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4.どちら様

「ティティア・ビアンコ。僕の妻になって欲しい」


 誰もひと言も話さない。竜王が言った言葉に皆唖然としている。


「はい?」


 こんな急展開を誰が予想したのだろうか。理解が追いついていかない。


「うん、良い返事だ」

「え!? ち、違いま――」

「イフロディ、祝福して……そう、今。竜人族は今だから」


 竜王が独り言を呟くと、ティティアの右手と左手に糸のような細い光がまとわりついた。


(何これ……?)


 握られたままの両手を訝しげに見つめていると、光る糸の先が竜王の両手にもまとわりつき、2人の手を結び付けるとフワッと消えた。


「いいね、良い祝福だよ…………それは酷い侮辱だな」


 竜王は独り言を言ったあと、少しばかりムスッとした。そして気を取り直すように「さぁ!」とこちらを見て明るく言った。


「早速だが僕の城へ向かおう。どうせこの後馬車で来る予定だったのだろう? 馬車ではなく僕と行こうか」

「え!? ちょ――」

「ちょっと待てーーーー!!!!」


 リッカルドが急いで止めに入った。


「待て貴様! あっ、いや、お待ち下さい竜王様! ティティアは聖女であり、処女であることも重要ですので結婚など出来ません!」

「それずっと思っていたんだけど、いつからそう決まったの? 初代聖女のアストレアは結婚して子を産んだ後も聖女だったのに? 誰が処女好きだったのか知らないけど、そんなの関係ないよ」


 リッカルドの顔は引き攣っていた。周りの貴族達は苦笑いをしている。


「それに、君はティティアを隙あらば自分のものにしようとしていたように見えたけどね」

「ごごごご誤解です!」


「ふーん……まぁいい。ティティアは僕の妻だから、今後二度と手を出そうとしないでね」


 竜王はシッシッと手で追い払うような仕草をリッカルドにする。リッカルドは下がり、ティティアから離れた。

 

「疲れただろう?」

「あ、はい……いやそれよりも妻――……」


(あっ……ダメだ……眠い……)


 睡魔が襲って来た。魔力を消費し疲れた為だろう。立ち上がれそうにない。


「大丈夫かい?」

「はい……」


「だいぶ疲れているようだね。さっさと行こ――」

「クラノス様! 行かないで下さい! わたくしを捨てないで下さいませ!」


 足音を大きくたてながらダニエラは側へと寄ってきた。そして竜王のマントを懇願するように引っ張り、行く手の邪魔をする。


「ダニエラ、僕は君を拾った覚えはない」


 竜王はそのまま進もうとするも、ダニエラはマントを離さない。大きく溜息を吐いて、竜王は仕方なくマントを外して捨てた。

 竜王はティティアの真横に屈んだ。


「では行こうか」

「へ? わぁ!」


 竜王はティティアを横に抱きかかえる。俗に言うお姫様抱っこである。そのまま歩き出し、扉まで移動した。


「わたくしの方が貴方様の妻に相応しいです!」


 ダニエラは外されたマントを抱き締め、必死に訴えた。


「いいや、僕の妻に相応しいのはティティアだね。それにハッキリ言うが、僕は君が好かない。むしろ嫌いだ。君が城で何をしていたのか知っている。使用人達に我儘の限りを尽くし、傍若無人な態度で困らせていただろう。それだけでなく、僕の服を盗んだね? 何も言わなかったのは呆れていたからだよ」


「誤解です! 勘違いかすれ違いがあったんだと思います! クラノス様のお召し物は、そのっ、ほ、ほつれがありましたので縫おうかと――」

「では皆の者、失礼するよ」


 ダニエラの話を全く聞かず、竜王は指をパチンッと鳴らす。すると真っ白な靄が立ち込め周りが見えなくなった。その靄が無くなると、竜王の姿もティティアの姿もその場から消えていた。






(何がどうなってるの!?)


 周りを風が吹き荒れ、目を閉じた。顔に風が吹き付けられ、ぐんぐんと体に重力の負荷がかかるのが分かる。


「大丈夫かい? 寝ていても構わないよ」


 負荷が無くなり、竜王の声が聞こえ、そっと目を開ける。あたり一面真っ青だった。その青がとても美しく見惚れるばかりだ。だが何故こんなにも青が広がるのかと考え、これは空だと理解し、下を見ると地面が遥か遠くにある事に気付く。


「きゃあーーーー!!!!」


 必死に竜王の太い首にしがみついた。竜王の背中にある翼が動き、空を飛んでいる。落ちるのではないかと不安で仕方がなかった。


(怖い!)


「はっはっは! 可愛らしいな!」

「お、落ちるのではないかと……申し訳ありません!」

「構わないよ。さっきも言ったように可愛らしいからね。それよりも疲れただろう。守護結界3回分の魔力を使ったんだ。眠いだろうから目を閉じるといい」

「ですが――」

「目を閉じた方が怖くないよ」


 そう言われティティアは目を閉じる。こっちの方が怖くはないのかも知れない。だがその前に聞きたいことがあった。


「あのっ、質問があります」

「ん? なんだい?」

「何故私は失敗したのでしょう。竜王様に機会を貰ったら張れたのも分からなくって」

「ああ、それはあの腕輪のせい」


「……あの壊して下さった腕輪ですか?」

「そう。魔眼で見たらあの腕輪は魔法が掛けられていてね。だから壊させて貰ったよ」


(魔眼……? いや、それよりも殿下のせいで守護結界が張れなかったってこと?)


「そうだったのですね……ありがとうござ……い……ます……」


(はれ……? 眠い……ダメダメ、ちゃんとお礼を……)


「あのっ……助けて下さり……ありがとうございます……それで、さっきの………………」


「ん?」

「さっきの結婚の申し込みは…………」


 もう限界である。自分で意識が無くなっていくのが分かった。


(やっぱりダメ……眠い……今ではなくて……後で……)


「おやすみ、ティティア。僕の愛しい妻よ」


 その言葉を最後にティティアは泥のように眠った。そんなティティアを見て、竜王は愛おしそうな顔をした。








「ううん……」


 目を開けると見知らぬ天井が目に入った。


(ここはどこ……もしかして竜王城?)


 あれからどれくらいの時間が経っただろうか。

 そして守護結界の儀式での出来事を思い出した。竜王に結婚を申し込まれたこともだ。


「起きた?」


 横から声がする。見れば見知らぬ美丈夫が、一緒に横になってこちらを見ていた。


(私はまだ夢の中にいるのかしら……?)


 スラリとした手足に、金糸のような長い髪は夕陽の光を反射してキラキラと煌めいていた。透き通る様な白い肌に、切れ長の目、すっと通った高い鼻。長い金色の睫毛に、黄金の瞳は澄んだ琥珀の様だった。

 

 顔面国宝と言っていい顔立ちで、存在そのものが宝石の様だ。


 彼は起き上がり、ベッド横にあるサイドテーブルにあった手持ちの鈴を手に取って鳴らした。


「なんて綺麗な人……」


 つい見惚れてしまう。うっとりとした顔をしているのが自分でも分かる。


「ありがとう、ティティア」


 目の前の美丈夫が笑いかけてくると、額にキスをしてきた。夢ではない柔らかな感触にハッとして眠気が覚めた。


「ふぇあ!?!? どちら様です!??!?!」


 ティティアは飛び起きてベッドから落ちた。

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