28.古の竜
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ロスと共にクラノスは最速で飛ぶ。脇目も振らずに飛び続けた。竜王城へと近付くと、様子がおかしいことがひと目で分かった。
それだけでなく昔嗅いだ嫌な匂いがする。
『クラノス様……これはっ……』
目を凝らすと地面に落ちているワイバーンの姿も見えた。
「竜嫌香を焚かれたね……誰も作れないよう1000年前に文献は全て処分したのに……」
竜嫌香は竜と竜人が嫌悪する匂いだ。作製方法は失われており誰も作ることは出来ないはずだった。
(どこかに文献が残っていたのか? もしくは――)
そのまま飛び進め、城へと着く。
怪我をした使用人とワイバーン達が1箇所に集められ、怪我をしていない使用人達に手当てをされている。その中で執事ウノを見付け、クラノスとロスは降り立った。
「ウノ」
「クラノス様」
ウノは腕に包帯を巻き、他の使用人を手当てしていた。
「何があった」
「ティティア様と御友人を城内へと案内して暫くすると、突然、この城を取り囲むように煙幕が焚かれて、視界が悪く……それだけでなく全く鼻が効かなくなりました。ワイバーン達は次々と空から落ちてきて、騎士達が攻め入って来て私を斬りつけて来ました」
煙幕と竜嫌香を一緒に焚かれたのだろう。腹の底から怒りが湧く。ぐっと拳を握り締めた。
「応戦しましたら、騎士はどこかへ逃げました。他の騎士達は次々と皆を襲いました。軽傷者、重傷者はいますが死人はいません……ですが……」
悔しそうにウノは口を閉じた。そんなウノを見て嫌な予感がした。
「ティティアはどこにいる?」
そう聞くとウノは顔をしかめる。
「それが、スピラレが助けに行ったのですが、ティティア様の御友人に阻まれ、何処かへと行ってしまったようです」
「何だって!?」
「レアがそばにいましたが、どうなったのか……動ける者に捜索をさせていますが、まだ見つからず――」
『クラノス様、レアの声が聞こえます!』
ロスがハッとした顔をして言った。ワイバーンは竜人族より耳が良い。
「ウノ、話は後だ。レアの元へ行かなくては。ここは全て君に任せる」
「かしこまりました。お気を付けて」
クラノスは1歩先へ飛ぶロスの後を追うように飛んだ。
耳を澄ますと微かにワイバーンが喉奥を震えさせるような鳴き声――緊急事態を知らせる声がした。
『レア!』
ロスは地上へと向かい降り立つ。クラノスも同じように向かうと、そこにはレアだけでなく神官服を着た女が捕縛され、「いやー! 食べないでー!」と騒いでいる姿が見えた。
『ロス! 良かった……この女が――』
「ひいっ!! 空飛ぶトカゲが増えた!! 仲間を呼んだの!? 私を食べないで!!」
『いい加減落ち着きなさいよ!! 敵じゃない!! 貴女の事は食べないって!!』
「来ないで! いやー! 誰か助け――ッぎゃあ! 今度は人型の化け物!」
今度は半竜のクラノスが降り立つと、神官服の女はそう叫んだ。叫ばれたクラノスは無い眉をひそめた。
『なっ、なんてことを!! このお方は竜王――』
「いいよ、レア。この子に君の言葉は分からない」
『ですが――』
「それより、君はティティアの友人……えーと、ベルタだね」
新年の儀の時、上から見た事がある。大神官に楯突いていた女だ。
「えっ、何故……人の言葉を話す化けも……え? 二足歩行のトカゲ……もしかして………………竜王様?」
「うん、そうだね」
ベルタの顔はサァッと青ざめていく。クラノスはベルタに歩み寄ると、縄を爪で切り裂いた。
「も、申し訳――」
「ティティアの話がしたい。何故君はここにいる。ティティアはどうした」
ベルタはクラノスに説明する。自身がネックレスを着けられてからおかしくなったこと、意識は閉じ込められ何も出来なかったこと、ティティアを誘拐する計画だったことを話した。
レアも話に参加し、何が起こったのかを話した。
自身の甘さとリッカルドに腸が煮えくり返る。
「僕はトルリア城へと向かう。君は竜王城へ行くといい。レア、彼女を城へと案内して。送り届けたら念の為援軍を呼んで」
『かしこまりました』
「……え、な、何?」
レアはグイグイと神官服を口で引っ張った。
「食べないで!」
『食べないってば!』
「その子は敵じゃないから安心して。着いて行って」
「うう、わ、分かりました」
「ロス、行くよ。あの馬鹿王子と決着をつけなくてはね」
『かしこまりました』
クラノスは勢いよく飛び上がり、風を切って進む。
――冷静さ皆無だな、色呆け竜。
――ティティアで頭がいっぱいなんだよなー、色呆け竜。
「うるさい!!」
死後の世界エシュリオムにいる友人達に話し掛けられた。友人達の声は神殿にいる時か竜王城に居る時は繋がりやすく良く聞こえる。それ以外の時は繋がるのが難しいと友人達は言っていた。
それなのにわざわざ話し掛けてくるあたり、どうしても言いたかったのだろう。
――そんな事より急げ!! あの王子がトルリア城敷地内に入った。もう何も見えないし聞こえない!! 気をつけろ!!
友人の1人、英雄ユルがそう言うと、プツリと声が聞こえなくなった。
怒りを通り越した怒り。全身の血が逆流するようにゾワリとする。ファフニルを出て、大神殿上空を飛び、もうすぐトルリア城へと着く。
「ロス! 君はオルランドに今がその時だ、と伝えてくれ!」
『かしこまりました!』
ロスはクラノスから離れる。クラノスはそのまま真っ直ぐ飛び、トルリア城正面へと着いた。
(ティティアは――)
僅かなティティアの匂いを探す。探しながら違和感を抱いた。静かすぎる。騎士達が見当たらないのだ。
(何故……いや、今は一刻も早くティティアを探さなくては……どこに――)
『嫌っ!! クラノス様助けて!!!!』
僅かに聞こえた小さな声。ハッとして声がした方向を見ると、小さな建物が視界に入った。必死に匂いを嗅ぎ分ける。
ティティア特有の癒しの香りがした。
「ティティア!!!!」
クラノスは木造の建物へ向かいながらローブを脱ぐと、古の竜へと変身し、ティティアが居る建物の天井を剥がすように壊した。




