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3.急展開

「竜王様!?」


 大神官が声をあげた。


 周りはざわめき、ダニエラは駆け寄って跪いた。その姿に皆ハッとし、手を胸の前で重ね、頭を下げた。


(あれが……竜王様……)


 初めて竜王の姿を見た。


 身体は人のような形をしている。ゆったりとした白い服に長いマント、服から見える首と手は、白と金の硬い鱗のような皮膚で覆われていた。鋭い爪をしており、脚は裾が足りていないのか、脛が見えている。その脚もやはり鱗で覆われ、人間の足とは程遠い形をしていた。背中には蝙蝠のような大きな翼が生えている。


 顔は蜥蜴に少し似ている。ちらりと見えた牙は鋭く、頭には2本の角が生え、尻尾もあった。


「あれが竜王? 二足歩行の蜥蜴じゃないか」


 参列者がポツリと呟いた。

 竜王が姿を現すことは無い。この屋根の上に留まる時も、白い靄がまとわりついているので姿は見えなかった。


 竜王城にいる者と1部の貴族しか見ることが出来ない。


 なので、ここに居る貴族の殆どの人物が竜王を見たことがない。


(凄く綺麗……)


 金と白に輝く鱗に、ティティアは見惚れていた。


「今すぐに守護結界を張りますので、暫しお待ち下さい」


 ダニエラが顔を上げ、頬を桃色に染めてそう答えた。


「君はもう聖女ではないだろう。彼女が聖女ではないのか?」


 竜王はティティアを指差した。


「違います! わたくしが聖女です!」


 必死に縋り付くように話す。そんなダニエラを見て竜王は溜息を吐くと、気にせずに此方へと歩いてきた。


 竜王は目の前に立ち止まる。


(大きい!)


 優に2メートルは超える長身を見上げた。どうすればいいか分からなかったが、跪いていないことに気付き、慌てて跪いた。


「顔を上げなさい」


 ティティアは顔を上げ、竜王を見つめた。


「……アストレア?」

「え?」

「いや、服が……懐かしい装飾品だね」

「あっ、装飾品はアストレア様と同じです」


 すると竜王は優しく「そうか」と微笑むと、1度目を閉じた後、再び目を開けた。

 先程と違い、竜王の金色の目が光っているように見える。大きな目が動き、頭からつま先までゆっくりと見ているのが分かった。


「ふむ、やはりな」


 竜王が瞬きをすると、目はもう光っていなかった。だが光っていなくても金色の目は美しく宝石の様だ。


「立ちなさい」


 慌てて立ち上がると「右手を」と言われた。そのまま言われた通りに右手を出すと、竜王に腕輪を掴まれた。


「悪趣味だね」


 そう言うと、竜王は手に力を入れてその腕輪を粉々に砕いた。


「ええええーーーー!!!!!!!!」


 驚きの声が聞こえる。リッカルドはとてつもない大声を出し、驚愕していた。


「なん、なっ、何をする貴様――じゃ、じゃなくて竜王!! あっ、いや、竜王様!! 例え竜王様であっても――」

「黙れ」


 ピシャリと叱り付けられたリッカルドは、悔しそうに黙った。


「娘よ、名前を教えて欲しい?」

「ティ……ティティアと申します」

「ティ・ティティア? 変わっている名前だね」

「あっ、いえ、ティティアです。ティティア・ビアンコと申します」

「ああ、そうか……ではティティア・ビアンコ。守護水晶まで僕が付き添い(エスコート)をしよう」


「……え?」


 ティティアとダニエラは大きな口を開けポカンとしている。だが直ぐにダニエラは口を閉じ、此方を睨み付けてきた。


「クラノス様! 先程も申しましたように聖女はわたくしです! ご覧になられたのでしょう! 守護結界は張られませんでした! 魔力はわたくしの足元にも及びません! なので今年もわたくしが――」

「ダニエラ」


 怒気を含む声で名前を呼ばれるも、ダニエラは気にしていないのか、興奮して分かっていないのか、嬉しそうに「何でしょう」と答えた。


「君がその名で呼ぶことを許したことはないよ。それに僕を騙せると思ったの? あれが何か分からないとでも?」


 竜王がダニエラを睨み付ける。ダニエラは口をギュッと閉じて俯いた。


 竜王は手を差し出す。ティティアはその手を取った。


(あれ……? あれーーーー!??!)


