表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/41

26.帰る場所

*****



「リッカルド殿下……?」


 振り向けば先程までクラノスがいた場所に、クラノスの服を着たリッカルドが立っていた。リッカルドは眉をひそめ、左腕を見たあとレアが持っている腕輪を見た。


 レアは腕輪を咥え、それを噛み砕いた。


(どういうこと……この腕輪でリッカルド殿下がクラノス様に見えたってこと!?)


 短い時間で必死に考えたが、そうとしか考えられない。


「こんなに早くバレるのは想定外だ……」


 大きな溜息をリッカルドは吐いた。ティティアはレアを抱き締める。ここにはいられない。いてはいけない。

 

「レア! 逃げるよ!」

『ピュ……』


 レアはゲホゲホと大量の血を吐き出した。


「レア!?」

「ははっ、小さくてもやはり竜だな」


 リッカルドは笑い、剣をこれみよがしに見せつけた。


「我が国が平和ボケをしていない頃に造られた屠竜剣『灰の爪』だ。博物館にあった遺物だが、案外使える物だな」


 灰の爪は知っている。1000年前、英雄ユルが使っていた剣だ。硬い竜の鱗をも突き破り、回復の早い竜の治癒能力を遅らせる剣だった。

 レアは力なく1度鳴いて目を閉じた。


「レア!!」


 ティティアは魔眼を発動させた。灰色の靄は全身に及び、段々と黒く濃くなっていく。

 

「大丈夫……大丈夫だから……」


 ゆっくりと治療し、少しずつ靄を無くしていく。表の傷口を閉じ、血は止まった。


(魔力を一定に……モヤを包む……)


 だが焦ってしまい1度魔力を多く流してしまった。レアは苦しそうに呻いた。

 心の中で謝り、深呼吸をしてもう1度流す。今度は上手くいったようで、レアは穏やかに呼吸をした。


「んー? 治りが早いな。威力が落ちているのか?」


 リッカルドは訝しげに灰の爪を見る。どうやら治療魔法を施したことに気付いていないようだ。


「レア、目を開けて……お願い!」

「何が問題なんだ。そんなの1匹死んだ所で」


 ティティアはリッカルドを睨み付けた。


「私は君の夫だぞ!! そんな目で見るな!!」

「私の夫はクラノス様です!!」

「違う!!!!」


 リッカルドはギリギリと歯を食い縛る。


 話の通じなさに恐怖を覚えた。リッカルドは顔を両手で抑え、震えながら「どうして」「何で」とブツブツと独り言を呟く。


「私はこんなにも愛して――……いやいや、私としたことが……冷静に……な……今はいい……」


 ゆっくりと深呼吸をして、リッカルドはこちらを見据えた。


「さて本題だ、ティティア。私と一緒にトルリア城へ帰ろう」

「嫌です。私が帰るのは竜王城です」


 そう言って1歩後退ると、リッカルドはこちらを睨み付けた。


「これが面倒だから、ダニエラの竜王収集物(コレクション)を使ったというのに……そのワイバーンのせいで……」


 リッカルドは少し考えニヤリと笑うと「ならば簡単な取り引きと行こう」と提案してきた。


「取り引き?」

 

 すると竜王城の方で悲鳴が上がる。


「今、竜王城では私が連れてきた騎士達が少しばかり動いていてね」


 リッカルドは剣を鞘に収め、懐から信号銃を取り出した。


「君が私と一緒に来るのなら、この信号銃を今すぐにでも撃ち、引き上げよう。だが来ないのなら、竜王城いる者を全員殺そうと思っている」


 息を飲んで竜王城の方を見る。怒りと恐怖で身体が震えた。クラノスが帰ってくるまで、まだ時間はかかるだろう。


「さぁ」


 リッカルドは右手を差し伸べた。


『ピュィ……』


 レアはティティアの右袖を噛んだ。行っては駄目だと言っている様だ。レアの怪我は大分良くなっている。命に別状はないだろう。


「レア……ありがとう。でも私はみんなを助けたい」


 ティティアはレアの頭にキスをして地面に置いた。

 レアは目を見開き立ち上がろうとした。だが咳き込み、前のめりになるとそのまま倒れた。


「――ッごめん。私は行くから……誰かが来たら助けを求めて……クラノス様には……短い間でしたが幸せでした、と伝えて」


 灰の爪を持っているのなら、レアをここに置いて行く方がいい。自身は捕まっても命は助かるだろう。だがレアは違う。先程のリッカルドの行動を考えると、あの剣で殺されてしまうかもしれない。


