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番外編 翼を出した雄

「おはよう、子供達……名前は決まったのでしょうか?」


 ――ギュルアアア!!


 ティティアが目覚めて2日後。ワイバーンの小屋へと来ていた。早速レアとロスの巣に訪れる。


「うん。右からファイトス、アスス、レイティア、ベーベだよ」


 ――グルルアァ!!


「素敵な名前……ですね……」


 ――ギュイエーー!!


「あの、クラノス様。上空で繰り広げられてるケンカはどうしたのでしょうか……」


 ――グルギョアアイウアーー!!


 先程から小屋上空で1匹の雌ワイバーンと1匹の雄ワイバーンが物凄い声を出して争っている。いや、雌が一方的に雄に攻撃していると言っていいかもしれない。


「兄と妹の喧嘩だね。大したことないよ」


 そしてその2匹の少し遠巻きでレアが飛んでいた。


「それと、この子達は……?」


 レアとロスの巣の横で、1匹の雌は涙を流し2匹の雌が涙を流している雌を前足である翼で抱き締めていた。


 巣の中では子供達の相手をしながら、上空を見て大きく溜息を吐いたロスがいた。




***


『私の友達に翼出すなって言っただろうがーーーー!!!!』


 小屋上空をレアの娘であるメテルが飛ぶ。目の前の雄ワイバーンに向かって罵詈雑言を吐いた。


『あデデデ!! やめろメテル!! お兄ちゃんに向かって――』

『こんなのがお兄ちゃんなんて恥すぎる!! 脳内ちんぽ野郎!!』

『脳内ちっ!?!! ひどっ!!』


『こら!! メテル!! ゼスになんてこと言うの!!』

『ママはゼス兄に甘い!!』

『あぎゃ!! いだだだだ!! やめろって!!』


 メテルは兄であるワイバーン――ゼスの背後から首を噛んだ。そして背中を後ろ足でガリガリと引っ掻く。


『んぎぎぎー! レトラは私の大親友なのに泣かせやがって!!』


 ゼスの身体は噛み傷引っ掻き傷だらけだった。血が滲み出てきている。


『お前マジでいい加減にしろ!! 痛いってんだ!!』


 ゼスはメテルを振り払う。距離を取って小屋の柱にしがみつき『こっちに来るな』と威嚇の鳴き声を上げた。

 メテルは泣いているレトラの横に降り立ち『こっちに来るな』と威嚇の泣き声を上げた。


『確かにレトラはお前の友達だな! けどな! お兄ちゃんはレトラのことは本気で――』

『嘘! じゃあなんでレトラが泣いてんの! 適当に誘って一夜の愛楽しんで〈運命の番じゃなかった〉ってふったんでしょ! 〈どうしたの? 話聞こうか?〉からの〈ああ、それは彼氏が悪いわ。俺だったらそんな思いさせないのに〉が常套句だもんね! ゼス兄の!』

『はぁ!?』

『いいのよ、メテル』


 泣いていたワイバーン――レトラは顔を上げてメテルの元に近付く。


『レトラ、でも――』

『私ね、ゼス様から声を掛けられて嬉しかったの。ゼス様は子煩悩で美竜で……それでいて性格も面白くって素敵で優しくて……憧れてた……分かってたの。私なんか遊び雌ワイバーンの1竜だって。それでも良かったから』

