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27.真実 ※

R15要注意なお話

 トルリア城敷地内へ入ると、端にある平屋の別棟へと向かった。とても古い木造建築であまり使われていないような場所だった。


 腕を掴まれ、そのまま建物内に入った。中は埃や蜘蛛の巣なども無く、意外にも綺麗だった。


 廊下を歩き、部屋へと入る。そこはベッドが1つ置いてあるだけで、とても簡素な部屋だった。そして外がよく見える大きな窓が幾つもあり、何となく懐かしさを感じた。


 リッカルドは扉を閉め、鍵をかける。そしてその鍵を上着のポケットへと入れると、窓から外を見た。


 ティティアは扉に手をかけた。分かってはいたが、押しても引いても開くことはない。


「ここはこれから私達が愛を育む場所だ。つまりは君がこれから住まう場所。だが安心したまえ。今だけだ。あいつが君を攫いに来るかもしれないから、念の為ここを使わなくてはいけなくてね」

 

 苦々しい顔をしてリッカルドは言う。


「……クラノス様が来るかもしれないからって、何故ここを使うのです?」

「それは奴が来てからのお楽しみだ」


 そう言ってニタリと笑う。


「あいつを殺したらトルリア城に住まいを移してあげよう。感謝してくれ」


 1歩ずつ此方へ近付く。


「クラノス様が直ぐ助けに――」

「はっ、今頃アイツは狼人族と戯れているさ」


「……狼人族の争いというのは嘘なのですか?」

「嘘ではないよ。ちょっとばかり狼人とダニエラと遊んでもらうだけだ」


 にへらと笑うリッカルドに、全身に鳥肌が立つ。クラノスと同じ格好であることも嫌だった。


「その服は殿下に似合っていませんよ。着替えてきては?」


 こう言ったのは着替えている間に何とか脱出方法を考えようとしたからだ。


「それは私もそう思うが、代わりの服がここに無くてね。はぁ……ダニエラが盗んだこんな服まで着たというのに無駄だったな」


 リッカルドは再び溜息を吐く。


「さて、愛しい子うさぎ。愛の契りを結ぼうか」


 そしてこちらへと近付く。ティティアは後退りをした。


「殿下、殿下のように眉目秀麗で聡明なお方なら、私なんかより素敵な女性がいるはずです。それに私はクラノス様を愛しています。愛しているのはクラノス様だけです」

「だが私は君を愛しているよ」


 リッカルドの気味の悪さに、心臓を撫でられたようにゾワリとした。ティティアは近付くリッカルドに壁の端に追い詰められ腕を掴まれた。


「離して下さい!!」

「ずっとずっとこの時を待っていた。何年も、何百年も……再び君に会える時を」


「…………え?」


 強引に腕を引っ張られ、リッカルドに強く抱き締められた。


「愛している、アストレア」


 ティティアは耳を疑い、目を見開いた。


「な、何故――」

「その驚き方は、あいつ……クラノスから前世のことを聞いているんだね。でも、私のことは聞いていないんだね。前世では私と君の間には、子供だって出来ていたのに」


 初代聖女アストレアは第一王子のカリストと結婚している。カリストは国王になる前に、病で亡くなった。子供は1人産まれている。


「カリスト王子……?」

「そうだ。私には前世の記憶があってね。だが君にはないようだね。この家は君の生家をそのまま再現した。見れば少しは思い出すかと期待したが……まぁ、いい」


 リッカルドはティティアの髪をひと束掬い、口付けをした。


「あいつじゃない。君の夫は私なんだよ」


 リッカルドは真っ直ぐ見詰めてくる。真剣にそう思ってくれるのだろう。だが愛しているのはただひとりだ。


「申し訳ありません、殿下。前世では愛し合った仲かも知れません。ですが、今世ではクラノス様を心の底から愛しています。私を帰してください」


 シンと何の音も聞こえない。外の音さえも急に静まり、時間が止まったようだった。数秒後、リッカルドは気が狂ったように笑い出した。


「ふっ……はははは……そうか……本当にあの男が好きなんだな……そんな所も昔と変わらない……腹立たしいよ」


 そう言うとこちらを睨む。すると、無理矢理抱きかかえられ、ベッドに下ろされた。急いで起き上がるも、押し倒され、リッカルドが覆いかぶさった。


「殿下お願いです! お止め下さい!」

「ははっ……その台詞も昔と同じだな」


「……昔と同じ?」

「そう。忘れもしない、私と君が初めて愛し合った日のことだ」


 リッカルドは笑みを浮かべ、ティティアの唇を親指の腹でなでる。


「前世の記憶が無くて、嬉しさに涙が出るよ。もしあったのなら君はもっと警戒していただろうからね。だから過去について教えてあげるよ、私の子うさぎ」


 そう言ってニヤリと見下す様に笑った。


「私は何度もアストレアに愛の手紙を送った。だが一向に君は首を縦に振らない。だから1度だけしっかり話し合いたい、最後でいい、王都へ来てくれと願う手紙を書いた」

 

