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21.助け1

 竜王城の外は煙で視界が悪かった。そんな中、使用人達が皆鼻を抑え、蹲る者や四つん這いになっているのが見えた。

 それだけでなく、血を流し倒れている者もいる。他にもワイバーンが地面に這いつくばって苦しそうに震えていた。


(この子達は警備の子達??)


 ティティアは言葉を失った。立ち止まり治療をしたいが、ベルタの力が強くそのまま引っ張られてしまう。


「あと少し」


 ベルタは倒れる使用人達には目もくれず、そのまま真っ直ぐ突き進む。視界が悪い中どうやって進むべき道を見つけているのだろうと目を凝らすと、青白い明かりが揺らめいていた。


(何だろうあれ……)


 段々とその明かりに近付くと、それが青白く光る石――光源石が地面に置かれているのだと分かった。ベルタはそれを拾いポケットへと入れる。


「こっち」


 ベルタは次の光源石の場所へと向かう。光源石はある程度の間隔で置かれているようで、ベルタはそれを目印にして進んだ。進むにつれて煙も薄くなる。


 33個目の光源石の場所に着き「ここで待つ」と、ベルタは虚ろげな目で光源石をじっと見つめて言った。


「ねぇ、ベルタ。これは何? 何をしたの? どうして……何があったの??」

「秘密」

「どうして! こんなことして秘密も何もないよ! ねぇ! どうしたの!」


 ティティアはベルタの肩を掴んで揺さぶった。ベルタは顔を顰め苦しそうに唸る。


「ティ……ア……ごめ……ううっ……」

「ベルタ?」

「こんな……こと……したくな……」


 ベルタは膝を着き、両手で顔を覆い、歯をギリギリと食いしばり、苦しそうに唸る。


「ごめん……げ……て……」


「……え? 何――」

「やぁ、ティティア」


 薄い煙の幕から聞き覚えのある声がした。ねっとりとするような低い声は最近までよく聞いていた声だ。


「大神官様……」


 騎士の甲冑を着た大神官が居た。窮屈で着心地が悪そうだ。ゆっくりとこちらへと歩いてくる。その後ろには2人の大神官の側近がいた。


「何故……ここにいるのですか……」


 理解が出来ず声が震えた。


「騎士のフリをしてここへと来た。案外バレないものだな」


 そう言ってニヤニヤと笑う。そして大神官の後ろにある馬車を指さした。


「さぁて、馬車に乗ってくれないか」

「嫌です。乗るわけがありません。それに、こんなことをしてクラノス様が黙っていません。直ぐここに駆け付けるでしょう」


 ここにいる人達に、クラノスが不在であることは言っていない。ならばこう言えばもしかしたら引き下がってくれるかもしれないと賭けに出た。


「ふっ……ははっ。今は狼人族の元にいるのにか?」


「……え?」


(どうして知っているの!?)


 驚き目を見開くと大神官は大笑いする。


「ティティア……逃げ……て……」


 横で絞り出すようにベルタがそう言った。見ればベルタは自身の真珠のネックレスを引っ張っている。


「ベルタ?」

「――ッ逃げて! ごめん! 早く逃げて!」

 

 大声でそう叫ぶと同時に、真珠のネックレスを引きちぎった。パラパラと真珠が地面へと落ちる。

 ベルタの行動に驚き目を見開くと「捕まえろ!」と大神官が叫んだ。


「ティティア走って!」


 ティティアはハッとして、踵を返して走る。


 2人の男が追い掛けてくる。1人は小太りのせいかだいぶ遅れて追い掛けてくる。目隠しになるような煙はほぼもう無い。

 そのまま竜王城へと続く道を走り続けるも、1人に襟首をつかまれた。


「苦しいっ! 離して!」

「さっさと来い!」


 抵抗するも、ズルズルと引き戻されてしまう。


(嫌だ……嫌だ! 誰か――)


「助けてーーーー!!!!」


 腹の底から声を出した。すると空から聞き覚えのある威嚇音が聞こえた。見上げればキラリと紫色の光が真っ直ぐこちらへと向かっている。


「レア!」


 レアは男にまとわりつくと、男はティティアから手を離し、腕を振り回した。


「なんだこの生き物は!! 離れろ!!」


 男はそう言うがレアはやめない。バサバサと大きく翼の音を立てながら、男に飛び掛かり耳たぶに噛み付いた。


「ぎゃあー!!!!」


 男は叫び声を上げ、耳のあった場所を抑えた。血が地面に落ちている。レアを見ると、男の耳を咥えていた。


 レアは耳を上を向いて飲み込む。


 男は尻もちを着き、腕で防御すると、レアはその腕を足の爪で引っ掻いた。鋭い爪は簡単に腕を引き裂いた。男は叫び、身体を丸めて身を守った。


 だがレアの攻撃は終わらない。脚を切り裂く様に動かし肉を引き裂いた。男が悲鳴を上げる。


「うわっ、なんだ!?」


 小太りの男が追い付いて来た。

 目の前に広がる光景に唖然とした。同僚が叫びながら小型の生き物に攻撃されている。

 呆然と立ち尽くし、ジリジリと後退りした。


「た、助け――ぎゃあ!!」


 後から来た同僚に助けを求め手を伸ばすと、レアは人差し指を噛みちぎった。男は泣き叫び、手を引っ込めた。


「うわあああーーーー!!!!」


 後から来た男は逃げ出した。丸まっていた男も力を振り絞り、一緒に逃げ出す。レアはその後を追おうとした。


「レア!! もういいからおいで!!」


 食べられている男が可哀想になり、両手を広げレアを呼び戻す。


『ピュイ!』


 口の周りを血塗れにして、満足気に腕の中におさまった。くしゅんくしゅんとクシャミをし、鼻を擦っている。どうやら鼻が利かず、直ぐに助けに来れなかったようだ。


「頑張ってくれたんだね……ありがとう」


(ワイバーンって人間食べるんだ……やりすぎだけど、今は褒めてあげよう)


 褒めて褒めて、と嬉しそうにしているので、叱ることはしなかった。


(このままどこかに逃げなきゃ……)


 今いる場所は煙が薄いが、竜王城付近はまだ煙が濃かった。このまま戻ればレアも辛いだろう。竜王城に戻れない。だが他の場所へ逃げても大神官の追っ手が来てしまう。

 ふとレアを見てワイバーンの小屋を思い出した。ここからは少し遠いので煙はないはずだ。


「ワイバーンの小屋に行こうか」

『ピュイ!』


 レアもワイバーンの小屋が安全だと思っている様で、何度も首を縦にしていた。


「うん、じゃあ戻ろ――」

「ティティア?」


 1歩踏み出すと、後ろから聞き慣れた愛しい声がした。声のする方を見ると、クラノスが立っていた。

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