『レトラ……』


『幸せだった……あの日の夜、運命の番を感じたのは私だけだったみたいだけど……ゼス様には幸せになって欲しい。だから私――』

『ちょっと待てーー!!!!』


 ゼスは大声を上げたかと思うと、再び高く飛び上がった。そしてレトラの目の前に降り立った。そんなゼスに対してメテルはレトラの前に出て牙を剥き出しにして威嚇する。


『どうして別れる話になってるんだよ! そもそも、どうして君は泣いてるんだ!』

『白々しい!』


 メテルはピシャリとゼスに言う。


『えっ? だって……だってルクメネが言ってたもの。〈ゼス様が林檎をくれた〉って』

『何!?』


 ゼスは唖然としメテルはゼスに飛び掛った。ゼスは後ろに飛んで後退した。


『ルクメネに林檎は確かにあげた! でもそんな意味であげてない。枝に3つ実っていた林檎が1つ落ちたから、そばに居たルクメネが〈欲しい〉って言うからあげたんだ』

『え、でも――』

『その林檎は……こんな形で言いたくなかったけど、君にあげる為の林檎だった』


『はぁー! ゼス兄得意のその場限りの嘘ですね! どうせもう食べて無いんだから!』

『お前は黙っててくれ!』


 ゼスは飛び上がりとある1本の木に引っ込んだ。数秒後、枝を咥えて再びレトラの元に降り立った。

 

『嘘じゃない……君と一緒に、春にこの林檎を食べたくて温めてたんだ。卵の殻と一緒に』


 メテルは目を見開いた。真っ赤な林檎のいち部が金色に変色している。

 この林檎はファフニルにしかない特殊な林檎で、温めると長い時間を掛けて金色に変色した。金になる訳ではなく、ただ変色するだけだが、何千年と昔、人間側の国では取り尽くされ今あっちの国にはもう無い。

 卵の殻と共に温めたのは、卵の殻と共に温めた金林檎を食べた番は永遠に幸せになれる、という言い伝えがワイバーンの中であるからだった。


『嘘……ゼス兄が……ゼス兄が……』


 メテルは顔を引き攣らせ固まった。そんな様子を見ていたレトラの周りにいた他の雌ワイバーン2匹が、レトラをゼスの前に押し出し、メテルの翼を噛んで後退させた。


『ゼス様……わ、わたし――』

『愛してる、レトラ。俺の運命の番』


 ゼスは両方の翼を広げ、天に向かって咆哮した。これを見たレトラは涙を流してゼスの翼に合わせ、両方の翼を広げ、天に向かって咆哮した。


 それを見ていたワイバーン達も一斉に咆哮する。レトラを慰めていた2匹の雌ワイバーンは目をキラキラ輝かせながら互いに抱き締めあっていた。

 メテルは口が開いて戻らない。


『良かったわぁー。ゼスにやっと運命の番が見つかって』


 母親であるレアは涙を流していた。ロスはそんなレアを見て呆れた顔をしつつも、ゼスがやっと番を見つけたことにほっとしていた。


『何これ』


 ワイバーン達はワイバーンの王子の結婚を祝福していたが、メテルだけはジトッとした目で見ていた。




***


「クラノス様。これは何がどうなったのでしょう?」


 ティティアは何が起きたのか全く分からず困惑の表情を浮かべていた。言葉が通じないため何がどうしてこうなって今何をしているのか分からない。


「ゼスが求婚の行動をとってそれにレトラが応えた。互いに合わせるように翼を広げてあの咆哮に応えれば成立するんだよ。イフロディも祝福するよ。今回はイフロディの眷属が祝福してるね」

「そうなんですね……でも、過程が全く分からなくて。ケンカはどうなったんです? そもそもこの子が泣いてたのは?」

「それはあっちで話そう。そろそろ城に戻ろう。君の身体が心配だ。帰ったら一緒に林檎を食べようか」

「林檎ですか?」

「うん、ワイバーン達の言い伝えに少しあやかりたくてね」


 クラノスはティティアを抱き寄せ、木を降り立った。そして小屋を出ると再び飛び上がって去って行った。

完全完結です。

過去作を読んで頂いた方がいるかわかりませんが、ラファル侯爵は前作にも少々出てきてます。

前作は悲恋ですので注意。


続きを書きたいのですが遅筆の為いつになるのか、本当に書くかも分かっておりません。

長めの後書きは活動報告の方にお書きします。


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評価(出来れば優しい)、感想(出来れば優しめの)、いつでもお待ちしております。

お付き合い下さりありがとうございました!

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