 ドクンと心臓が強く鳴る。


「アストレアは人を疑う事を知らぬ女だった。最後に2人きりで話したいと言えばそれに応じた」


 不意に吐き気がした。気持ち悪くて仕方がない。


「私はアストレアと話した。あんな奴との未来より、私との未来の方が希望がある。だがアストレアは『私は彼に一生を捧げる想いです』なんて馬鹿げたことを言った。だから私は酒を渡した。酒は苦手だと知っていたからね。だが身分が上の私が渡した飲み物を断ることは出来ない。無理矢理飲む姿を見て、罪悪感に苛まれるかと思ったがそんなこともなかった。むしろ心踊った。君は直ぐに酩酊状態になった。フラフラの君をベッドに連れて行った」


 話が違う。歴史書には仲睦まじい夫婦だったと書いてある。鼓動が早くなる。吐き気も止まらない。


「で、殿下の話が本当なら、カリスト王子はアストレア様を――」

「他人の事のように話すのか……前世の記憶なんてないから仕方ないか。まぁ、少しばかり強引に君と体を重ねたことにはなる。その時の台詞が『殿下、お願いです。お止め下さい』だった。何度も君は言っていたけど、私は無視をした。例え、クラノスの名前を叫ぼうともね」


 涙が溢れてくる。アストレアの悲しい気持ちが溢れてくるようだった。


「あの日に妊娠したのは嬉しい誤算だったよ。アストレアは私と結婚するしかなくなった。心底嬉しかった。でも今回は無理矢理ではなく、君が私を求めるようにしたかったんだが、腕輪をあのワイバーンに壊されたのでね」


 リッカルドの顔が目の前に迫り、右手が髪に触れ、頬に触れる。ティティアが恐怖と悲しみが混ざった目で見ると、リッカルドは右手で顎を掬い、親指でティティアの唇に触れた。


「残念だ」


 期待と喜びを含んだ声でそう言い、顎を強く掴まれると唇が重なった。


「んー!!!!」


(――ッ嫌だ!!!!)


 何度も口付けをしてくるリッカルドから、ティティアは無理矢理顔を背けた。リッカルドはそれでも頬にキスをし、耳にもキスをした。

 そしてふと下に視線を移しスカーフを鷲掴んだ。


「これは邪魔だな」


 巻いたスカーフを外される。すると、目を見開いてリッカルドの動きが止まった。


「何だこれは……」


 首元に触れ、唖然としている。ティティアはリッカルドの触れている場所がクラノスがつけた皮下出血の場所だと分かった。


「あの男は、もう手を出した……? 君はもう純潔ではないのか?」

「私は身も心も全てクラノス様に捧げています!!」


 そう言うと、リッカルドは怒りで呼吸が荒くなった。そして必死に冷静を取り戻そうと、両手で顔を覆い大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。


「許せない……」


 すると首筋に唇を這わせた。


「止め――」

「上書きしなくては、こんな痕をつけられて可哀想に」


 勢いよく首元に噛み付く。


「痛いッ!!」


 あまりの痛さに叫んだ。


「あいつではなく私の愛でいっぱいの身体にしてあげよう」

 

 怒りと愛情の狭間にいるリッカルドは不気味に笑う。ティティアは必死に暴れた。


「そう暴れないでくれ。私は心が広いからね、これで君の不貞を許してあげよう」

「不貞!? 私の夫はクラノス様です!!」

「黙れ!!」


 リッカルドはスカーフを裂いて2枚にした。そのうちの1枚でティティアの両手を拘束した。


「嫌っ!! クラノス様助けて!!!! ――んんっ」


 もう1枚の布を口に無理やり押し込まれた。


「ふっ……ははっ、いいぞ。なかなかに良い眺めだ」


 こちらを見下げ、満足気に笑う。


「愛しているよ――ぐっ!!」


 ティティアは隙を着いてリッカルドの下に敷かれていた足を引き抜き、腹を蹴った。次に痛みで前屈みになった顔を蹴る。


 何度も蹴り、必死に抵抗した。今出来る最大の抵抗だった。だが左足首を強く掴まれ、程なく右足首も掴まれると、押さえ付けられた。


「このっ!!」


 リッカルドはティティアの左頬を殴り付ける。


「何度も愛していると言っているのに!!」


 ――殴る。


「何故分からない!!」


 ――殴る。


「私には君しかいない!!」


 ――殴る。


「分かってくれアストレア!!」


 ――殴る。


 5回強く頬を殴られた。じわりと血の味がし、左頬が腫れていくのが分かる。


「抵抗なんかしないでくれ……私だって殴りたくない……大人しく抱かれる方がいい。むしろ、私との子を再び孕めるなら名誉だろう?」


 ブンブンと首を横に振る。無力な自分が悔しくて、涙が溢れて止まらない。


「はぁ……酔っていないからか前より酷く抵抗するな……睡眠薬でも飲ませるべきだったか……まぁ、いい」


 リッカルドは再び覆い被さる。


「あいつとしたのは最近か? どっちの子を孕むのかな」


 薄気味悪い笑みを浮かべ、足を無理矢理こじ開けられた。

 すると地響きがし、ガタガタと部屋全体が揺れ動いた。


「何だ……?」


 次の瞬間、轟音と共に天井が無くなった。わけも分からず目をぱちくりさせた。大きな音を立てて崩れ落ちたのだ。


 埃や粉塵が目に入りそうになり、1度目を閉じ再び開ける。そこには牙をむき出しにした竜が、こちらを覗き込んでいた。

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