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番外編 眠り姫

 ティティアが眠りについて7日後――。

 深夜、マイアーレの下刻。

 クラノスとティティアの寝室――。



「ティティア、まだ目覚めないの?」


 寝台に眠るティティアに向かって、クラノスは言った。ティティアは1日数回、侍女スピラレが薬湯で身体を拭いている。その間も一切目を開けなかった。


 魔眼を発動し、ティティアの様子を見る。


 心臓部にある魔力の源は、燻るように揺らめいていた。いつものティティアなら、もっと燃えるように輝いている。


(魔力の回復が遅い……いや遅すぎる……)


 寝れば回復する魔力が、傷を無意識に治療しているせいか回復が遅れている。その傷の治療も遅い。リッカルドが想いを込めたからだ。その治療に手間取っているせいもあるだろう。


 寝間着からチラリと見える、噛まれた首筋が痛々しい。


『大丈夫でしょうか』


 側でレアが心配そうに尋ねた。


「傷を寝ている間に無意識に治そうとしているから、魔力の回復が遅くてね。あいつの想いが強いからなかなか治らない……本当に腹が立つ」


 悔しさに歯を食いしばった。あと少しでも遅れていたらと考えるだけで恐怖で身が震えた。ティティアにアストレアと同じ運命を辿らせていたかもしれない。


(恋愛のことに口を挟むべきではない……いや、問いただしたことによってアストレアが離れていくかもしれないと……何故あの時僕は……)


 カリストの匂いを感じた時に何も言わなかった自分を恥じた。それと同時にやらなければならないことが分かった。


 眠るティティアの手を握る。


「君に言っても仕方がないけど……アストレア。本当にすまなかった。君の辛い思いに気付けなかった。許してくれとは言わない。でも、僕は君を愛していたよ。そしてティティア……早く目を覚ましてくれないか。僕は君がいなくては生きていけない。胸が苦しくて仕方がないよ」


 そして手の甲に唇を落とした。薬湯で拭きあげられた手の甲からは、爽やかな香りがした。


『そういえば昔聞いたことがあります。口付けで永き眠りから目覚めた姫がいたと』


 レアがそう言い、続けて『試してみては?』と言った。

 

「小説の話だろう?」

『でもやってみる価値はあるかと。クラノス様の口付けにティティア様が何かしら反応するかもしれません』


 クラノスは少し考え「試してみよう」と呟いた。寝台に膝から乗り、覆いかぶさった。そしてゆっくりとティティアの唇に触れた。柔らかな唇はほんのりと温かかった。その温かさにほっとした。

 あまりにも動かないティティアに、死んでしまったかと何度思ったか。その度に心臓が止まる思いをした。


「ティティア……そろそろ起きてくれないか?」


 まずは額に口付けをした。そのままゆっくりと眉間から鼻先へと唇伝わせた。だが反応は無い。次にまだ腫れている頬に優しく触れた。唇を優しく押し当て、唇にも口付けをした。


 何度も啄むように口付けをすると、ティティアの唇が少し開いて大きく息を吸った。先程までギュッと閉じていた唇が開いたのは、違和感があったからだろう。


 クラノスはティティアのこの多少の反応さえ嬉しかった。


 再び唇を重ねる。何度も重ね、次に舌先でティティアの下唇を軽く舐めると、今度は歯列をなぞった。


(ああ……これはちょっと……)


 宜しくない。

 止まりそうになくなってしまう。

 舌を舐める前に慌てて顔を離した。


「駄目だね。反応は無い――……」


 先程までレアが居た方を見ると、もうレアは居なかった。外を見ればバルコニーの手摺にそっぽを向いて留まっていた。


「全く……」


 再び視線をティティアに戻す。首筋には愛の花の上から痛そうな歯型が付けられていた。この傷も治すのに手こずっているようだ。


 クラノスは不快な気持ちを吐き出すように大きく溜息を吐いた。


「それなりの罪を償って貰う……けどその前に」


 ティティアから離れライティングデスクへと向かう。椅子に座ると紙と羽根ペンを手に取った。


【エドガルド】

【君の愚かな息子のせいで我が妻が未だに目覚めない。今すぐ国を滅ぼしたい】


 ちょっとした愚痴を書き綴り、外にいたレアを呼んだ。

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