 急に鼓動が早くなる。ドキドキと胸が高ぶり、目の前の竜王が素敵に見えて仕方がなかった。恋をしているのかのようにドキドキする。


(落ち着いて、深呼吸……これは緊張、恋じゃない……ふぅ……でも何故……なんだか懐かしい気持ちがする)


 一緒に守護水晶へと向かう。竜王の手は鱗のせいか滑らかで、意外にも暖かった。ゆっくりとリッカルドの横を通り過ぎ、大神官を押しのけ、守護水晶の前まで来た。


「さぁ……」


 竜王はそう言うが、ティティアはどうすればいいのか分からなかった。2回失敗しているのだ。失敗した理由が分からないので、3回目も失敗するかもしれない。


「竜王様、私は――」

「僕を信じて」


 ティティアは1度躊躇して、守護水晶に右手で触れた。


「太陽神――」

「ああ、いい、そんなこと言わなくて。最後の部分だけ言うといい」


 大丈夫かなと思ったが、竜王が言うので大丈夫なのだろう。だがもう失敗が出来ないのは変わらない。まだある魔力を全て出し切ってでも成功させなくてはならない。


「天の壁、スジルファルムーロ」


 大事な1文だけ唱えると疲れが押し寄せ、ティティアは膝をついた。


 守護水晶はチカチカと点滅するように光る。


(お願い! お願い! 成功して!)


 今回失敗すれば、もう一度魔法を唱えることは出来ない。息切れをする程疲れている。


 次第に点滅は早くなり、無数の光の粒が現れ、その粒は守護水晶の頂点から飛び出し、ガラスの丸屋根からも飛び出す。

 窓の外を見れば、その光は四方八方へと飛んで行った。


 次は王都を包み込む様に降り注げばいい――だが。


「はっ、ははっ! なんだ! やっぱり失敗してる! 元からダメなんじゃない!」


 ダニエラは笑い、リッカルドはほっとしているのが分かった。


(なん……で……)


 光は降り注がない。そのまま真っ直ぐ飛んで見えなくなってしまった。


(なんで……さっき失敗して魔力が足りなくなったのかな……でも、もう無理。立ち上がるのも無理……竜王様がせっかく機会を下さったのに……)


 チラッと竜王を見ると、再び金色の目が光っていた。窓の外をじっと見て黙っている。


「クラノス様! クラノス様! 言ったではありませんか! ほら、こんな女に聖女など――」

「うるさいよ、ダニエラ」


 うっ、とダニエラは黙った。

 その間にリッカルドがティティアに近付いた。


「やはり君はまだ竜王城には行けないね」


 リッカルドの顔を見上げると、嬉しさを押し殺す様な気味の悪い顔をしていた。必死にニヤニヤする顔を抑えているのだろう。


「さっきも言ったように城へ行こう。良き医師をつけるよ。疲れてもいるだろう。だから私と一緒に行こう」


 そう言って腕を掴まれた。離して欲しく引っ張ると、より強い力で握られ痛みが走った。


「その必要はない」


 竜王が声を出す。


「お言葉ですが竜王様。ティティアは守護結界を張ることが出来ませんでした。まだ聖女にはなれません。ダニエラが引き続き聖女を――」

「だから、そんな必要ないよ」

「一体何を仰って――」

「成功しているよ、ティティアの守護結界は」


「……は?」


 リッカルドだけでなく、ティティアもその場にいる皆がポカンとした。どう見ても失敗している。王都に守護結界は張られていない。


「君は凄いね。全盛期のアストレアを思い出すよ」

「え?」

「歴代の聖女達は皆、王都に守護結界を張っただろう」


「はい。それに、そう教わりました。守護結界は王都に張る、と」

「あれは聖女達の魔力の限界が王都迄の範囲だからだ。でもアストレアは違った。この国全体を覆う守護結界を張っていたんだよ」


 確かに歴史書にはそう書いてあった。約1000年前、初代聖女アストレアの魔力は凄まじく、誰も彼女を上回る守護結界を張ることが出来なかったと。


「君は2回も無駄に魔力を消費させられたのにも関わらず、この国全体に守護結界を張ったんだよ」


 竜王がそう言うと周りはざわめく。信じられないと言った言葉が次々と聞こえる。


「だから成功」


 周りはまだざわめいていた。国を上げて大喜びする所だが、だが国王は行方不明でこの場に居ない。第一王子のリッカルドが祝福の言葉をまず掛けるべきだが、祝福の言葉どころかギリギリと歯を食いしばっている。


「その手を離せ」


 竜王はティティアの腕を掴んでいたリッカルドに注意をした。悔しそうにリッカルドは手を離す。ティティアは掴まれた部分を摩り、痛みを軽減させた。


 竜王は視線をティティアへ移すと、ニッコリと微笑んだ。


「いやー、とても気に入った。惚れた。惚れたよ僕は」


 竜王は悔しそうにしているリッカルドを気にせず、ティティアに声を掛けた。


「惚れ……え?」

「君に惚れたと言ったんだ。だから――」


 跪いて、ティティアの右手を取る。


「ティティア・ビアンコ。僕の妻になって欲しい」

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