近い執着をしていた。


 通常であればそのまま年月が過ぎる予定だった。だがそれも、ティティアが選定の石に選ばれてから変わってしまった。


 ティティアは神官から聖女見習いに。

 ダニエラは聖女歴3年で翌年の聖女交代を決定された。


 リッカルドにとってティティアが聖女になれば永遠に手に入らない女となる。ダニエラはクラノスの傍に居られなくなる。

 

 これらを何とかしようとリッカルドとダニエラは手を組んだ。


 ティティアが聖女の道を諦めるように、大神殿にいるダニエラ信者を使い嫌がらせをした。だがどれもこれもアチェロとベルタのせいで、上手くいかなかった。


 最後の手段として今回の事件を起こしたのである。


「戦争!? やってやろうじゃないか!!」

「殿下、少し冷静になって下さい。これ以上は天罰が下りますよ」

「貴様に『天罰』などという言葉は似合わないぞ!」

「一応神に仕えてるんですがね」

「その神に仕える身の貴様は、何をして、誰のお陰で、その生活が出来ている?」


「それは感謝していますが――」

「それもこれもティティアの為だ。ティティアが私の腕の中に抱かれる為に貴様を優遇してやったというのに……事が大きくならず済むことを考えていたがもういい。出し惜しみはしない! ティティアは私のものだ」


 リッカルドは静かに2人を見据える。大神官は眉をひそめた。


「なら、これから何をしますか?」

「そうだな。先ずは――」

「兄上!!」


 扉が急に開き、そこにはリッカルドに似た顔立ちの少年が立っていた。まだ12歳程の少年の肌は褐色で、真っ白な肌をしたリッカルドとは違う。


「どうした、可愛い弟オルランドよ」


 リッカルドは小馬鹿にするようにそう言った。オルランドは顔を強ばらせ、手には何十枚もの紙の束を抱えていた。


「新年の儀の件、その他諸々調べさせて貰いました。3人揃っていて良かったです。大神官、貴方の側近の1人が洗いざらい吐きました」

「全て? 何の話をしている?」

「惚けても無駄ですよ」


 オルランドは持っていた紙の束をリッカルドへ渡した。リッカルドはページを捲り、簡単にそれを読んだ。


「ほぉ……これはなかなか調べたな」

「調査報告書が嘘であってくれたら、と何度思ったか。大神官の件も……兄上が関わっていることが残念でなりません」


 パラパラとページを最後まで見たリッカルドは「そうか」と言う溜息を吐いた。


「ミーズガルズの貴族について書かれていないな」

「書かれていなくてもじき分かります。こちらも考えているのです」

「ほぉ」

「お願いです、兄上。国王代理を下りてください。父上が帰ってくるまで西の塔に謹慎して頂きたいのです。宰相もスペランツァ公爵も了承済みです」

「宰相とスペランツァ公爵の了承だけでそんなことをするのか?」


「いいえ……兄上に内密で貴族会議を開かせて頂きました。過半数の賛同は得ています」


 オルランドは懐から1枚の紙を取り出し、リッカルドへと渡す。それはリッカルドを国王代理から外し、オルランドを国王代理にする為の書類で、貴族達の署名が連ねられていた。


「そうか」


 リッカルドは微笑み、オルランドの頭に左手を置いた。


「兄上?」


 頭を撫でる様な行動に眉をひそめる。


「幼く可愛い弟よ。私の為に多くの証拠を見つけたのだな」


 リッカルドはオルランドの髪を鷲掴んだ。


「いっ、痛い! 離して――」

「供も連れずに愚かだな。こういう時は誰か連れてくる方がいいぞ」


 髪を引っ張り上げられ、オルランドは痛みで顔を歪める。


「先ずやることが決まった。地下牢にこいつを入れる。それから署名をした貴族達もだ」


 リッカルドはオルランドをの髪を掴んだまま歩き出した。


「兄上!!」

「お前は優秀だ。私ではなくお前を次期国王に推す奴らの気持ちが痛いほど分かる。でもやはり幼いな。大神官、外にいる私の騎士を呼べ。オルランドを牢に入れる」

「父上が帰ってきたらどうなるかお分かりですか!!」

「帰ってくる?」


 ピタリと足を止める。


「父上が帰ってくると思っているのか? 行方不明となってひと月近い。新年の儀にも現れなかったんだぞ」

「いつか絶対帰ってきます!」

「残念だがそれはない」

「僕はそう思いません!」


 リッカルドはオルランドの髪を更に引っ張り上げて視線を合わせた。


「では良いことを教えてやろう」


 ほぼ上を向いた状態のオルランドは苦しそうに呻く。


「父上は帰ってこない。私が殺したからな」


 リッカルドはニヤリと笑い、オルランドの顔は青ざめ涙を浮かべた。オルランドは髪を掴まれたまま引き摺られるように歩き、扉の前へと着いた。


「これから忙しい。少し落ち着いたら、お前も父上の元へ送ってや――……あ?」


 扉を開けると、そこには宮殿服を着た40歳程の男が立っていた。その後ろには甲冑を着た50代半ば程の男が立っている。更にはその後ろに数名の騎士が見えた。


「おやまぁ、スペランツァ公爵。それとオルランドの可愛い騎士団か? 何故ここに?」

「リッカルド殿下、オルランド殿下を離して下さい」


 スペランツァ公爵は右手に剣を持ち、リッカルドの首に突き付ける。リッカルドは剣が刺さらぬよう、後ろに下がった。

 大神官とダニエラは立ち上がったが、騎士団長に「動くな!」と怒鳴られ、その場に留まった。


「なんだ。誰も連れていないと思えば、いるじゃないか……黙っていたな」


 オルランドは口を結び、目を逸らした。リッカルドは乱暴にオルランドを離すと、オルランドは小走りでスペランツァ公爵に抱き着いて彼の後ろに隠れた。


「オルランド殿下はリッカルド殿下とまず話し合いたいと。きっと分かってくれるはずだと仰ったのですよ。なのに――」

「心優しい弟だ」


「……それから、先程の話は聞こえました。殿下。国王陛下暗殺の罪で逮捕します」


 リッカルドはスペランツァ公爵が持つ剣の刀身を右手で握った。リッカルドの手から血が滴り落ちた。まさかの行動にスペランツァ公爵が目を見開いていると、リッカルドは1歩踏み出しその刃先を自身の左肩へと刺した。

 

 慌ててスペランツァ公爵は剣を引く。


「気が狂ったのですか!?」


 リッカルドは小馬鹿にするように微笑した。


「お前達が何かしようとしていたことぐらい把握していたさ。何故ここに警備兵を置かなかったと思う。お前達がいつ来てもいいようにだ」


 そう言うとリッカルドは大きく息を吸い込んだ。

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