『ピュ、ピュワ……ピュ……』


 言葉が分からなくても、戸惑っているのが手に取るように分かった。


 ティティアは踵を返し、レアに背を向けた。リッカルドの元へと歩き「行きます」とだけ伝えた。差し出された手は取らなかった。せめてもの抵抗だった。


「ふっ、あははは!! まぁ、今はいい。徐々に君が私のモノだと自覚させるとしよう」


 ニタリと笑うリッカルドに嫌悪感を抱いた。後ろで力なくレアが鳴いている。リッカルドと共に歩き、徐々にレアの声は遠くなり馬車が見えた。


 馬車の前には大神官と先程レアに食べられかけていた大神官の側近が、包帯でぐるぐるに巻かれ立っていた。もう1人の側近は御者席に座っている。


「お疲れ様で……リッカルド殿下の姿ですよ?」

「少々色々あった。まぁ、これでも問題ない」

「かしこまりました」


 馬車の扉が開き、ティティアは中へ入るよう促される。


「……ベルタはどうしたんですか?」

「ベルタ? 誰――……ああ、君の友人か。そこら辺に転がっているだろう」


 その言葉に息が止まりそうになる。


「彼女に何をしたんですか!」

「時間稼ぎか? さっさと乗ってくれ。信号銃を撃つのをやめるぞ」


 そう言われ仕方なく馬車へと乗り込む。だが頭の中はベルタのことでいっぱいだった。


 リッカルドは信号銃を空に向かって撃つと、真横に乗ってきた。2人が乗ると扉が締まる。


 馬車は走り出した。王族所有の馬車は早い。一角獣(ユニコーン)と通常馬の交配種だからだ。土の道を走るので乗り心地が悪い。クラノスが戻ってくる前にファフニルから出たいのだろう。


 リッカルドは終始ご機嫌で鼻歌を歌いながらティティアの肩を抱いていた。あっという間にファフニルを出て王都リンポスへと着く。馬車は神殿を通り過ぎ、トルリア城敷地内へと入る。


 トルリア城では騎士達が忙しそうに走り回り、何かを準備していた。




***


『ティティア様……うっ』


 レアはティティアを引き留めようとする。だが手が上手く動かせない。強い魔力が一気に身体を巡った反動で身体が痺れている。


『駄目……行かないで下さ……行っては……』


 這いつくばりながら前へと進む。ティティアの後ろ姿が遠のいて行く。少しでも近付こうと、間に合わないと分かっていても前へと進んだ。


 こちらが何と言っているのか分からないだろうが、それでも懸命に声を出した。


 やがてティティアの姿は見えなくなった。暫くして信号銃が打たれ、自身の無力さに涙が流れた。


〘……駄目。泣いていては、助けを求めなくちゃ……城に……帰らないと……〙


 方向転換をし城へと戻ろうとすると、1度嗅いだ人物の匂いがした。それと同時に腸が煮えくり返る。


〘噛み殺してやる……ティティア様の御友人でも関係ない……〙


 あの女がよく分からない物を暖炉に入れ、ティティアを連れ出したのだ。


 到底許す事は出来ない。


 ゆっくりと這いつくばりながら、ジリジリと神官服を着た女が居るであろう場所へと向かう。


「この女どうする?」

「殺せって殿下は言ってたけどな」


 茂みの向こうから男2人の声がする。草むらから覗くと、騎士2人の足元に神官服を着た女が横たわっていた。それだけでなく女は縛られ、周りには真珠が散らばっていた。

 

 その様子を見て首を傾げた。


〘……仲間なのに殺す?〙


「そっか。なら最後に楽しむ?」

「赤髪そばかすは好みじゃない。顔も気が強そうで無理」


「こっちが願い下げだボケ!! あんたらもクソエロ王子も苦しみ藻掻いて死ね!!」


「うわっ、なんだこの女。神官のくせに口悪っ」

「やっぱ無理だわ。女は従順に限る。さっさと殺して引き上げよう」


 騎士の1人が剣を抜く。


〘やっぱりおかしい……〙


 女と連れて来た騎士が仲間とばかり思っていたが、そうでは無いらしい。すると、足元に1粒の真珠が転がっていることに気付いた。顔を近づけ匂いを嗅ぐと、あの時嗅いだ不快な腕輪と同じ匂いがした。


「私に変なネックレスつけやがって!! あんたらもクソエロ王子も呪い殺してやる!!」


 剣を引き抜いた騎士は大きな溜息を吐いて、剣を振り上げる。


 全てという訳ではないだろうが、何となく理解した。

 体の痺れはほぼ取れた。


 そして騎士2人を見据え、レアは茂みから襲いかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